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CONTACT:tomohfujii2121@yahoo.co.jp バランス・スコアカード(BSC)、経営戦略およびBSC・ITスキルアップ研修に関するご相談・依頼を承ります。

☆☆ バランス・スコアカード ☆☆
バランス・スコアカードは、企業をはじめ、公共団体や病院などにも導入が活発化してきている戦略的マネジメント手法の一つです。ここでは、その基本的構造を紹介しましょう。
☆ 全方位型戦略的マネジメントシステム−バランス・スコアカードの仕組みとは
 バランス・スコアカードとは、ハーバードビジネススクール教授のロバートS.キャプラン教授と、コンサルティング会社のデビットP.ノートン氏が編み出した戦略的マネジメントシステムです。このビジネス戦略手法の特徴は、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点からなる4つの視点をバランスよく採用し、業績評価をスコアカードで行う点です。4つの指標からなる評価によって,目標と達成度合いのギャップを数値で把握します。

 財務会計と顧客の2つの視点は,ステーク・ホルダーの視点に基づくカテゴリーです。財務戦略は事業の成長期には成長性,持続期には利益率,収穫期にはキャッシュフローの最大化を狙います。
 
 顧客の視点では,市場占有率,顧客定着率,新規顧客定着率,顧客満足度,顧客別利益、などの評価指標があります。
 内部業務プロセスの視点では,顧客と株主にバリュー(価値)を与え,戦略目的を達成するために最適な業務プロセスを評価します。一般的には、品質,コスト,納期,新製品導入率などで評価されます。
 学習と成長の視点は,組織の長期的成長に必要な基盤を指します。人材,ITシステム,モチベーションやエンパワーメント(権限委譲),から構成されます。
  
 経営方針と評価指標を明確にして、バランスのとれた4つの視点で経営を評価し、組織を階層的に整合させ、戦略的にマネジメントするバランス・スコアカードは、全方位型の戦略マネジメント手法といえます。
☆ バランス・スコアカードの戦略マップとは
 戦略マップは、バランス・スコアカードを駆使するための必須ツールです。戦略マップとは、一言で言えば、人材の学習と成長の視点 → 内部業務プロセスの視点 → 顧客の視点 → 財務の視点、の流れの順に沿って、経営改革の戦略のシナリオを作ることです。
 財務の視点は、経営成績の結果としての決算書に現れる数値で評価されるため、過去の視点ともいえます。
 顧客、内部業務プロセスは、現在の視点ともいえます。
 学習・成長の視点は人材の育成、変革能力の強化という意味合いから未来の視点ともいえるものです。
 このように、4つの視点を時間軸で眺めると、それぞれの視点が属する時間のゾーンは違っているということがわかるでしょう。
 戦略マップは、ゴルフのプレーでたとえれば、4つの視点は、到達すべきホールということになります。各ホールに到達するまでには、様々な障害が待っています。天候や、プレーヤーの体調、芝生の状況、ゴルフアイアンの選択など、プレーを成功させるためには、これらの外部環境、内部環境をうまくミックスさせて、最終ゴールに最高スコアで達成できるプレーにもっていけるように戦略のストーリーをプレーヤー自らが練る必要があります。
 戦略マップの基本構造は、4つの視点の各々に対して、戦略目標(KGI:Key Goal Indicator)、重要成功要因(CSF:Critical Success Factor)、重要評価指標(業績評価指標:KPI:Key Performance Indicator)、ターゲット(KPIの具体的目標数値)、アクション・プラン(実行具体策)から構成されます。
 4つの視点を構成する各種のファクターを原因と結果というつながりで、矢印で結んでいきます。その結果、戦略的な視点から組みあがったマップが出来上がってくるのです。
 経営トップのバランス・スコアカードは、事業部門長のバランス・スコアカード、グループリーダーのバランス・スコアカード、一般社員のバランス・スコアカードというように階層構造となってブレークダウンされていきます。この仕組みによって、全社の戦略マップは全ての組織階層において整合性を確保できることになります。階層間での戦略にギャップが発生して改革のベクトルがバラバラになるのを防ぐことができるわけです。筆者はこれをピラミッド・ベクトルと名付けています。

バランス・スコアカードは、経営戦略を策定し、業績評価に役立つ戦略マネジメントのビジネス戦略手法です。企業経営に抜群なパワーを発揮してくれます。

これらの視点を4つの全方位型に絞り、「四眼レフ経営」を実践できる点が、その存在価値の輝きを放っている理由です。一眼レフカメラは、非常に写りのよいクリアな写真を提供してくれます。バランス・スコアカードは、一眼レフカメラを4つ集めた「四眼レフカメラ」といえるぐらいに経営がくっりきとすばらしくよく見えてくるものです。

 

 なぜ財務の視点なのでしょうか。お金を使って、いくら優れた製品を世に送り出しても、その企業が儲からなければ、いずれ倒産してしまいます。財務基盤がしっかりしていて、資本市場の信任を得ることが企業存続の絶対条件です。その意味で、バランス・スコアカードは、財務の視点を採用しています。

次に、なぜ、顧客の視点なのでしょうか。性能や機能が優れていて、いくら見栄えの良いデザインを有していても、使い勝手が悪い製品や、アフターサービスが悪い製品には、顧客は見向きもしないでしょう。ここでは、顧客のニーズにマッチする製品コンセプトを明確にして、適正な価格で顧客に購入してもらえるかがポイントです。顧客の視点は、企業活動の存在価値を問うものでもあるのです。

 3つ目の視点である業務プロセスの視点についてはどうでしょうか。業務プロセスは、製品やサービスの「品質」・「コスト」・「納期」のレベルを左右するファクターを備えています。これら3つのファクターは、ものづくりの絶対条件といえるものですが、いずれかひとつでもレベルが下がると、製品・サービスは顧客のニーズを満足できなくなります。

4つ目の視点である学習・成長の視点は、企業組織を構成する人材の質に関わってくるものです。人材は、人財ともいわれるように、組織学習の繰り返しによって優秀な人材を育成していくことは、企業の永続性を左右するともいえます。

 バランス・スコアカードの4つの視点は、時間軸のゾーンが異なっています。財務の視点は、経営成績の結果として、例えば決算書のような経営数値で評価されるため、過去の視点といえるものです。顧客、業務プロセスは、現在進行形の活動状況に対するものであり、現在の視点といえます。


ここでは、顧客、市場、競合を分析し、最適な業務プロセスを編み出します。学習・成長の視点は人材の育成及び改革能力の強化を図るものであり、未来の視点といえます。これら4つの視点同士は、過去、現在、未来からなる全ての時間軸を備えており、見落としなく、業績評価をバランスよく行える特徴を持っています。

 ここで、新たな5つ目の視点として、たとえば、リスクの視点や環境の視点を加えることもできます。ここは、企業の特性や事業内容に応じて最適な視点を加えることにより、バランスのとれたコントロールができる企業経営を実現できます。

 バランス・スコアカードでは、業績評価指標にKGI(Key Goal Indicator)とKPI(Key Performance Indicator)というものを採用しています。

KGIは、企業における経営の最大目標を数値で評価するものです。「利益率10%達成」、「売上高2倍の必達」というように、経営の目標数値として資本市場に公開されます。

KPIは、KGIを達成するために具体的なアクション・プランにおいて、業績評価指標として詳細に細分化します。経営のモニタリング・パラメーターといえるものです。KPIは、4つの視点において、相互に整合性を持たせながら、各々に様々なものを設定します。それらの総和としてKGIの達成につながる必要があります。

財務の視点のKPIでは、売上高に比例して利益率も伸びているのか、低下しているのかをチェックします。毎月、どの程度、変化しているのか、目標値に対して、クリアしているのか、悪化しているのかをモニタリングします。KPIは、改革の実践の結果生み出された価値を目に見える形にしてくれます。経営的視点を用いて、時系列で価値やレベルを数値で評価するモニタリング(監視)の役割を担います。

 KGIの内容は、ビジネス改革の進捗具合や競合の状況、事業環境の変化に応じて、都度、軌道修正がかかります。それに伴って、戦略の変更が不可避となり、アクション・プラン及びKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)の見直し・修正や、新規設定、組み換えが必要になってきます。すなわち、全社的なバランス・スコアカードの見直しが行われ、業績評価の枠組みの衣替えが行われます。

 KPIは、目標値を高く設定した場合、それを達成できれば、企業として大きな収穫を得ることができます。しかしながら、企業の実力に見合わないような背伸びした目標値をKPIに設定すると、場合によっては、企業は暴走します。たとえば、無茶な販売ノルマを達成するために、社員が売上の水増しを行うケースがよくあります。

 このように、KPIは、諸刃の剣ともなる非常にナイーブな経営のモニタリング(監視)のツールなのです。KPIをどのような指標として選択するか、その数値をどのようなレベルに決めるかを検討する際には、競合と自社のギャップ分析だけではなく、関連部門間の十分な調整のもとに、企業の受容力や真の実力のレベルを様々な角度からよく見極めることが重要です。

 バランス・スコアカードに組み込んだ業績評価指標(KPI)が本当に現場で使いこなせる業績指標を選択できているか、事業環境変化に対応できないような意味のないものになっていないかチェックすることも必要です。

たとえば、競合のパフォーマンスが向上すれば、それに伴って、KPIの見直しが必要になります。あるいは、KGIが変更になれば、同時にKPIの修正軌道が必要です。KPIとは、KGIを達成するための具体的な推進指標ともいえ、親子の関係にあります。



☆ バランス・スコアカードにおけるKGI、KPI、CSFとは
 
 経営改革を進めていく際の目標達成度の評価指標として、KGI(Key Goal Indicator:経営目標達成指標)とKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)の2つがあります。
 KGIは、たとえば、3年後の自社の売上を3倍に拡大したいといったような財務の最終ゴールとも言える経営目標です。全社的な経営方針の具体化のために不可欠な経営指標です。
 KPIは、KGIの子供ともいえるものです。親であるKGIの期待を受けて、それを実現するために、具体的にどういった切り口で達成すればよいかを具体的なアクションで評価するための指標です。
 例えば、Aさんは、親として、自分の子供B君に優秀な企業の重役になって1億円プレーヤーの収入を確保できる高給取りになってほしいと願っているとしましょう。これが、AさんのKGIになり、最終ゴールの戦略目標です。優秀な企業に就職するためには、優秀な学校にいれて、家庭教師を付け、様々な習い事をさせ、その成績は、学校のクラスで3番以内でなければならないとします。これが、KPIになります。
 ここで、優秀な企業に就職するために、優秀な学校にいれて、家庭教師を付け、様々な習い事をさせるアクションが、アクション・プランというものです。
 ここでの重要成功要因は、一流の企業に子供を就職させることができるかどうかということが該当します。KGIとKPIの橋渡しをするものが重要成功要因(CSF)です。
 KGI、KPIは、具体的な数値で客観的に第三者が評価できるため、経営戦略の策定におけるモニタリング(監視、評価)の機能の役割を担います。
 ここで、KGI、CSF、KPIの3つのコンビからなるスコアカードは、財務の視点、顧客の視点、内部業務プロセスの視点、学習と成長の視点の4つの各々に対して作成する必要があります。
☆ バランス・スコアカードとKPIというタイタニック
 
 バランス・スコアカードの活用で最も注意すべき点は、業績評価指標KPIのデザインにあります。最近の大手企業の事故には、このKPIの設定において、現場の実態や現場の受容能力(Capacity)を無視し、効率経営一本に陥った経営陣の暴走がよくみられます。バランス・スコアカードは、全体最適を狙う企業活動を実践していくものですが、トップが誤った経営方針を全社的に浸透させてしまうリスキーな側面を持っています。
 なぜならば、バランス・スコアカードは、経営トップからミドル、現場の担当者、従業員までが、一丸となってピラミッド・ベクトルを形成していくものであるため、巨艦のかじとりに失敗すると、その企業はとんでもない方向に進んでしまいかねないからです。最悪の場合、氷山に衝突するタイタニック号の悲劇に陥らないとも限りません。KPIは、巨艦の運命を左右する面舵であり、司令塔でもあるのです。
 現場に無理強いをするような高いレベルのKPIを設定し、過度なアクションプランの必達を強制する組織では、品質問題や安全事故問題、さらにはリコール問題が多発しがちです。トップによる飽くなき事業拡大や生産性と利益率の向上の鞭によって、事業活動の第一線にある現場従業員の受容能力が限界に達すると、組織構造は機能不全に陥るからです。
 ここでは、都合の悪い情報は組織間でよどみ、うまく流れていかず、フィードバック・アクションの遅延をもたらし、事が大きくなって発覚して、組織上層部が大慌てするという事態に陥ってしまうものです。
 かつて、ローマ帝国が、世界制覇を目指し、帝国のグローバル化の遠征を繰り返すことで、兵は病弊し、ローマ帝国の崩壊の遠因になったことは歴史が証明しています。
☆ ビジョンと戦略が推進力になる
 ビジネス改革の第一ステップでは、バランス・スコアカードの手法を活用し、全体最適の企業戦略の方針、ビジョンと業績評価指標を明確にします。
 企業経営では、明確なビジョンと戦略は、羅針盤の役割を担い、企業の浮沈を決定すると言っても過言ではないでしょう。
 経営トップが明確なビジョンと経営戦略、事業戦略を従業員に示すことができなければ、現場の第一線で企業活動に携わる幹部や従業員は、右往左往することになります。企業活動のベクトルが各部門でバラバラな方向に向いて統制が取れなくなり、経営資源の無駄使いやロスが発生して、企業経営は衰退の道を辿ることになります。バランス・スコアカードでは、明確なビジョンと戦略の設定は、企業の経営能力開発における推進力という位置付けにあります。
 ビジョンと戦略は、自動車におけるナビゲーターにたとえることができるでしょう。たとえば、大手自動車メーカーが「環境を重視した製品を市場に供給する」という明確なビジョンのもとに、「優れた技術力・生産力・販売力によって、5年後に世界市場シェアの10%を確保する」という戦略を打ち立てたとしましょう。この明確なビジョンは、自動車のナビゲーターでいえば、目的地の到達地点の住所をインプットしたことに当たります。 
 戦略では、どのようなアプローチによってビジョンを実現するのかということを明確にします。自家用車でいくのか、自動車は使わずに、やっぱり新幹線で寝ながら、ゆっくりとした旅の気分を満喫しながらいきたいといった基本的な方針を検討することになります。自動車と新幹線のいずれを選択するかによって、事前準備すべき内容も大きく異なってきます。事業環境の激しい中での企業経営において、戦略は、アプローチの選択を誤ると、場合によっては、存亡の危機にさらされることもありえます。
 戦略は、さらに、具体的な実行策として戦術(アクション・プラン)に展開する必要があります。その目的地に到着するまでの距離、必要なガソリンの量、及び所要時間の計算、食料の確保(あるいは、途中でのサービスエリアの確認)、その他、諸々の準備などを明確にしておく必要があります。たとえば、ガソリンはどうやって調達するのか、セルフサービスのガソリンスタンドを見つけて安く調達するのか、クレジットカードで支払うか、現金払いか、といったことを決める必要があります。このような具体的なアクション・プランが戦術といわれるものになります。
☆ 4つの視点が意味するものは
 顧客の視点では、企業は、企業経営において、自社製品やサービスに対する市場占有率(市場シェア)、顧客定着率、新規顧客獲得率、製品別顧客別利益率などの向上を追求します。企業経営におけるITシステムの存在価値は、これらの業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)の向上を実現していくための経営支援ツールとしてITシステムが十分にその能力を発揮できるかどうかにかかっています。顧客の視点とは、企業の経営ニーズをKPIで表現したものといえます。
 財務会計の視点では、企業の事業の成長性や利益率、キャッシュフローの向上を狙ったITシステムを構築する必要があります。ここでは、経営目標達成指標(KGI:Key Goal In dicator)が設定されます。
 以上のような顧客、財務会計における目標指標を達成させるために、企業では、内部業務プロセスにフォーカスし、業務プロセスの改善・改革を図っていきます。ここでは、製品・サービスにおける品質・コスト・納期、及び新製品の導入率などが主要な管理ポイントになります。
 学習・成長の視点では、経営資源の核となる人材開発を図ります。ここでは、ITシステムが情報・ノウハウの共有化を促進する役割を担います。組織としての学習効果を高め、成長を目指すためには、組織を構成する人材のモチベーション(動機付け)を高め、日々の業務に対するやりがいや達成感を味わえる企業風土の醸成が不可欠といえます。さらに、エンパワーメント(権限委譲)の仕組みにより、若手メンバーの潜在的能力を発揮させ、組織として活性化された状態に持っていくことが企業成長には不可欠です。
 
☆ 経営資源と企業環境を総合的に把握するSWOT分析
 バランス・スコアカードの戦略的アプローチでは、SWOT分析の併用が有効です。
SWOT分析では、企業を取り巻く外部環境(政治、経済、為替変動、業界、競合状況、顧客など)と内部環境(人、モノ、金、情報、組織、ビジネスプロセス、チャネル、経営状況など)を強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威,(Threat)の4つのカテゴリーで区分し、要因分析を行います。自社の強みを活かした事業機会は何かを探り、自社の強みによって脅威を回避できないかを検討します。また、機会に乗じて弱みを強みに転換する戦略を検討できます。さらに、脅威と弱みが鉢合わせになるリスクの回避策を練ります。このように、経営戦略策定において、SWOT分析は事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図るうえで不可欠な手法です。

☆バランス・スコアカードでマイホーム計画を立てる!
 
 頭脳トレーニングに役立つものには、ロジカル・シンキングやマインド・マップなど、様々なものがあります。 これらは、優れたツールではありますが、そこから体系的な戦略を生み出すには弱い側面を持っているといえるでしょう。
 
 バランス・スコアカードは、ハーバードビジネススクールのロバート・S・キャプラン氏らが開発したビジネス戦略手法ですが、環境分析の手法であるSWOT分析といっしょに使いこなせば、戦略思考を飛躍的に高めることができます。
「万物は流転する」と唱えた古代ギリシャの哲学者であるヘラクレイトスは、この世の秩序を支配する原理は、戦いと争いであり、物事の本質は隠れるのを好むとも言っています。ビジネスは、事業環境変化と競争にいかに打ち勝てるアイデアを生み出しうるかにかかっています。アイデアは、可視化されなければ、説得力を持たず、衆知を集めて戦略として実行することができません。
 バランス・スコアカードは、戦略の可視化にフィットするすばらしい機能を持っています。しかも、ビジネス戦略の策定だけに限らず、人生設計やライフスタイルの見直しの際に、優れた効果を発揮する戦略ツールにもなります。
 
 たとえば、マイホーム計画を立てるには、資金計画を練り、物件を調査し、パートナーや知人の意見、不動産会社などの話をよく聞いた上で、ああでもない、こうでもないといろいろと思いをめぐらしながら、時間をかけて購入物件の選定を行うのが一般的でしょう。
 バランス・スコアカードでマイホーム計画を練ることができるようでしょうか。答えはYESです。バランス・スコアカードでは、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習・成長の視点からなる4つに視点にフォーカスし、戦略を練ります。
 パートナーは、顧客の視点に関わってきます。資金計画は、財務の視点です。物件探しは、業務プロセスの視点です。知人や不動産会社から得る情報は、学習と成長の視点に関わってきます。
 
 ここで、これら4つの視点において、各々、KGI(最終目標:KEY GOAL INDICATOR)
を達成するためのアクション・プランを評価するパラメーターとして、KPI(業績評価指標:KEY PERFORMANCE INDICATOR)を設定する必要があります。PDCA(PLAN、DO、CHECK、ACTION)のC(CHECK)に当たるステップで、KPIが効果を発揮します。
 
 これら4つの視点において、機会・脅威・強み・弱みという内外の環境分析に役立つSWOT分析の手法を組み合わせて、戦略シナリオとしての「戦略マップ」を練るというプロセスを踏むことによって、バランスのとれた戦略的なアクション・プランを見出すことができます。
  
 このように、バランス・スコアカードは、人生設計やライフスタイルのチェンジに役立つ戦略思考ツールとなります。
☆ バランス・スコアカードとCRMによるアプローチ
■顧客消費プロセスへの浸透 
従来の商品中心のマス・マーケティングは時代遅れになって来ています。顧客中心のリレーションシップ・マーケティングCRM)やワン・ツー・ワン・マーケティングへの転換が事業の成否を決める時代に入っています。顧客への個別対応と信頼関係の強化がマーケティングの重要課題になってきています。
 特定の顧客のセグメントニーズに着目して掘り下げ、そのニーズに合った商品やサービスを開発、提供することにより、顧客との緊密な信頼関係を築くことがCRMでは重要です。顧客の消費プロセスに深く入りこむことにより、顧客のライフタイムバリュー(生涯価値)に接点をもつことができます。
 顧客との接点のチャネルにおいて、顧客価値を最大化するためには、統計的分析手法により、顧客の購買行動を徹底的に分析することがポイントになります。
 顧客ロイヤルティ向上へのアプローチ
 さらに、顧客に対し、ロイヤルティ向上のためのマーケティング活動が要求されます。
CRMの実践においては、新規顧客の開拓、既存顧客との取り引きの拡大及び維持管理が必要です。既存顧客に対しては、既に購入している商品やサービスの頻度・レベルを上げるアップグレードのアプローチがよく用いられます。また、既に購入した商品やサービスに関連した他の商品を販売するクロスセリングの手法も使うと効果的です。 
 特に、既存顧客の維持管理においては、既存顧客のライフサイクル・バリューの見極めが重要であり、維持管理コストを勘案した収益性の見通しを慎重に予測する必要があります。
 顧客行動の分析や購買行動パターン発見には、データウエアハウスによる科学的な分析手法を活用することが効果的です。
 さらに、顧客の購買行動データの収集においては、多様なデータチャネルから情報を補足する必要があります。たとえば、顧客との接点であるコールセンター、クレジットカード、Webサイト、携帯電話、販売員などが上げられます。
 CRMの情報システム構成としては、一般的に、顧客との接点をカバーするフロント・オフィス、顧客データベース管理及びデータ分析管理を受け持つミドル・オフィス、そして、業務データをカバーするバック・オフィスの3つの要素からなります。
 
■CRMとKMの融合
 
 今後の方向として、CRMとKM(ナレッジ・マネジメント)との融合のシステム形態が重要になってくるでしょう。複雑化する事業環境とニーズの変化の激しい顧客に対応したニュービジネスを開拓し、創造的な新商品やサービスを提供していくためには、顧客情報の体系化、再利用化、学習化を通じて、直接的な価値を生み出せるような知識のマネジメントの仕組みを構築していくことが大切です。
☆ バランス・スコアカードにおける業務プロセスの視点とTOC、SCM
 TOC、SCMは、製造業、流通業を始め、あらゆる業界に浸透してきている経営手法の大御所です。
 SCM(サプライチェーン・マネジメント)は、企業内外の垣根を越えて、供給活動におけるモノの流れ、情報の流れ、キャッシュの流れを価値連鎖として、参加企業間で最適に一元管理するものです。
 キャッシュフロー経営に転換していくために有力な戦略的経営管理手法として、脚光を浴びています。
 SCM(サプライチェーン・マネジメント)のアプローチは、全体の効率を阻害する要因であるボトルネックを企業活動の中で発見し、改善を加え、全価値連鎖の同期化、スピードアップを部門間、企業間の枠を越えて行う仕組みを構築することにあります。
 これにより、企業活動に関わる情報のシームレスな共有化を図りながら、トータルリードタイムの短縮化、在庫削減、売り上げ機会損失の低減とキャッシュフローの最大化を狙うことができます。
 TOC(THEORY OF CONSTRAINTS)についても触れておきましょう。この理論はイスラエルのエリヤフゴールドラット氏が提唱したもので、その著書である「ザ・ゴール」の小説仕立ての解説で一躍脚光を浴びました。
 最初に、サプライチェーン(供給連鎖)を構成するメンバーである各々の企業、ミクロ的にみると、部門あるいは製造工程において、プロセス・チェーン間の同期化を阻害しているサプライチェーン全体の供給スピードを下げてしまうようなボトルネックを発見します。そして、一旦、全てのプロセス・チェーンをネックのレベルに同期化させます。次に、ボトルネックを改善します。これらのステップを繰り返し、プロセス・チェーン全体の最適スピード化を図っていく理論です。ネックを拡張して捉えると、経営全般に適用できます。
 企業活動、生産活動をチェーンの連鎖にたとえたサプライ・チェーン理論(マイケル・E・ポーターが提唱)では、ここの構成要素の活動がチェーンに相当し、スループットはチェーンの強度に対応します。企業活動、生産活動のチェーン全体の強度は最も弱い部分の強度で決まります。すなわち、スルーップットの増大はこの弱いチェーンである制約条件の発見、強化を図ることにあります。
 TOCにおける企業のゴールの目指すものは、制約条件に着目して、販売時点でのスループットの最大化と在庫及び業務費用の最小化を達成することです。

☆ バランス・スコアカードにおける業務プロセスの視点とコンカレント・エンジニアリング(CE)
 源流段階にフォーカス 
 製品コンセプト及び目標コストを決定する源流段階のプロセスにおいて、開発、製造、物流、販売及びサービスの各部門の垣根を取り払い、同時並行処理による全部門一体の協調活動体制のもとに俊敏な製品開発を進めることをいいます。
 製造コストの70〜80%は製品企画段階で決まると言われています。すなわち、川下の製造段階、あるいは、調達段階でコストダウンを図ろうにも、改善の余地は限られてくることになります。
 コスト、品質を源流の開発段階で、前倒しで作り込むことにより、試作回数の削減による試作コストの大幅な低減を狙うことができます。さらに、製造の容易性の評価や現有設備とのマッチングの検討といった最適な工程設計や生産設計は、製品構造や形状が確定する前に、関連部門の担当者が同じ土俵で進めていくことが大切です。
 
■トータルコスト・マネジメントの視点
 大競争時代ではコストは事業の生命線です。今後は、廃棄及びリサイクル化まで含めた製品ライフサイクルコストを一元的にマネジメントできるような情報化の仕組みを構築していくことが環境経営にシフトしていくためにも必要です。
 特に、製造原価のみでなく、ディーラー・マージンなどの販売コスト、開発コスト、ユーザー・コスト、廃棄コスト、リサイクル・コストを、コスト要因が確定する製品企画及びマーケティングの段階で、しっかりと把握することが重要です。ここで、留意すべきことは、必要コストを積み上げてコストをはじくやり方は顧客主導の時代には受け入れられないということです。顧客が主役の市場においては、まず市場価格ありきなのです。市場価格から目標利益を引いた残りの中で必要コストを積み上げ、事業の規模、人員、設備などを計画していかなければ競争優位に立てません。
 このような引き算の発想による事業戦略、製品戦略のもとに、経営資源の再配分と最適化を図りながら、コンカレント・エンジニアリング活動を進めていくことが企業活動のキーとなります。
 企業経営における収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の視点は、バランス・スコアカードにおける財務の視点のKPIに使われます。
 バランス・スコアカード戦略では、PDCA(PLAN、DO、CHECK、ACTION)のサイクルをしっかり回すことが大切です。特に、財務会計の視点で、経営の評価を数値でモニタリングすることが重要です。 
  財務諸表を使って分析することにより、経営分析の切り口をうまく使いこなせば、会社経営の実態がくっきりと見えてきます。経営分析の基本情報は、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書の3つから収集できます。
 財務諸表の数値をいろいろな切り口で加工して計算すれば、各種の有益な経営判断データを導き出すことができます。業界・競合・時系列・目標値の比較によって分析することも有効です。業界情報、競合他社情報、数年間の過去の経営数値など、各種の経営情報をベースに、経営指標を相互比較することによって、事業の経営レベルを把握することができます。
☆ 決算書とバランス・スコアカード
 
 企業の決算書を読み解く能力は、ビジネスパーソンや投資家にとって必須能力となっています。新会社法が施行され、決算書の内容も変更になっています。従来の資本の部は、純資産の部と呼ぶようになりました。従来の利益処分計算書に変わり、新たに株主資本等変動計算書により、期首および期末における資本の増減を明確に理解できるようになりました。
 
 バランス・スコアカードは、業績評価のモニタリングの仕組みを提供する経営ツールであるため、有効な戦略的マネジメントシステムであるといえるでしょう。組織階層のピラミッド構造にバランス・スコアカードを組み込ませることで、組織を挙げての全社的なKPI(業績評価指標)のコントロールとモニタリングが可能になります。すなわち、決算書は、KPIによって組織的に監視できるわけです。バランス・スコアカードは、欧米では、IR情報の充実化には不可欠であり、資本市場からの資金調達には、必須のツールとなっています。その意味で、企業活動に従事するものだけでなく、投資家にとってもバランス・スコアカードは常識といえるでしょう。
 特に、決算書は、数々の優れた業績評価指標をステークホルダーに論理的に提供してくれるビジネス戦略手法であるといえます。決算書の数値は、経営分析という理論によって、企業の経営状況、財政状況を明確に判断できるものに価値転換されます。ここでは、経営数値に対する精緻な洞察力と企業経営の基本理論を熟知していることが重要です。