ITプロジェクトマネジメントの極意:ITPM INNOVATION

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 今回は、ITプロジェクトの極意について、ITPM INNOVATION(ITプロジェクト革新)の視点から、筆者の経験と知見を紹介しましょう。詳細は、拙著のIT関連の書籍をご参考にしていただけましたら幸いです。

□スキル情報の一元管理
 プロジェクトリーダーは、プロジェクトメンバー全員のスキル管理を明確にして、プロジェクト対象案件が要求するスキルの内容とレベルに対し、メンバーのスキルの内容とレベルが整合性をもち、マッチするかを十分に確認する必要があります。システムの仕様変更管理の巧拙は、プロジェクトの生産性に直結します。スキルのミスマッチは、プロジェクトの生産性の低下につながります。高度なネットワーク技術が要求されているにもかかわらず、優れたネットワーク技術者がメンバーに存在しない場合、ネットワーク関連の開発フェーズがうまくいかず、システム基盤の確立に支障を来たすことになります。

 スキル情報としては、メンバーの過去のプロジェクト案件での実績報告・評価データや人事管理データなどをデータ・ベース化して、一元管理する仕組みが必要です。プロジェクト案件とメンバー本人のスキルや適正のミスマッチは、本人にとっても不幸であるばかりではなく、人材という経営資源の有効活用を図るうえで、留意すべきポイントといえます。

□要件定義のステップがコスト・納期の生命線
 システムの仕様変更の発生は、プロジェクトを混乱の渦に巻き込むことにつながります。システムの仕様変更が発生すると、仕様変更に伴い、他の開発済みのソフトモジュールに大きな影響を及ぼします。後戻りや手直しが発生し、それに伴い、余分なコストが発生し、予算オーバーや納期遅れにつながります。

 そのため、クライアントのニーズは、要件定義の段階でしっかり把握する必要があり、十分な議論とレビューを行う必要があります。要件定義のステップは、コストと納期の生命線といえます。UMLの手法では、要件はマニュアル化してまとめるステップがあります。クライアントの立場に立って、いかにクライアントのニーズを吸収し、限られた予算・人員・納期の範囲で、システム開発に展開できるかがポイントになります。

 ここでは、システム開発の対象範囲(スコープ)を明確にし、クライアントとITベンダーの双方で十分なコミュニケーション管理による確認を行っておくとともに、契約書に明記しておくことが後々のトラブル防止には不可欠です。スコープを明確化していないと、クライアント側は「あのとき言ったつもりだが」、ITベンダー側は、「そのようなことは聞いていないつもりだが」というような水掛け論に陥ってしまいます。その結果、双方に相互不信の渦が発生し、プロジェクトの推進に支障を来たすことになります。

 このような事態を避けるアプローチの一つには、情報管理の徹底を図る仕組みを構築する方法があります。システム開発段階での変更仕様の要求が発生するたびに、その内容を文書化することで、水掛け論のトラブルが防げます。変更仕様管理ための文書では、変更要求日時、担当者、変更要求内容、変更目的、内容区分(バグ対応、操作性向上、機能向上、新規・改善・削除、など)、対応優先レベル(緊急実施、検討要、却下、など)、影響関連部門、見積費用、などの項目を記録します。

ステークホルダーを納得させるプロジェクトの評価軸を設定する
 プロジェクトの評価軸は、ステークホルダー(利害関係者)の納得のもとに設定することがポイントです。プロジェクト評価軸には、外部環境の視点、内部環境の視点、技術の視点、及びクライアントニーズの視点からなる4つの視点があります。

□プロジェクト評価軸における4つの視点とは
 プロジェクトの成否は、参加する利害関係者の評価で決まります。プロジェクトのアウトプットを客観的に評価するのは、ユーザである利害関係者です。利害関係者には、社内関連部門、社外取引先、関連企業などが関わってきます。プロジェクトリーダーとプロジェクトメンバーが、いくら精魂が尽きるほどにがんばっても、プロジェクトのアウトプットが経営効果となって現れてこなければ、そのプロジェクトは失敗したことになります。システムの定着化に齟齬を来たすと、システム投資は負の遺産となって、償却負担の増大化を招き、収益に影響してきます。

 プロジェクト評価軸は、外部環境の視点、内部環境の視点、技術の視点、及び顧客ニーズの視点からなる4つの視点で評価できます。
外部環境の視点では、外部環境・事業環境変化対応レベル、競争優位対応レベル、及び利害関係者(ステークホルダー)参加レベルの項目によって評価できます。

内部環境の視点では、ビジネスモデル創造・再構築レベル、業務改革レベル、経営資源変化対応レベル、組織変化対応レベル、企業文化・風土変化対応レベル、及びオペレーション・プロセス影響レベルによって評価できます。

技術の視点では、システム連携レベル、既存システム影響レベル、技術的難易レベル、技術革新レベル、要求スキル・ノウハウレベル、及び業界標準化レベルによって評価できます。
顧客ニーズの視点では、案件規模レベル(コスト)、必要要員規模レベル(コスト・納期)、予算規模レベル(コスト)、要求ソリューションレベル(品質)によって評価できます。

 各々の項目において、たとえば、5段階評価により、ある情報化案件に対して、現状の評価レベルに対して、目標とすべき評価レベルを設定し、両者間におけるギャップ分析を行い、認識されたギャップを埋めるために、いかなる戦略課題を設定し、情報化によってその戦略課題をいかに実現すべきか主要成功要因CSF(Critical Success Factor)の絵を描くことになります。ここでのCSFとは、経営面における戦略課題を解決に導くための主要な情報化テーマを指します。


□外部環境と内部環境の視点による評価とは
 ここでは、企業を取り巻く外部環境、経営資源にかかわる内部環境、技術、及びクライアントのニーズからなる各々の視点における評価レベルが情報化にどのような影響を及ぼすかを考えてみます。

 外部環境の視点では、まず、開発・導入した情報システムが、クライアント企業を取り巻く外部環境(経済・政治・他)及び事業環境(競合の動き、市場の動き、顧客ニーズ)の変化に対応できないものであれば、役に立たない、あるいは時代に逆行するオペレーション・システムとして評価されてしまいます。システム開発段階で前提条件として想定していた外部環境や事業環境が短期間に変化し、システムが完成してまもないころ、全く、システムが土俵の外に追いやられているケースに陥ってしまうパターンです。

 競争優位対応レベルの評価では、情報システムの主要目的として、競合に優位に立てるようなビジネスモデルを実現するために、ITを活用しているかという点がポイントになります。情報システムのリニューアル化を図って社内業務の効率化が図れても、業務が楽になっただけで、競合に勝るような経営指標の改善が達成されていなければ、情報化投資の効果は出ているとはいえません。
 また、新規情報システムの導入によって、売上の向上や市場シェアのアップが図れ、リードタイムや在庫が半減したといったような経営効果が見られなければ、プロジェクトは成功したとは評価されません。

 ステークホルダー参加レベルの評価では、たとえば、受発注関連の新規の情報システムによって、取引先企業などの大半に参加してもらえなければ、業務プロセスは、従来業務と新規業務プロセスとが並存することになり、かえって、業務効率の悪化を招く場合が多々あります。さらに、参加企業が少なければ、当然、参加企業のシステム加入・参加費用による運用管理収入の減少を招き、情報システムの運用管理コストの源資を確保できなくなってしまいます。

□内部環境の視点による評価とは
 内部環境の視点では、まず、新規情報システムの導入・改善などによって、従来のビジネスモデルの再構築や、新たなビジネスモデルの創造が図れるかといった切り口で評価します。さらに、業務改革が図れ、体質強化につながっているか、あるいは、組織構造が変化した場合に、情報システムが対応できるのかといったことも評価しなければなりません。

 情報システムが組織構造の変化に柔軟に対応できるような仕組みや仕掛けが備わっていない場合には、その情報システムは硬直化したツールとして、ユーザに活用されない事態を招いてしまいます。さらに、企業文化・風土変化対応レベルやオペレーション・プロセス影響レベルの評価では、新規情報システムの導入・改善によって、かえって従来のオペレーションに比べて悪化するようであれば、そのプロジェクトは失敗とみなされます。

□技術の視点による評価とは
技術の視点では、ネットワーク連携能力が強化され、システム連携レベルの向上が図れなければ、新規情報システムの効果は不十分なものになってしまいます。

さらに、新規情報システムが既存システムに与える影響も考慮されなければなりません。
システム化では、技術的難易レベルによって、開発期間や開発コストが左右されます。新規システムでは、技術革新のレベルが高いものをクライアントから要求されるケースもあるでしょう。

しかも、システム開発を担当するSEやプログラマーは、クライアントから専門性に裏打ちされた高いスキルやノウハウが求められるのが一般的です。特に、企業間連携の強化や顧客との接点の拡大の視点から、インターネットを軸に業界標準プラットフォームを取り込んだシステムの実現への要望が強くなっています。

□クライアントニーズの視点による評価とは
 クライアントニーズの視点では、クライアントの要求する品質、コスト、納期のレベルを詳細化することがプロジェクト推進の前提条件となります。いくらよい品質のシステムが完成しても、当初見積もりを大幅に超過するようなコストと納期遅延が発生した場合、プロジェクトは失敗に帰したことになりかねません。経営品質の向上と経営効果の追求を目的としたシステム化対象案件の実現コストを抑えたいニーズが、クライアントには必ず存在します。

ここでは、クライアントが解決したい経営課題に対するITソリューションを多くの選択肢の中から検討し、最小限の予算規模で、最大の経営効果を発揮できるようなシステム化がクライアントから要求されます。IT投資の回収を迅速に図り、経営効果を発揮させるために、クライアントはプロジェクトの推進期間の圧縮を要求して来るでしょう。

 以上のように、プロジェクトの評価では、多角的な視点で、クライアントのニーズをシステム思考の原点にして、十分に検討することが、プロジェクトリーダーの役割であるといえます。


□ SEの能力とビジネスモデル構築
ITパワーは、インターネット上で資本力の弱いベンチャー企業やニッチ企業が世界の電子商取引市場でビジネスを拡大することを可能にしました。これらの企業の中には、資本力に頼らず、競争優位性のあるビジネスモデルの創造や独自性で勝負することで、ニュービジネスを生み出しているところが多くあります。

情報システムがうまく機能していない企業では、トップダウンによる情報化アプローチの徹底化が図られていないところが多いものです。現場の声高なニーズに振り回されて部分最適に陥っている情報化のアプローチからの脱却を図っていくことが必要です。

経営戦略と情報化戦略が一体化してきている今日、ボトムアップ的な情報化アプローチでは、経営的効果の追求が不十分なばかりではなく、経営戦略課題に直結した情報化戦略を立てるのは不可能であるといえます。経営戦略に関わっている部門の管理者やトップは、情報化戦略の立案においては、戦略の立案の当初の段階から主体的に関わっていくスタンスが要求されます。事業戦略を勘案し、競合に対しビジネスの差別化を図れる情報システムは、経営効果となって大きなキャッシュ・フローを生み出します。

ここでは、全体最適化の企業活動のデザインをイメージできるかどうかが情報戦略の成否に大きく影響します。
SEは、経営トップや管理者との積極的な対面、レビューを繰り返し、クライアント企業が抱えている問題点の本質を捉え、経営課題の抽出に注力することが重要です。SEは、クライアント企業の経営戦略を十分に理解したうえで、経営課題の解決を図るために情報化戦略企画・策定を行い、主要成功要因(CSF)を見極め、情報化によって具現化するステップを踏みます。

□経営戦略の基本軸とSEの能力
競争優位に立つ企業に飛躍していくためには、限られた経営資源の最適化を図り、企業付加価値の最大化を目指したビジネスモデルを構築することが不可欠であるといえます。ビジネスモデルの再構築や創造においては、独自性のあるアイデアを情報システムに組み込み、ビジネスモデル特許で独占的ポジションを確保することが競争優位に立つためのビジネス基盤の形成につながります。

インターネットが普及し、電子商取引市場が拡大する中で、消費者と企業の購買行動は大きく変化しつつあります。このような時代の潮流に対応して、企業活動の新たなる仕組みを不断に追及していくことが企業のサバイバル競争の絶対条件になってきています。

そのためには、顧客ニーズを十分に把握し、IT活用により、業務プロセスの革新を図っていく必要があります。ここでは、顧客へのサービス、ロジスティクス、販売、生産、調達、設計、開発というように、従来の業務プロセスのベクトルを反転させて顧客の視点からビジネスモデルをデザインするというアプローチが重要です。ITソリューションには様々なものがありますが、プロジェクト案件の性格やクライアント企業の事業特性・実態にマッチしたものを取捨選択し、経営効果が発揮できるものが要求されます。

上級SEに飛躍していくためには、全体最適の視点で、顧客を起点ベクトルに据えた業務プロセスの革新を図るとともに、バリュー・チェーン(価値連鎖)の再構築を図ることで、ビジネスのスピードとコストを追求していく能力を身に付ける必要があります。

ここでは、経営的視点と情報化の視点をバックボーンにして、バリュー・チェーン(価値連鎖)に関わるビジネス知識の習得を図ることが不可欠です。各業界のオペレーション・マネジメントの基本をしっかりとマスターする必要があります。経営資源の最適化を図るために、人、設備の稼働率を高め、調達先を巻き込んだ企業連携の関係を確立し、競合に優位に立てるビジネス活動の仕組みを追求していく必要があるでしょう。企業の付加価値創造のシナリオを、いかなる業務プロセス及びバリュー・チェーンのデザインによって描くかということです。

ビジネスプロセスの評価基準として、ベンチマーキングによるベストプラクティスの手法がよく用いられます。これは、その業界での最適なビジネスの手法を実践している企業を評価尺度の対象にして、自社のレベルを評価し、両者のギャップを解消するための方策を検討するものです。

さらに、情報化の推進においては、プロジェクトマネジメントの能力を有することが、SEにとっては不可欠です。限られた時間、予算、納期、人員の制約条件の中で、様々なプロジェクト環境の変動要因に対処しながら、当初の目的を達成するには、リーダーシップの発揮による効率的なプロジェクト運営管理の能力が要求されます。