バランス・スコアカードとITマネジメント

―ITマネジメント

シリコンバレーの神経系ネットワーク

米国のハイテクの集積地域であるシリコンバレーは情報産業のリード役を果たしています。ここでは、インターネットがビジネス活動の神経系のネットワークとして、ビジネスマンにとって、必須のツールです。従来型の経営においては、トップからの経営戦略、事業戦略からの指示のもとに各個人がビジネスの絵を描いてきたのが一般的でしょう。現在、必要な市場情報や製品情報、その他、ビジネス活動に必要な情報は、インターネットから引き出すことが可能で、その場での即断即決の意志決定のビジネススタイルを可能にします。この意味で、インターネットは組織のフラット化とプルスタイル(引っぱり型)の情報活用を加速化させていると言え、情報が上位から下位に降りてくる階層型組織によるプッシュスタイル(押し出し型)とは、情報流通機能が全く違っています。インターネットのこのプル機能はシリコンバレーにおけるベンチャービジネスの新陳代謝を促すビジネスのインフラといえるでしょう。

○双方向コミュニケーションによる電子商取引市場の成長

このインターネットの持つ能動的なWebの機能は、ビジネスの分野のみならず、消費者に情報の発信者、受信者として、双方向のコミュニケーションに参加させ、消費者と企業が生み出す情報の蓄積と進化をもたらし、新たな付加価値を介した電子商取引市場の飛躍的な成長につながっています。

インターネットによって、Web上に現れる無数の情報から、新たなビジネスモデルによるサイバースペースでのビジネスが加速度的に生まれてきています。IT革命はコストがゼロに限りなく近いインターネットの情報を世界中に流通させ、売り手が潜在顧客を発見することが容易になり、製品・サービスにおける顧客の選択肢の幅は一気に拡大しました。 

サイバースペース上での電子流通による商品、サービスの新しいe マーケットプレイスは既存の店頭販売を始めとした従来のビジネスのやり方に対して市場撤退を迫ってきています。経営者はIT革命が経営の屋台骨を大きく揺るがしてきていることに危機感を持たざるを得ない時代に突入していることを認識しなければならないでしょう。



○ナレッジ重視型企業 

 IT革命は資本力の乏しい新規企業やニッチ企業を世界の電子市場に躍り出ることを可能にしました。資本力だけに頼った従来のビジネスモデルは競争優位性を失ってくる時代になってきています。アウトソーシングコア・コンピタンスの絶妙なバランスを経営の基本軸に据え、インターネットを事業の推進力に組み込めるナレッジ重視型の企業は21世紀をリードしていくe カンパニーとして勝ち組の土俵に残れるでしょう。最小の経営資源で最適化を図り、企業付加価値の最大化をいかなるビジネスモデルによって実現していくかという問いに明確なビジョンと実践力で答えうる経営者のみが資本市場で高い評価を受けることができるでしょう。

○購買行動の変化と顧客起点ベクトル

 一方、消費者と企業の購買行動は大きく変わりつつあります。インターネットで、製品や商品・サービスを選択・注文するのは利便性・コストの優位性から、購買スタイルとして定着してくるでしょう。このような顧客の変化の方向を機敏に捉え、顧客を起点ベクトルに据えた企業の業務プロセス、バリュー・チェーン(価値連鎖)にデザインシフトしていくことが新世紀型のビジネスモデルを追求していく基本的アプローチといえるでしょう。

 すなわち、従来のようにメーカ主導型の製品ありきの発想から脱却し、顧客ニーズを徹底して把握し、そこを起点にして業務プロセスをデザインするやり方への転換です。

 顧客へのサービス、顧客に到達するまでの物流、販売、生産、材料調達、製品設計、製品開発というように、源流に遡って、従来の業務プロセスの流れを逆転させて顧客の視点からビジネスモデルをデザインするというアプローチが重要です。

○ITマネジメントにおける視点とアプローチの転換

 このようなビジネスモデルを実現するためには、ITマネジメントはいかにあるべきでしょうか。限られた経営資源の中でいかにITを活用して、あるべきビジネスモデルをデザインしていくのかを検討していくうえで、従来のITマネジメントに取り組むときの視点とアプローチの基本的な有り方の転換を図っていく必要があります。具体的なところは次章以下で明らかにしていきますが、ハイパーエンジニアが目指すべきITマネジメントはコスト、品質、スピード、インターフェースの視点から戦略的かつシステム思考的な発想で情報化アプローチを検討していくことがポイントになります。従来、モノつくりの視点は品質、コスト、納期の枠ぐみの中でビジネスが行われてきました。

 しかし、IT革命時代においては、ビジネスに求められる最重要なファクターはスピード、及びインターネットを介して生まれるサイバービジネス空間における金、モノ、情報の流通性を決定するインターフェースの視点にシフトしてきています。製品やサービスにおける品質、コストはeビジネスの土俵に参加するためのパスポートとして企業が当然に備えるべきものという位置付けになって来ています。とくに、品質においては企業活動における事業リスクが多様化・複雑化する中で、製品やサービスを輩出するバックボーンとしての経営品質のレベルが問われてきています。

 ITエンジニアは、従来型のITマネジメント取り組みの視点からの脱却を図り、戦略的視点からITを経営に深く浸透させることができるようなITマネジメント能力を身につけていく必要があります。

 そのためには、問題及び課題発見型のITソリューションを経営的視点から駆使できるスキルが要求されます。MBAのシステム的戦略思考による発想力のレベルがITエンジニアの資質の評価基準として重要なファクターとなってくるでしょう。

―なぜIT化は失敗するのか

○戦略の運命共同体 

 それでは、ビジネスモデルの再構築や革新をどのようなアプローチで取り組んでいけばよいのでしょうか。ここでは、ビジネス活動におけるマネジメントおよびITマネジメントの2つの視点からIT化が失敗に帰する要因を検討してみましょう。

 情報化戦略はビジネスモデル特許が情報技術(IT)を活用した新規性のあるビジネスを対象としているという意味で、事業戦略に沿って、創造的なビジネスモデルをIT化でいかに実現していけばよいのかがポイントになります。特に、インターネットの活用における新規性のある仕組みが特許になるかどうかのキーになります。

 情報化戦略は事業戦略、経営戦略と連動し、整合性をもたなければ、トータルとしての経営効果は期待できないでしょう。これらすべての戦略は運命共同体といえるものです。いずれかが欠けたり、整合性が不充分な内容では、組織内部要因あるいは競合や技術革新、事業環境変化の外的要因によってビジネスモデルは音を立ててその基盤から崩れていく弱さを内在することになります。

 逆に、これらの戦略がうまく連携すれば、競合の企業に対する競争優位のみか、業界構造の創造的破壊による独占的ポジションの確立、新規のビジネスの創造さえ可能にするチャンスが狙えることも忘れてはならないでしょう。

○情報の共有化と組織力

 情報の共有化・シームレス化を進めていく上で、組織・部門間・協力会社間及び顧客との壁を取り除かなければ、情報の流通機能は作用せず、情報システムが孤立化して、いわゆる離れ小島の集まりの現象ができてしまうことになります。情報化を進める際、組織力学のアンバランスの問題は最も力点をおいて、十分な内外の組織・部門間のコンセンサスのもとにトップダウンで解決しておくべきものといえます。ここで、ハイセンスなプロジェクトマネジメント能力が問われるのはいうまでもないでしょう。

○システム的戦略思考の重要性

 いっぽうでは、現場の声高なニーズに振り回されて部分最適に陥っていた従来の情報化のアプローチからの脱却を図っていくことが重要です。マクロ的かつ鷹の目の視点で、全体最適化の企業活動のデザインをイメージできなければ、スピードとコストの追求は難しいでしょう。

 経営に深く関わってきている情報化において、システム的な戦略思考が特に重要です。米国の戦略の権威であるマイケル・ポーター氏は、戦略とはいかに競合に対し差別化を図れる競争優位なポジションを築きあげられるかをデザインすることであると言っています。競合に対し差別化できない情報システムは、負の遺産となるだけなのです。すなわち、システム思考による斬新なアイデアを情報システムに組み込み、ビジネスモデル特許で独占的ポジションを構築することが、経営的に競争優位に立つためのインフラ基盤の確保につながります。

 特に、企業にジャストフィットした経営管理手法を戦略的に導入・活用し、情報システムと連携させて、企業活動の仕組みそのものの戦略的ブラッシュ・アップを図っていくことが極めて重要です。いわゆる情報部門任せにしないユーザー参画型の環境作りが情報化の成否を決めるといえるでしょう。



○システム導入後の効果チェック体制の整備

 ここで見落としてはならないポイントは投資の狙いと情報システムの立ち上げ後の効果検証の組織的かつ継続的なフォローです。

 キャッシュフロー重視の経営の実践においては、経営効果を全社的にオーサライズされた客観的評価尺度で継続的にチェックする組織的な取り組みが不可欠です。当初の狙いに対して、達成できたところと達成できなかったところを明確にし、トップ及び関連部門を入れて、議論・反省を行ったうえで、システムの改善や運用方法の在り方の見直しを徹底することが重要です。情報化で失敗しているケースでは、この視点を忘れて、現場任せで、情報システムの絶えざる改善のサイクルができあがっていない企業が多いといえます。

 業務プロセス、組織構造、及び情報システムが事業環境の変化に追随して柔軟に変身を不断に図っていける仕組みが整備されているか、情報化の成否を決める重要なファクターはここにあるといえるでしょう。

―ITマネジメントのための経営における基本概念とは

○WIN−WINの構築

 ビジネスモデルの再構築や革新を推進していく前提条件として、組織や内外の関連する企業の垣根を越えた全体最適化の視点でビジネスモデル戦略を明確に打ち立て、全社的な共有化を図る体制作りが必要不可欠といえるでしょう。いわゆる企業間のB to B (BUSINESS TO BUSINESS)電子商取引のサプライ・チェーンをWIN-WINの関係で構築し、自社とサプライヤー(調達先)が相互のメリットを追求していくことが重要です。それではビジネスモデルの創造を目指した情報化戦略について考えてみましょう。

○オペレーション・マネジメントの最適化 

情報化の究極の目指すところは、ビジネスモデルの創造や革新を通じて、経営資源の最適化、コアコンピタンス(核となる競争力)の強化、競合優位の確立、顧客満足の最大化と収益力の強化を実現していくことであるといえます。

 経営とは、インプットとしての経営資源の最適化をいかに図り、アウトプットとしての企業の付加価値の最大化を実現すればよいのかという課題を、最適なマネジメントによるオペレーションをデザインし、実践を通じて解決していくことです。

 企業活動における人材、運転資金としてのキャッシュ、製品材料、生産のための設備、そして、それらをコントロールするためのベースとなる知識、ノウハウ、情報がインプットとしての経営資源です。一方、企業活動におけるアウトプットは顧客満足の最大化を目指すことであり、コストの最小化による企業収益大化のリターンが企業存続の条件です。

 ここで、最小限の経営資源のインプットに対する企業活動の結果としてのアウトプットの最大化をいかに実現していけばよいのかが情報化に与えられるべき課題といえます。オペレーション・マネジメントにおける最適化と競合に対する差別化を図っていくためには、人材・組織の見直しが重要であり、業務プロセスの革新も視野にいれなければなりません。企業付加価値の最大化達成の成否は、最適なバリューチェーンの再構築をいかに計画し、実現できるかにかかっているといえるでしょう。

copyright(c)2015 tomohisa-fujii All right reserved.



バランス・スコアカードとは?
 バランス・スコアカードでは、顧客の視点、財務の視点、内部業務プロセスの視点、学習・成長の視点からなる、バランスの取れた4つの視点で、企業戦略を検討します。
□バランス・スコアカード(BSC:Balanced Score Card)
バランス・スコアカードとは、経営戦略の立案を支援する手法です。ずばり、バランスの取れた4つの視点で経営のチェックをスコアカードで評価しようとするものです。
バランス・スコアカードは、戦略的マネジメントツールとして、米国のハーバード大学教授Robert E.Kaplan氏とコンサルタント会社社長David P.Norton氏によって考案されました。
バランス・スコアカードの手法は、1992年に世に出て、米国や欧州の大手企業で実績を積み、現在の隆盛をもたらしています。米国では、一般企業をはじめ、役所や病院など、公共分野でも数多く導入が図られてきています。日本企業においても、経営品質を向上させるための効果的な経営改革のための手法として多くの企業が導入してきています。
バランス・スコアカードでは、ビジョン・戦略の明確化を図ることで、全員参加型で戦略志向の組織を構築することが期待できます。バランス・スコアカードでは、経営戦略の立案を支援するために、大局的な発想力と全員参加による総力戦を重視します。すなわち、経営トップから、事業部門長、グループリーダー、一般社員までが、経営ビジョンを実現するために各階層レベルにおける戦略を練ります。ここでは、鳥瞰的な戦略マップというものが作成され、経営的視点として不可欠な4つの視点からなる評価によって、目標と達成度合いのギャップを数値で把握します。4つの視点とは、?財務の視点、?顧客の視点、?内部業務プロセスの視点、?学習と成長の視点からなります。ここで、長期的志向の経営を評価するための非財務的視点とは、?顧客の視点、?内部業務プロセスの視点、および?学習と成長の視点を指しています。
以上のように、バランス・スコアカードは、9つのファクターからなる多角的な戦略マネジメントに特徴があると言えるでしょう。9ファクターとは次の視点です。
 ・6つの時間軸:短期、長期、過去、現在、未来
・4つの視点:顧客、財務、業務プロセス、学習・成長

経営手法には様々なものがありますが、その多くは、一時の流行に流され、企業にとって本当の意味での経営改革、ビジネス改革につながるものは少なかったといえます。
バランス・スコアカードは、米国や欧州における数多くの企業や公共団体のビジネス改革の現場で実績に裏打ちされた経営手法といえます。その基本概念は、シンプルなものですが、企業経営を全体最適でカバーできる唯一の経営手法として、大きく進化し、オールラウンドプレイヤーとして脚光を浴びています。
当時、1980年代の米国では、財務の視点に偏りすぎた短期的志向の経営が産業界にまかり通っていました。そのため、長期的視点を中心とした日本の製造業に席巻され、企業経営の活力を失いつつあった米国企業は、産業競争力の回復に国家を挙げて取り組み始めていました。このような中で、Robert E.Kaplan氏らは、米国産業の衰退の要因分析を徹底的に行いました。この結果、米国企業の経営の活力を奪っているのは、当座の決算書をとりつくろう過程で将来を抵当に入れてしまう、短期的視点の財務偏重型経営であることを発見しました。長期的価値を生み出すために今日、企業は何をしなければならないかという視点が米国の企業経営者には欠落していたともいえます。ここには、会社は誰のものかという問いに対し、ずばり、株主のものであるという米国流の考え方が長期的視点を奪っていたともいえます。
バランス・スコアカードは、このような背景の中で、短期的志向の視点ともいえる財務の視点だけではなく、非財務的な長期的視点を取り入れて企業経営を評価するというフレームワークを提供するものとして編み出されました。顧客やステークホルダーに対してどのように企業は行動すべきか、競合に対しどのような業務プロセスに優れるべきか、そのために人材能力をいかに高め、ビジネスの変革を進めていくべきかという、企業戦略における基本的視点のパラダイムシフトを、Robert E.Kaplan氏らはバランス・スコアカードによってもたらしました。
 さらに、IT技術革新の視点からバランス・スコアカードの出現について考えてみましょう。従来の企業改革は、部分最適のアプローチが主流の考え方であったといえま
す。その背景には、IT技術の限界がありました。現在、インターネットの世界的普及とパソコン・携帯電話を含めた情報技術革新が起爆剤となって、情報の共有化手段は飛躍的に進歩しました。このITパワーは、企業のビジネス改革において、部分最適の発想から全体最適による企業改革の発想にシフトさせる大きな牽引力になりました。バランス・スコアカードでは、全員参加により、戦略マップを組織階層ごとに作成する仕組みによって、シームレスかつ鳥瞰的な戦略経営が可能ですが、ここでは、全員参加による情報の共有化や、ビジョンおよび戦略の共有化を促進させるITインフラの存在が大きなパワーを発揮しているのです。
全体最適という言葉は、SCM(Supply Chain Managementの略。取引先との受発注、調達、製造、在庫管理、物流でサプライヤーと消費者に関わる製品やサービスの流れを統合的に一元管理する経営手法)という経営手法により、部分最適に対峙する経営用語として、よく使われています。ここで、全体最適部分最適の意味するものはなになのか、考えてみましょう。
部分最適とは、企業についていえば、自部門や、自分が属している事業部のことだけを考えて、会社全体でどうなのかという視点で考えないことをいいます。協力会社とその親企業との関係でこのことを考えてみると、自社のメリットばかりを追及、あるいは主張して、協力会社のメリットや利益のことを考慮しない状況が、部分最適に陥っている企業といえます。部分最適では、有益な情報や経営資源は、力の強い部門や事業部に偏在し、会社全体としてみると、非常に非効率な経営資源の使い方をしていることになります。ある事業に参加する関連部門や協力会社は相互にビジネスに関係する情報は迅速にオープンに共有し合い、あたかも同じ屋根の下で共同事業体として一体のビジネス活動ができる状況が、全体最適というものです。
このように全体最適部分最適では、ビジネスを進める視点がまったく異なってきます。ビジネスに関わる生産情報や顧客情報、製品情報、さらには、今後のこれらの動向に関する情報などを関連部門、関連企業全てがネットワーク経由で共有できれば、ビジネススピードは一気に加速化されます。ビジネスに役立つ情報が豊富に入れば、当事者は生の鮮度の高いビジネス情報によって、ビジネスのリスポンスがスピーディになります。
 バランス・スコアカードはなぜ4つの視点なのか
では、なぜ、この4つの視点が有効であるのかを考えてみましょう。しっくりいかないことは早めに理解しておかないと、本書を読みすすめられなくなってくるでしょう。
□バランス・スコアカードの財務の視点と非財務の視点がなぜ4つなのか
バランス・スコアカードは、財務の視点に対して、顧客の視点、内部業務プロセスの視点、および学習・成長の視点は非財務の視点といえます。これら4つのバランスの取れた視点で全体最適の企業活動の仕組みを追及していく経営手法です。
ここで、4という数字の持つ意味を考えてみましょう。テーブルや机など、重量がかさむものは、すべて、4つの足で支えられています。これが3つの足になった場合、テーブルや机はバランスを崩して、倒れてしまいます。5つの足になった場合はどうでしょう。テーブルや机に5つの足があっても、そのうちの1本は、コストパーフォーマンスの観点からみれば、不要なものといえます。4つの足があれば、十分にバランスが保てるからです。見栄えもあまりよくないかもしれません。
このように、4という数字はモノのバランスを保つのにとてもマッチした数であることがわかるでしょう。そうなのです。バランス・スコアカードの4つの視点は、企業経営をチェックする上で、必須の最小限の視点で考案され、十分なチェック機能を発揮するものなのです。

ここでは、バランス・スコアカードの4つの視点がもつ連鎖というものを考えてみましょう。連鎖とは、原因と結果の関係のことであり、Why(なぜ・・・なのか)、Because(なぜならば・・・だから)、あるいはHow to Do(そのためにはどうすればよいか)の繰り返しという流れで物事のつながり(連鎖)を考えていくことをいいます。
たとえば、こんなケースを考えてみればよくわかるでしょう。ビジネスはなぜ成り立つか。すなわち、顧客があってのこそです。いくらいい製品やサービスを提供できる会社であっても、顧客をつかむことができなければ経営は成り立ちません。先ずは、顧客の視点がビジネスのスタート地点になります。
次に、顧客のニーズに応えるためには、いかにコストを下げて、売値を抑え、市場
価格にもっていけるかというビジネスプロセスが要求されることになってきます。バランス・スコアカードでいう内部業務プロセスとは、経営品質を上げていくためのビジネスプロセスの改善活動ということになるわけです。企業内部で、効率の悪い製品の作り方をしていれば、それは、コストアップにつながってきます。あるいは、製品に関与するビジネスプロセスにムダが多く、ビジネス情報が整理されず、一元管理がなされていないケースでは、いわゆるビジネスのオペレーションズ・マネジメントもレベルが下がってきます。内部業務プロセスの視点では、いかに早く安くグッドな品質の製品やサービスを提供できる企業活動の仕組みをデザインできるかということがポイントになります。ここでは、競合他社に対してビジネスプロセスが優れているのか劣っているのかといった評価も必要です。競合に勝ってこそ、市場におけるシェアの確保が保障され、ビジネスが成り立つからです。ベンチ・マーキングという手法があります。これは、競合と自社を多角的にビジネスのやりかたを比較、分析して、企業体質の通知簿を作成し、強みの強化を図り、弱みを強みに変えていく戦略を練る方法です。
以上のようなエクセレントな内部ビジネスプロセスを実現していくためには、その主役たる人材の能力のレベルアップを図り、ビジネスの実践の現場で、実力を発揮できなければなりません。すなわち、能力が不足していれば、スキルを磨くために、組織的な学習が必要になってくるわけです。これにより、人材の成長を図り、ビジネスをリードしていける経営資源が揃うわけです。すなわち、学習と成長の視点は、ビジネスを牽引する人材を評価する必須の視点になります。

最後に財務の視点というものは、ビジネスの究極のゴールです。顧客は見つかった、内部業務プロセスもすばらしいものだ、そこに存在する人材も申し分ない、ところが、ビジネスがいっこうにうまくいかない、すなわち、働いても働いても儲からないという会社も世間には多いものです。ここでは、財務体質の弱さが悪さをしているのです。
例えば、借金経営の会社では、儲けたキャッシュ・フローが全て有利子負債の返済に回り、利益を食いつぶす悪循環に陥ってしまうことになります。儲けた利益が企業内に蓄積され、社員、株主に還元されてこそ、会社の社会的責任が遂行され、社会的存在感が増すのです。このように、財務の視点では、企業が儲かっているのか、信用不安はない状況かといったチェックが不可欠になります。
ただし、バランス・スコアカードにおいて採用すべき視点は、4つでなければならないというものではなく、たとえば、地球環境重視が企業経営の根幹に関わるような製品を市場に提供している企業では、環境重視の視点というものを付け加えて、5つの視点でバランス・スコアカードを検討することもできます。あるいは、ブランド重視の企業戦略を進めている企業では、ブランドという視点を4つの視点に付け加えることもできます。あるいは、ステークホルダー重視の企業経営を行っている企業では、ステークホルダーという視点も追加すべきということになります。ここは、企業の事業特性や、企業を取り巻く環境要因によって、バランス・スコアカードを構成する視点の数と、企業戦略から判断したそれらの優先順位付けには様々な選択肢があるということなのです。

財務会計と顧客の2つの視点は、ステークホルダー(利害関係者)の視点に基づくカテゴリーです。財務の視点では、企業の事業の成長性や利益率、キャッシュフローの向上を狙った情報システムを構築する必要があります。ここでは、企業活動の経営目標として、経営目標達成指標(KGI:Key Goal Indicator)が設定されます。バランス・スコアカードのスコアカードがKGIを指しているのです。企業の経営レベルの通知簿ともいえるものが、スコアカードです。
顧客の視点では、業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)として、自社製品やサービスに対する市場占有率(市場シェア)、顧客定着率、新規顧客獲得率、製品別顧客別利益率などの向上を追求します。その企業が顧客ニーズをいかに具現化しているかを評価するためには、市場占有率を見れば一目瞭然です。市場シェアが大きければ、顧客に支持された製品・サービスを世の中に輩出できる魅力のある企業として評価されている証となるからです。顧客定着率が低ければ、その製品は品質が悪いため、顧客離れを起こしているかもしれません。あるいは、製品のサービスレベルが低下していることが顧客定着率の低下の原因となっているかもしれません。新規顧客獲得率についても全く逆の立場から、同様に考えることができます。
内部業務プロセスの視点では、顧客に優れた製品・サービスを提供し、株主に利益還元できる企業体質の強化を目指す必要があります。経営ビジョンに基づく戦略目的を達成するために最適な業務プロセスをスコアで評価します。一般的には、品質、コスト、納期、新製品導入率などで評価されます。品質では、製品の不良率がアップしていないかといったことがチェックされます。コストでは、コストアップを招いていないか、コストの低減の努力を継続しているかといった点を評価します。新製品導入率とは、人材や研究開発、設備投資に大きな経営資源を投入しているにもかかわらず、いっこうに新製品が出てこない状況であれば、その企業は、内部業務プロセスが空回りしているということになります。つぎ込んだ経営資源に見合うアウトプットとしての新製品が輩出される、企業活動のサイクルが実現してこそ、優れた内部業務プロセ
スが成立していると判断できるからです。ここでは、情報システムが情報・ノウハウの共有化を促進する役割を担います。
人材は、人財ともいわれ、無形資産(Intangible Asset)を生み出す源です。ブランド価値や特許、ノウハウなど、すべて、優秀な人材によって創造され、企業の競争力に不可欠なものが人材というものです。学習と成長の視点は、組織の長期的成長に必要な基盤を指します。①人材、②情報システム、③モチベーションやエンパワーメント(権限委譲)から構成されます。
バランス・スコアカードでは、人材の育成を図ることで、優れた内部業務プロセスを改善できる基盤が整備されます。組織としての学習効果を高め、成長を目指すためには、組織を構成する人材のモチベーション(動機付け)を高め、日々の業務に対するやりがいや達成感を味わえる企業風土の醸成が不可欠といえます。リーダーシップが組織の活性化とメンバーの能力発揮にはなくてはならない推進力の役割を担います。エンパワーメント(権限委譲)の仕組みにより、若手メンバーの潜在的能力を発揮させ、組織として活性化された状態に持っていくことが企業成長には不可欠です。
内部業務プロセスが改善されれば、顧客志向のビジネスを展開していくことにつながります。そして、企業収益の向上が見込め、財務の改善を図っていくことができます。財務体質の強化によって獲得した利潤は、新たなる人材の学習と成長に向けての投資につぎ込むことができます。4つの視点はこのように相互に連環を保ち、好循環のサイクルが形成されます。このような4つの視点の好循環のつながりがバランス・スコアカードでいう「戦略マップ」のストーリーの基本構造です。

アマゾンのプリントレプリカの改訂最新版は図解が鮮明です。

It Management Approach Essential

It Management Approach Essential

Financial It System Design Guide Book

Financial It System Design Guide Book

Essentials and Creating of Balanced Scorecard for Strategic Management (Straregic Management)

Essentials and Creating of Balanced Scorecard for Strategic Management (Straregic Management)

Essential of Strategic Management Theory (Straregic Management)

Essential of Strategic Management Theory (Straregic Management)

Essentials & Creating of It Management Approach (Straregic Management)

Essentials & Creating of It Management Approach (Straregic Management)

It Strategic Management Theory by Strategic Case Study and Training: Strategic Management Innovation

It Strategic Management Theory by Strategic Case Study and Training: Strategic Management Innovation

Balanced Scorecard for Women (Straregic Management)

Balanced Scorecard for Women (Straregic Management)

It Strategic Management

It Strategic Management

Balanced Scorecard for Business Innovation

Balanced Scorecard for Business Innovation

Strategic Management Theory

Strategic Management Theory

Kessansyo Dokkairyoku No Kihonn

Kessansyo Dokkairyoku No Kihonn

Balanced Scorecard Guide Book

Balanced Scorecard Guide Book

Finantial It Design for Strategic Management

Finantial It Design for Strategic Management

Balanced Sheet and Profit/Loss Analysis Training: 70 Analysis Knowledge for Strategic Management

Balanced Sheet and Profit/Loss Analysis Training: 70 Analysis Knowledge for Strategic Management