グローバル企業に飛躍できるバランス・スコアカード

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 まず、国内に目を向けると、第一に挙げられる中長期的な懸念要因は、人口の減少と高齢化問題です。高齢者にとって年金額の減少は避けられない死活問題です。また、少子化は国の活力を低下させる大きなリスク要因となっています。日本のマーケットは、今後、中長期的には縮小化し、衰退の方向に向かう予想が一般的ですが、世界に目を向けると、マーケットの成長が大いに期待できる国々も多くあることは確かです。日本企業がこの厳しいサバイバル競争に生き残る道は、いかに早くグローバル企業に変身できるかに一にかかっているといっても過言ではないでしょう。
 グローバル企業とは、どのような企業を意味するのでしょうか。一番端的に定義できるのは、オンリーワンの技術を備えた製品群で、その企業の売上高の海外市場に占める比率を少なくとも50%レベルに引き上げることです。経営の半分は、外貨で稼ぐことにより、グローバル企業としての条件を備えた企業として生き残ることができるでしょう。
 グローバル企業に飛躍していくためには、時間と投資が要求されます。時間をいかに稼ぐか。いかにスピーディにグローバル企業に変身していくか。ここでは、海外市場におけるマーケットシェア拡大に向けたビジネスモデルの戦略立案が要求されますが、重要なポイントは、打って出た海外のその国の国家政策に自社の描くビジネスモデルをうまく整合させていく手法です。その国の投資優遇策をうまく利用するとともに、マーケット成長が大いに期待できると見込める海外市場を制覇していくやりかたです。今後の大きな成長を期待でるマーケットは、東南アジア、インドあたりでしょう。
 最近の成功事例では、大手商社が、マレーシアの壮大なイスカンダル計画に参画し、空港近くに壮大なショッピングモールを建設し、安く良い商品を提供できるビジネスを展開し、成功している例が参考になります。イスカンダル計画は、マハティール首相が、今後、20年ほどの期間にわたり、約13兆円をかけて、隣国のシンガポールに負けない最先端の夢のような都市を創り上げる壮大な国家プロジェクトです。欧米やアジアの大手企業の資本参加のもとに推進中です。
 グローバル企業が備えるべき内部資源の条件に目を向けてみましょう。企業の経営資源では、ヒト、モノ、カネ、情報が必ず挙げられます。グローバル企業では、企業の買収や合併、資本参加も重要な経営戦略になってきますが、ここで、よくつまずくのは、ITシステムの統合や、従業員の経営参画意識の低下、業務プロセスが世界各拠点でバラバラなものになってしまうという問題です。

 グローバル企業にとって、ITシステムの整備や統合化は、経営の最重要課題に挙げるべきテーマであるべきです。ITシステムは、グローバル企業の事業競争力強化のための推進役を担うものであるからです。IT戦略は、経営戦略の推進役を担うと同時に、整合性のとれたIT・経営戦略のバランスをうまく図ることがポイントです。事業のグローバル化を進める経営戦略に、IT戦略をいかにマッチさせるか、この命題は非常に重要なファクターを備えています。
海外企業を買収したが、ITシステムの統合がうまくいかず、失敗した事例は数多くあるでしょう。ITシステムは、ある意味で、暗黙知の領域ともいえるものであるため、経営トップや幹部にとっては、理解しにくい領域の事象であるといえるでしょう。
 暗黙知をいかに形式知にかえて、経営の見える化を図るか、この問いは、経営の根本にかかわる非常に重要な問題です。IT化では、ビジネスにかかわる様々な情報や業務プロセスをいかに標準化の仕組みに仕立て上げ、暗黙知形式知に変換できるシステムとして構築できるかがポイントになります。
 事業環境は絶え間なく変わっていくことを前提に、ITシステムは、柔軟な変更・更新ができるようなITプラットフォームを選択することが重要です。さらに、自前の人材で、ITシステムの開発・変更・更新ができるようなIT人材の育成を図っていくことにより、事業環境変化に対応できるITシステムの運用が可能になります。

 ところで、経営活動では、まず、トップが定めた経営ビジョンという企業存続の絶対命題が全従業員に認知される必要があります。たとえば、10年後に売上高を3倍するという経営数値目標を掲げたとしましょう。このような経営目標数値は、KGI(Key Goal Indicator)と呼んでいます。
 このKGIを企業の各事業部、各管理階層、一般従業員までに落とし込んで、全員参加の業務改革活動につなげていける仕組みを構築することが、IT化の整備、統合化の前提条件となります。
 ここで、経営的なインパクトが期待できるのが、バランス・スコアカードという戦略的な経営手法です。
バランス・スコアカードは、米国のハーバード大学で開発され、欧米の名だたる主要大手企業のみならず、アジアや日本の企業・公共団体でも活発に導入されてきています。
 日本では、三菱東京UFJ銀行が、バランス・スコアカードの導入により、世界的なメガバンクに成長したことで有名です。
 バランス・スコアカードは、一言でいえば、全従業員の業務改革ベクトルを一致させ、全社一丸となった業務改革を推進させるための手法です。バランス・スコアカードには、全従業員が、各人の担当分野で、経営目標数値とその実行具体策について、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習・人材成長の視点、財務の視点で、記述し、PDCA(計画、実行、チェック、改善)を回していくシンプルな経営手法です。
 ITシステムの整備、統合化や再構築の際には、このバランス・スコアカードをうまく利用すれば、全従業員の経営参画のモチベーションのレベルの確認や、業務改革のPDCA見える化が全社的に図ることができる大きなメリットを見出すことができます。
 バランス・スコアカードの導入は、欧米機関投資家に対するIR効果も期待できるため、グローバル企業には、経営メリットが大いに期待できる戦略的な経営手法といえるでしょう。
 特に、経営がグローバル化してくると、人材の多様化が進むとともに、その企業のアイデンティが失われてくるケースも出てきます。世界中の各拠点の企業の構成員を束ねて、全社ベクトルを一本化する必要性に迫られてきます。企業の合併、買収、統合を繰り返すようなグローバル企業では、バランス・スコアカードは、そのパワーを大いに発揮してくれることでしょう。

図解 IT戦略マネジメント入門(改訂最新版)

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□ IT投資評価の基本的考え方

□ IT投資評価の基本的考え方
 ITの技術革新のスピードはシステムの陳腐化を促します。業界標準にマッチしたITテクノロジーの採用は、企業間における双方向でのオープンな情報のやり取りの実現のためには不可欠なアプローチといえます。自社のコア技術,業務・技術ノウハウ,強みのオペレーションや経営資源の最適化を図るために,どのようなITテクノロジーを選択し,情報システムのインフラ基盤を構築していくべきかを検討しなければなりません。ITのニューテクノロジーの導入では、現行システムとの技術的な整合性の検討も重要です。情報システムの変更、改善では、大きな再投資が不要なITデザインが要求されます。投資効率を十分に評価・検討し、クライアント企業の業態、事業特性にマッチしたITソリューションを選択できる能力が必要です。 情報システムのRFP(Request For Proposal:提案要請)では、クライアントに対して、複数の代替案を提示することがポイントです。少なくとも3案からなるITデザインをクライアント企業に提示することが有効です。

 IT投資効果を検討する際,複数のプロジェクトの優先付けには,会計利益率法などが用いられます。さらに、現在価値法や回収期間法などの投資評価手法により,事業採算に支障を来さない投資判断を行うことがポイントです。現在価値法では,投資金額を利率で割り引いて現在価値に直して投資効果を算出します。回収期間法では,予想される効果金額が何年で回収できるかを算定して,回収のメドが立つ期間・年数と回収基準期間・年数とを比べて,投資の意思決定を行います。基本的には、投資判断はクライアント企業のトップが行い、SEは、そのための情報提供の役割を担います。

ITプロジェクト推進計画書の作成と要求定義のポイント
 SEは,プロジェクトマネジメントの視点から、システム化におけるユーザ・ニーズを明確にし,推進スケジュール,開発体制,予算などに関する計画を立て,関係部門,関係者,経営トップの承認を得ます。さらに、システム化における対象業務内容を明確にし,ユーザ・ニーズとして開発技術者に提示します。基本計画はシステム化計画,プロジェクト実行計画,要求定義の3つに作業工程が分かれます。
□書くべき必須項目をマーク
 ITプロジェクト推進計画書の作成では,プロジェクトの狙い・背景をまず,明確に記述することが重要です。なぜ,情報化を進めなければならないのか,事業性や競合他社の動向,業界の動向,技術革新の動向など,企業内外の環境を十分に把握したうえで,現状の問題点を整理し,全体最適化の発想で,戦略思考でもって,問題点の解決策を練ります。さらに,問題点を解決するためのITソリューションの選択では、投資効果,現状のITの整備状況,IT人材の情報システムの運用管理能力やスキルなどを見極めたうえで,明確なソリュ−ションの絵を描く必要があります。
 プロジェクトの推進では,後戻りはできないという覚悟のもとに、様々な問題や障害に万全の体制をもって望む必要があります。登山に、万全の準備をして望む場合でも、気象条件の変化や思わぬトラブルなどに遭遇して、戦略の練り直しが幾度も要求されるのが常です。プロジェクトでは関係者が多数関わり、チームワークのパワーを発揮できるかどうかにより、プロジェクトの成否が決まるといえます。このため、十分な意見調整と情報の共有が図れる仕組みを構築することが不可欠です。
プロジェクトの推進スケジュールは、関連部門,関係者,ITベンダーとの調整のもとに明確にし、理解を得て、周知徹底を図ることが大切です。ここでは,①情報化のための現状調査・分析,ユーザ・ニーズのヒアリング,続いて,②システム設計,開発,テスト,③システム導入・本格稼働・運用管理からなる日程計画を記述します。システム化計画の記述では、投資額対期待効果の評価,開発の体制及び規模,技術革新の動向調査だけでなく、推進上の問題点・課題・対策なども明記します。
 企画書には,以上のように,プロジェクトの推進における必須項目を明記するとともに、IT投資効果の明確化を図るため、経営的視点で目標効果の明細をできる限り金額,数値で記述することがポイントです。

RFP(RFP:Request For Proposal)
 クライアントが、ITベンダーにITシステム導入の見積もりを依頼する際には、提案依頼書(RFP:Request For Proposal)が作成されます。ITシステムの投資検討では、複数のITベンダーに対して、システムの概要や構成要件、調達条件を記述したシステム提案を依頼する文書(RFP)が必要となります。RFPには、ハードウェア及びソフトウェアの構成、サービス内容、依頼事項、保証用件、契約事項などを明記します。
 
□要求定義のポイント
 要求定義ではシステムに反映すべきユーザの要件を明確にします。システムが持つべき機能,性能,運用管理要件やハードウェア,ソフトウェアへのユーザ・ニーズを集約化します。
  
 要求定義書では,次の項目を満たす必要があります。外部設計では、ユーザの視点からソフトウェアの仕様を決定します。画面や帳票などの仕様を明確にすることが目的です。業務で要求される機能や画面,帳票などのヒューマン・インタフェースのニーズを明確にします。

システム開発の手法を理解する
 システム開発では、ユーザのニーズをシステム化に反映するため,ムの開発に参画して,クライアント、ユーザ
及びクライアント情報部門と十分なコミュニケーションを図り,一体になって進めます。基幹業務システムの開発
では,開発の手順をモデル化したものとして,ウォータフォールモデル,プロトタイピングモデル,スパイラルモデ
ルの3つの開発モデルがあります。迅速な開発手法としてはRADがあります。
 ウォータフォールモデルでは,システムの開発の上位フェーズから下位フェーズに向けて,前工程の成果と次工程
に引き継ぎながら,順次開発を進めていきます。

基本計画―>外部設計―>内部設計―>プログラム設計―>プログラム開発―>テスト―>運用・保守

 作業のフェーズは,基本計画,外部設計,内部設計,プログラム設計,プログラミング,テストからなります。各工程ごとに成果物の検証作業が組み込まれす。これにより,前工程に戻るのが困難であるという欠点を防ぐことができます。ウォータフォールモデルによるシステム開発では,単体テスト,統合テスト(モジュール間のテストであり,結合テストともいう),システムテスト(システム全体の機能テストや処理時間,処理能力をチェックする性能テストであり,総合テストともいう),承認テスト(検収時に行うテスト),運用テストがあります。
 プロトタイピングモデルでは,開発段階で試作品(プロトタイプ)を作って,エンドユーザのニーズを十分に確
認しながら開発を行います。試作品の結果を以降のシステム開発工程に反映できます。エンドユーザに画面や帳票
のイメージを与えながら開発者と一体になって要求分析と基本設計を行います。
スパイラルモデルでは、大規模開発向きのウォータフォールモデルと小規模開発に向いているプロトタイピングモデルの長所を取り入れています。この手法では、システムの一部の開発から始め,サブシステムごとに開発し,発展的に成長させて全体のシステムにつなげいきます。通常、開発工程のリスク管理に重点が置かれ,ユーザの要求定義のステップでプロトタイピングモデルを用います。
 RAD( Rapid Application Development)では,短期間でアプリケーション開発を行うことができます。①キックオフミーティング、②要求定義、③外部設計、④開発、⑤導入のステップからなります。RADでは、特に、外部設計において、プロトタイピング手法を用いて、ユーザ・ニーズを明確にし、外部仕様を効率的にすばやく確定するところに特徴があります。開発のステップでは、CASEツールなど、各種のツールやソフトウェアパッケージを活用し、短期間の開発を実現します。プロトタイピングの開発では、ユーザの参画により、効率的なユーザ・ニーズの吸収を図ります。
□開発規模と生産性の評価
 情報システムの開発規模を表す項目としては、画面の数、帳票の数、端末の数、プログラムの数、プログラムのステップ数、開発工数などがあります。情報システムでは、限られた人員、予算、日程の制約の中で、当初の目標を満足できる開発を進める上で、開発の生産性の評価が重要になってきます。開発の生産性は、開発規模/開発工数 により、計画・実績の対比を行うことで評価できます。例えば、①画面の数/開発工数、②プログラムの本数/開発工数、③ステップ数/開発工数などで、開発の生産性の実績値、及び計画値を求め、差異を把握して評価します。
■ システム化の各種アプローチ
システム化では、システムを一から個別に開発するアプローチを採用せずに、ERPソフトウェアパッケージや、ASPなどを活用して、短期決戦型で低コストを狙う選択肢もあります。ここでは、スーパーSEとしてマークしておくべき基本的な開発のパターンを紹介します。
ERPとプロトタイピング手法
ERPソフトウェアパッケージによるシステム化では、ERPが本来備えている標準機能ではユーザ・ニーズを満たせない場合、プロトタイピングの手法が採用されます。システムの部分ごとのプロトタイプ(試作品)の評価を操作性や機能性などの面からエンドユーザによって行い、改善すべきところは作り直すというような一連のステップを繰り返して、ユーザ・ニーズを具現化していきます。
 プロトタイピングでは、作り直しが容易であるという手軽さに甘えて、ユーザ・ニーズの見極めと要件定義があいまいなまま作り直しを繰り返すと、プロトタイピングの開発コストが膨らみ、予算と納期のオーバーという事態に陥ることになりかねません。必要機能を明確に絞り、客観的な評価基準を明確にしてユーザと一体でプロトタイピングに取り組むことが重要です。ERPソフトウェアパッケージでは、当初の見積もり金額が開発完了後、3倍に膨らんでいたといった事例もよくあります。クライアント企業の現場の実態を十分に分析・調査し、パッケージの基本コンセプト、詳細機能を十分に確認し、関係者に満足な理解を得たはずだと思っても、ふたを開けてみると開発コストはいつのまにか膨大なものになっていたということに遭遇するリスクが、ERPの導入プロジェクトでは起こり得るということを忘れてはならないでしょう。

ERPソフトウェアパッケージの導入では、クライアント企業の実態にマッチしたシステム化を図るためには、ユーザ・ニーズの個別仕様をシステム化に盛り込む必要があります。
 カスタマイズは、新規機能の追加が必要なアドオン(機能追加)ならびに、機能修正が発生しないパラメータ設定、及び、パッケージ自体の機能修正を図るモデフィケーション(機能修正)から構成されます。
 アドオンでは、パッケージの持つ機能がクライアント企業のニーズを満足できない場合に追加機能の開発作業と追加コストが発生します。
 モデフィケーションでは、本来ERPソフトウェアパッケージに備わっている標準的な機能の修正を加えるために、プログラムやテーブルの変更を実施します。ここで注意しなければならないのは、安易にモデフィケーションを勝手に行うと、供給側のITベンダーからの機能サポートやバージョンアップサービスを受けられなくなるケースが多い点です。

図解入門 3分でわかるITエンジニア・PM・SEのための能力開発の極意: IT戦略論シリーズ

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 交渉力 マクロとミクロの視点

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CONTACT:tomohfujii2121@yahoo.co.jp
 交渉力を鍛えるには
 交渉力を鍛えるためには、現場での場数を踏んで、経験を積むことが効果的ですが、交渉力が冴えない、伸びないといった悩みに直面している場合は、基本に戻ることがポイントです。
□ 基本に戻る
交渉力を鍛えるにはどのようなアプローチが有効でしょうか。交渉力が冴えない、伸びないといった悩みに直面している読者の方も多いことでしょう。自己の能力を磨くには、基本、すなわち、自己にマッチしたアプローチや、自己の強み、弱みを常に振り返り、原点に戻ることがいかに効果的であるかが理解できます。自己の強み、弱みを認識し、そこをスタートラインにして、自己能力の開発を継続的に行うことが、飛躍していくための必須条件ともいえます。
 SEやプログラマーの世界でも同様のことが言えます。「苦手な業界の情報化の商談が舞い込んでしまったが、まったく、経験がない、果たして、きちんと交渉できるだろうか。上司にはっきりと、できませんといいたいところだが。」−読者の方の中には、このような悩みを抱えて、現状打破に躊躇し、途方にくれるケースに出会ったことがあるでしょう。
 あるいは、苦手な技術分野や、交渉やコミュニケーションがうまくいかないクライアントの案件に対応しなければならない場合もあるでしょう。苦手意識を抱えたままでは、本来の潜在能力を十分に発揮することはできません。
□ 交渉のテクニック
 交渉では、正攻法がクライアントの信頼を獲得するための最も優れたアプローチといえますが、現場では、正論だけで商談がうまくいくことはまれです。交渉の場では、人間心理を踏まえた交渉の展開がポイントになります。ここでは、心理学の知識も役立つでしょう。
 交渉では、お互いが納得できるような形で交渉が成立するスタイルが理想的です。いわゆるWIN−WIN関係(当事者双方が勝つという状態)が交渉成立には欠かせませんが、実際は、発注側に立つクライアントが、受注側にあるITベンダーに属するSEやプログラマーよりも交渉上、有利なポジションにあります。ここでいかに有利な交渉に持ち込むかは交渉力のレベルに大きく左右されることになります。敵を知り、己を知れば百戦危うべからずということわざがありますが、クライアントの内情はなかなか、明かしてくれるものではないのが一般的です。 
 ここでは、クライアントが何をこちら側に期待しているのか、その真意を汲み取ることに全力投球することが大切です。その期待に対して、いかに応えていくべきかというキャッチボールを繰り返すことで交渉を成功に導いていくことができます。ここでは、クライアントの様々な話題やアプローチに対して、真意はどこにあるのかという視点から、会話の内容をメモに書き留め、情報を整理して、再考することが有効です。
無理難題を持ちかけられた場合、間のとり方もポイントになります。一旦、宿題を持ち帰って、社内で専門家や上司を交えて十分に検討した上で、再度、足を運び、交渉に臨むアプローチもあります。ここでは、要求と譲歩の臨界点をしっかり認識し、事項を整理する必要があります。この交渉では、何が一番のネックになっているのか、そこを解消すれば、交渉は展開していくのかといった考察が要求されます。
たとえば、システム提案の内容は、競合の見積もり案に対して優れている場合でも、投資額が高すぎる場合やクライアントに実績がない新技術を採用している場合には、リスクの視点が優先して、交渉が難航することもあります。高い投資や新技術がネックになっている場合には、システムの段階的な導入により、投資リスクや技術リスクを避けることができます。
同時に、パイロット導入では、問題点の抽出の機会が与えられることになります。学習効果が期待できると同時に、確固たる実績に結びつけば、クライアントとの信頼関係を勝ち取ることも可能です。アプローチには、様々な工夫が可能であり、いわゆるシナリオプランニングの発想がここでは役立ちます。


 交渉に失敗した場合でも、落胆しているだけでは、交渉力の向上には寄与しません。新たなるビジネスを生み出すこともできません。ここでは、常にプラス思考を持って交渉に臨むことで、良好なクライアントとの人脈が形成されるという無形の付加価値が生まれることに意義があります。
 しかも、交渉の失敗の要因分析を行い、次の案件の交渉で活かすことができます。再度のチャレンジにより、新たな交渉の機会を見つけることも可能になります。このように、交渉では、プラス思考が交渉力の強化とリンクします。クライアントとのよりよい関係の形成に結びつき、次なるビジネスにつながることを心に留めておきましょう。


 SEに必須のマクロとミクロの視点を各種のケースごとに探り、応用展開が図れるような能力を身に付けることを狙います。

■ ビジネスプロセスにおけるマクロとミクロの視点とは
 SEがクライアント企業から与えられた情報化のミッションを達成するためには、ものの見方やアプローチのあり方をネットワーク時代にマッチしたものに変革していく必要があります。ここでは、大局的なマクロの視点と分析力を駆使したミクロの視点が要求されます。
 情報化のアプローチでは、現状の企業活動プロセスを全体最適化の視点から徹底的に見直すことが大切です。事業収益力が弱く、競争力のない企業では、いわゆる部門間の壁、事業部間の壁による部分最適に陥った事業形態、業務プロセスが幅を利かせていることが多いものです。
□ 競合と事業環境をいかに認識するか
情報システム構築では、クライアント企業の事業における業界ポジションを明確に把握する必要があります。クライアント企業の情報化ニーズでは、現状のレベルから、どの程度のレベルまでステップアップしたいのかということをしっかり把握しなければなりません。情報システムのデザインでは、ベンチマーキングが不可欠になるからです。ベンチマーキングは、先進的な同業他社や競合他社の優れたビジネスのやり方や業務プロセスを自社のものと比較して,目標基準を設定し,自社とのギャップを埋めるような改善活動につなげていく手法です。自社と目標とすべき成功企業とのギャップを分析し、埋め、重要成功要因の発見をベースに現状を改善し、改革へと導いていくことができます。ベンチマーキング手順は次の5つのステップからなります。
①対象の決定と実行プロジェクト体制の確立
②現行プロセスの分析と主要業績指標の設定
③ベンチマーキング対象企業・プロセスの選択・契約及び相手先企業での情報収集
④ギャップ及びプロセスの分析
⑤ベスト・プラクティスの見極め、適用と導入

ここで注意しなければならないことは、クライアント企業における競合の認識のポイントは企業のみではないということです。消費市場におけるライフスタイルの変化、価値観の変化もクライアント企業の脅威になりえます。あるいは、世界の数々の企業におけるビジネスのやり方、製品・サービスの新コンセプトや付加価値創出の新たな視点の出現なども経営リスクとなりえます。判断・評価基準・指標のグローバルスタンダード化などは、グローバルな巨大圧力となって、クライアント企業の事業活動にダイレクトに影響してきます。クライアント企業の競合は、マクロ的視点を駆使しなければ見えてこないという点を、上級SEを目指す読者はしっかりと認識することが大切です。
マクロ的な視点から事業環境と競合を十分に分析し、経営資源及び事業における強みと弱みを洗い出すことが重要です。情報化における企業付加価値の向上と競合優位を目指した企業経営の実現は、マクロ的視点とミクロ的視点をいかにうまくバランスよく使いこなすかにかかっています。
 まず、マクロ的視点で、大競争時代を概観してみましょう。競合は従来の業界のみから出現してくるとは限りません。企業間連携はビジネス改革のエンジンともいえるものになってきています。業界や業態の境界線を越えた新
業態の出現が企業活動のダイナミズムを創出する中で、潜在的なライバルの動向に絶えず注目し、動向の変化を監視して、クライアント企業に及ぼす影響を予測しなければ、クライアント企業の望む情報システムの構築は競争力を失ったり、十分に機能しなくなるリスクも出てきます。

全体最適というマクロの視点
従来の情報システムのアプローチでは、企業内において、部門ごとにプラットフォームや設計思想の異なった様々なシステムを部分最適の発想で作りこんでいました。このため、企業内では、データのやり取りがうまくいかず、データ変換の仕組みに多大なインタフェースコストを要していました。コード体系や帳票、オペレーション画面が統一されず、データ変換プログラムをあちこちのシステムで作ったり、データの二重入力、多端末現象などの問題を解消することができませんでした。企業間での情報のやり取りがスムーズに行える共通のITインフラも整備されていませんでした。
近年、部分最適の罠にはまっていた従来の情報システム開発のアプローチは、全体最適というマクロの視点を情報化に持ち込むことによって、パラダイムシフトを起こしました。
この背景には、業界共通のITプラットフォームやOSの進化、インターネット環境の充実化、普及拡大などの動きがあります。
 情報システムのデザインでは、まず、マクロの視点で、「全体最適ありき」の発想が重要になります。IT業界動向を常にしっかり把握し、陳腐化の早い情報システムにならないように、最新技術動向もチェックし、取り入れることができる能力開発が、SEには要求されます。

 キャシュフロー経営と情報化
 ここで、マクロとミクロの視点で、キャッシュフロー経営を概観しておきましょう。
キャッシュフローを重視した企業経営は国際会計基準に対応した経営を実践していくための必須条件です。SEは、ミッションを達成していくためのベースとなる経営的視点による情報化アプローチのあり方を十分に考察する必要があります。
□ キャッシュフロー経営とSCMの動向
キャッシュフローの改善を図っていくためには、売掛金や在庫を減らし、ビジネスリードタイムの短縮化を図っていくことが重要です。関連部門、協力会社とビジネスに関わる情報の共有化を図り、金、モノ、情報の同期化を図っていくことが可能な仕組みへのシフトです。顧客主導の時代では、顧客の需要に応じた市場連動型の生産により、在庫ロスの最少化を実現できる企業活動の仕組みを情報化で形成する必要があります。
サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、企業間連携のもとに、企業内外のハードルを越えて、事業活動におけるモノの流れ、情報の流れ、キャッシュの流れを最適に一元管理する仕組みにより、企業内外の関連部門・企業、サプライヤ間でシームレスな情報ストリームを実現できます。ITを活用した情報の共有化の仕組みにより、顧客の需要予測精度をアップし、在庫ロスを防ぎ、受注生産型の生産計画及び調達計画を目指す企業が増加しています。
顧客満足度の向上と収益力の強化、事業成長の実現を図っていくために、SCMの導入により、バリュー・チェーン(価値連鎖)の最適化を目指した企業連携の仕組みを構築する必要があります。米国におけるSCMの概念は、「SN(サプライネットワーク)」という手法で発展しつつあり、業界の電子商取引プラットフォームの標準化が進んでいます。SCMは、顧客、供給業者、製造業者、流通業者などがサプライチェーンに参加した、CRMを包含する「コラボレーティブ・サプライ・ネットワーク」に変化してきています。従来の「一対多(ONE2N)」による企業間取引の形態が変化し、インターネットのクモの巣(Web)状のネットワーク機能を活用した「多対多(N2N)」による企業間取引の形態に移行してきています。

□ SCMの実践モデル
 SCMにおけるビジネスプロセスの再構築では、クライアントの企業活動の価値連鎖のリデザインを行うに当り、インターネットを基本軸において、顧客の視点で販売方法、物流方法、製造方法、調達方法における各々のオペレーションのプロセスを見直します。
SCMの実践で成功している企業では、米国の大手コンピュータメーカーであるデルのビジネスモデルが際立っています。インターネット通信販売の手法を採用し、顧客とインターネットを介して直接、注文のやり取りを行うオンライン・ショッピングの仕組みを採用しています。
これにより、流通の中抜きを実現し、物流コストの低減とリードタイムの短縮を図っています。顧客満足度の向上と顧客囲い込みの強化を図るために、インターネットの連携機能を活用し、顧客の重要度に応じたセグメント別のWebのサイトを設け、顧客情報の一元管理をデータウェアハウスで実現しています。
製品在庫は一切持たず、IT(情報技術)活用による精度の高い需要予測の仕組みによって、顧客の注文を受けてから製品を短期間で組み立て、出荷できる方法を採用しています。
これは、BTO(Build To Order)と呼ばれる注文生産方式です。基幹部品はモジュールで適正在庫され、顧客の要求する仕様に応じて、迅速に手際よく生産されます。デルと協力会社は月次・週次ベースの需要予測、生産計画、受注状況の情報をリアルタイムで共有し、打ち合わせも担当者間で頻繁に行われます。

さらに、製品開発・製造・サービス並びに協力会社における顧客情報の共有化を図り、迅速なアクションにつな
げています。顧客サービスの向上を図るために、コールセンターを整備し、Webを介したサポートデスクにより、製品トラブルや顧客の質問にも迅速に対応できるサービス体制を構築しています。

■ プロジェクトマネジメントにおけるマクロとミクロの視点とは

プロジェクトでは、WBS(Work Break−Down Structure)によって、プロジェクト全体の作業内容を洗い出し、プロジェクト全体の作業負荷計画をもとに、構成メンバーのスキルレベルに応じた役割分担を決め、要員の割り当てを行います。
□ 運命共同体の認識がポイント
チームの構成員は運命共同体であり、情報が共有される情報ストリームの仕組みが機能しなければ、プロジェクトは失敗します。
プロジェクトでは、情報や問題点は、担当者が一人で抱え込むと、そこからダムのように亀裂が広がり、プロジェクト全体の岩盤を破壊しかねません。大洪水を巻き起こし、プロジェクトというダムを消滅させるパワーに変化しかねるリスクがあります。プロジェクトリーダーとしてのSEは、チームワーキングを円滑に進めるために、情報の一元管理の仕組みを、グループウェアなどのITを駆使して整備することが重要です。
プロジェクトで発生する様々な情報は、まず、5W2H−WHAT−IFによるマトリックスにより、整理する必要があります。ITプロジェクトマネジメントでは、多角的な視点で、プロジェクトの構成要素や、プロジェクトに影響を及ぼす因子を洗い出し、目標到達レベルと現状レベルとのギャップを明確にしておくことが重要です。
 ここでは、プロジェクトマネジメントの品質向上と効率化を図る上で、5W2H(WHAT、WHO、WHY、WHEN、WHERE、HOW、HOW MUCH)、及びWHAT−IFのチェックにより、複雑に絡み合った多数の対象事項を層別化し、整理することが必要です。これにより、マクロ的なチェックと問題点の発見が容易になり、迅速な対策の立案、組織的な漏れのないアクションへと展開できます。関係部門、関係者、関連企業など、利害関係者の相互関係や、数多くの問題点・対策の関係を連鎖構造で把握することがポイントです。
ある問題がどのような要因に関係しているか、ある対策の前後にはどのような;事前準備や事後対策が必要になるかといったような思考をめぐらせて、多角的にシステム思考でプロジェクトに影響を及ぼす因子を考察、検討していくことが重要です。同時に、個別の因子については、ミクロの視点で、目を凝らして詳細化し、分析評価を行い、技術的・専門的な対応を図るアプローチも要求されます。
プロジェクトマネジメントにおけるミクロの視点で重要なものは、コストを分析し、評価し、改善のアイデアをクライアントに提示できる能力です。ここでは、財務分析力、コスト分析力など、経営的知識が問われます。ビジネス知識は、日頃から継続的に、雑誌、新聞、専門書などで吸収する習慣を身に付けていないと、にわか勉強では対応できません。クライアント企業の属する業界事情や業界慣習、独特な思考法、ビジネスのやり方など、業界研究、企業研究も欠かせません。IT=経営という構図が成り立つ時代に入っていることを認識する必要があります。
特に、企業の事業の形態や特性によって各種の原価計算手法が存在し、企業会計を駆使できる能力は、SE能力としての差別化には有効でしょう。

デジタル組織化と無形資産のパワー

■ 企業内外のデジタル組織化とは
情報化では、ビジネスに関わるデジタル情報の共有により、関連部門や取引先など、企業内外のステークホルダー(利害関係者)間で、双方向のコミュニケーションがリアルタイムで行えるインフラを形成することが重要です。

ステークホルダーのメリット・デメリットの調整
デジタル組織化とは、デジタル情報、すなわち電子情報が中心となる業務プロセスにより、企業間連携の強化を図っていく考え方です。インターネットを情報システムのインフラに据えて、ビジネススピードの向上とビジネスコストの低減、ビジネス情報の共有化を狙う情報化アプローチといえます。
様々な立場の利害関係者(ステークホルダー)が参画する場では、相互のメリット・デメリットをいかなる視点と判断基準によって、調整するかがポイントになります。クライアントからは、様々な利害の絡む難題が持ち出されます。
たとえば、ネットワークインフラの多様性について考えてみましょう。大手自動車メーカーならびにその関連企業群、サプライヤが参画するJNX(Japanese automotive Network eXchange)では、このネットワークに加入していないサプライヤは、大手自動車メーカーやその関連企業群との取引が難しくなります。
いっぽう、例えば、ADSLによるインターネットを介して取引を行っているサプライヤにとっては、新たにJNXに参加するメリットがないケースもありえます。サプライヤにも様々な情報システムを採用しているケースが考えられます。オフコンレガシーシステム(*パソコンやネットワークが黎明期だった頃の設計による旧式の巨大システムの通称のこと)が稼動しているサプライヤもいるかもしれません。
新規ネットワークを検討しているクライアントが、このように様々なネットワークに参加しているサプライヤと取引している場合、SEは、どのようなネットワーク提案をクライアントに提示すべきでしょうか。
ここでは、全体最適の戦略的視点が要求されますが、参画メンバー間の利害を調整しうるリーダーシップの発揮がスーパーSEには不可欠といえます。ネットワークの複数の選択肢におけるメリット、デメリットを十分に検討した上で、クライアントに対して、十分に納得してもらえるような案を代替案も含めて、複数提示し、クライアントの経営トップ及び情報化プロジェクトの総括責任者に選択の判断を仰ぐ必要があります。
しかも、ネットワーク加入コスト、ネットワークスピード・負荷対応能力、参加サプライヤ数、ネットワーク運用管理コスト、ネットワーク信頼度、など、技術的ならびに経営的な観点から、メリット、デメリットを明確にしなければ、クライアントは納得しないでしょう。
ここでは、組織間の壁、企業間の壁、システムの壁、人の壁、投資予算の壁、タイムスケジュールの壁、業務プロセスの壁、既得権の壁、その他、様々な壁が立ちはだかっています。デジタル組織化では、電子情報が中心となり、紙を用いる従来のビジネスプロセスは駆逐されることになります。
そのため、参加者、参加企業間における様々な企業文化の対立(情報化コンフリクト)が発生します。情報化プロジェクトは、経営的視点に立った共通目標・認識のもとに、情報化コンセプトの共有が企業内外の参加メンバー間で十分に徹底される場つくりが成功するか否かにかかっているといえるでしょう。ここは、デジタル情報による組織作りの最も重要なポイントです。


 デジタル組織化の代表格サプライチェーン・マネジメント(SCM)
  製造業、流通業を始め、あらゆる業界に浸透してきている経営手法がSCMです。企業内外の垣根を越えて、企業活動の全プロセスにおけるモノの流れ、情報の流れ、キャッシュの流れを価値連鎖として、デジタル組織化を図り、参加企業間で最適に一元管理するものです。

SCMのターゲットとTOC理論
デジタル組織化の実践では、企業活動の全体最適化を目指したSCMの導入が代表格といえるでしょう。
サプライチェーン・マネジメント(SCM)の狙いは、全体の効率を阻害する要因であるボトルネックを企業活動の中で発見し、改善を加えるアプローチを継続していくことで、企業価値連鎖(バリュー・チェーン)の最適化、ビジネススピード向上を図れる情報共有の仕組みを企業内外の利害関係者間で構築することにあります。
これにより、利害関係者間のシステムや組織の壁をクリアし、企業活動に関わる情報のストリーム(流れ)をシームレス(継ぎ目のない)な勢いのあるものにし、トータルリードタイムの短縮化、在庫削減、売上げ機会損失の低減とキャッシュフローの向上を狙うことができます。
SCMをサポートするTOC理論は、イスラエルのエリヤフゴールドラット博士が提唱したものです。その著書である「ザ・ゴール」の小説仕立ての解説で有名です。サプライチェーン(供給連鎖)を構成する多数の企業、ミクロ的視点では、部門や製造工程において、個々のプロセス間の同期化の阻害要因を排除し、ボトルネックサプライチェーンの弱い箇所)を改善します。
そして、一旦、全てのプロセスをネックのレベルに同期化させ、更なるボトルネックを改善していきます。これらのステップを繰り返すことで、プロセス間のサプライチェーンの強度を増し、企業内外における全プロセスの最適化を図っていく理論です。

□ スループット会計の意味するもの
 従来の伝統的原価計算では、個別工程や部門毎の部分最適化を目指したコスト低減を追及する活動が一般的でした。そのため、顧客需要に応じた生産量のコントロールを十分にできず、見込み生産による在庫の増加を招き、生産トータルではコスト増加の罠にはまっていました。
SCMの評価基準には、スループット会計というものが適用されています。スループット会計では、キャッシュフローである売上高から資材費を除いた限界利益に相当するものをスループットと呼んでいます。生産力に余裕があれば、スループットがプラスである限り、売価を下げても受注を増加させることがキャッシュフロー増大に寄与するという点が従来の標準原価計算ではカバーできなかったところです。
企業活動プロセスをチェーンの連鎖に見立てたTOC理論では、スループットはチェーンの強度に対応します。企業活動、生産活動のチェーン全体の強度は最も弱い部分の強度に依存します。この弱いチェーンである制約条件の発見、強化を図ることで、スルーップットの増大化が図れます。
 TOCでは、企業のゴールの目指すものとして、制約条件に着目して、販売時点でのスループットの最大化を狙っています。これにより、在庫及び業務費用の低減化を図ることを目指しています。

チームワーキングとリーダーシップ

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チームワーキングとリーダーシップ

■ コミュニケーションの形成とメンバーの持つ能力の発揮
 プロジェクトの推進においては、チームワーキングができるコミュニケーションの形成がポイントになります。
□ ミッションと課題を共有できる場作り
 ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏は、化学は高校で学んだ程度で、大学では電気工学を専攻したとのことです。田中氏にとって、授賞対象の化学は専門分野外の研究領域であったことになります。田中氏は、質量分析装置開発におけるソフト脱離イオン化法による受賞は、各種の専門技術分野のメンバーによるチームワークの成果であることを強調しています。
プロジェクトを成功に導くためには、チームが一体となることが必要であると同時に、個人の弱みは、チームのパワーでカバーできます。メンバーは個人の役割の達成に関心をもつだけではなくではなく、チームとしての課題の達成のために、メンバーの各々がいかに貢献すべきかという視点を行動の原点に据えることが重要です。そのためには、メンバー間で、プロジェクトのミッションと課題を共有できる場作りが必要です。プロジェクトリーダーがリーダーシップを発揮するためには、メンバーが持つ能力を最大限に発揮させるための環境作りからスタートする必要があります。この環境作りとは、メンバー間における信頼関係の形成を目指したコミュニケーション作りを行うことにあります。
□ 達成感による好循環の場と情報共有化の仕組み
ここでは、メンバーに自分の役割、担当をしっかり理解してもらうことが前提条件になります。自己の担当業務をこなすことでやりがいや達成感をメンバーが享受できる雰囲気作りが、プロジェクトリーダーとしてのSEの担うべき大きな役割といえます。課題の解決を通じての達成感が次の仕事をこなすためのエネルギーとなって、チーム全体の生産性の向上につながってくるからです。特にプロジェクトの規模が大きくなってくると、このような好循環の場を形成できるかどうかが、プロジェクトの成否を左右する大きなファクターになります。
ゴールまでの道のりが長い大規模プロジェクトでは、各メンバーのベクトルが揃わずに、個々人のエネルギーが分散した形でプロジェクトが進行すると、巨艦がとんでもない方向に進み、舵を進むべき方向に戻すのに多大な時間と労力ならびにコストを要する事態を招くことが多々あります。
システムは、数多くのモジュールから構成されており、相互が関連を持っています。メンバーの各々が組織の歯車の役割を担っており、歯車のひとつでも機能しなくなると、その影響は様々な形でシステム全体に波及してきます。その意味で、プロジェクトの全体像が常に把握できるように、プロジェクトリーダーが中心となって、メンバーの全員が、システム開発に関わる各種情報の共有化を図ることができるような仕組みが整備される必要があります。プロジェクトの進捗会議を頻繁に開催し、プロジェクト推進上で発生する様々な問題や課題を個人レベルで抱え込まないで、メンバー全員で共有し、新たな問題や課題が各メンバーが担当する業務にどのような影響を及ぼすのかを十分に分析し、全体最適の視点に立って、対策を総合的に図っていくアプローチが望まれます。
進捗会議に参加したメンバーは常に問題意識をもって、自分の役割、ポジションを明確に把握している必要があります。メンバーは、主体的な姿勢で、会議に参加し、積極的な発言により、プロジェクトが抱える問題点や課題をチームワークによって解決していくスタンスを持つように心がけましょう。自分を含めたチームのメンバーそれぞれの役割を認識し、各メンバーが役割を果たせるように協力する姿勢が大切です。協調性を確保しながらも、自分の意見・考えを行動が伴う具体的なアイデアとして会議の場で提示する積極性が望まれます。また、会議では、一方的な批判的発言はチームワークの形成にとって支障を来たす場合もあります。
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オペレーション・マネジメントのベーシック・デザイン

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オペレーション・マネジメントのベーシック・デザイン

ビジネスモデルの再構築や創造では、ビジネスモデルのオペレーション・マネジメントの構成要素としての縦軸機能と横軸機能というものを考えます。競合他社に対し優位に立てる事業を目指して、縦軸機能、横軸機能の強み、弱みを分析し、強化すべき方策を全社的に明確にしつつ、ITを戦略的に活用したビジネスモデルをデザインします。
□ デザインの基本的アプローチ
ビジネスモデルの基本構造を考察してみましょう。多角経営を行っている企業をここで取上げます。ビジネスのオペレーションである事業別の推進力としての機能をビジネスの縦糸機能と称することにします。一方、複数の事業の推進を横断的に支える機能をビジネスの横糸機能と呼びましょう。
情報化では、両機能がバランスよく保たれたオペレーションモデルが要求されます。この縦糸機能は、複数の事業や製品を抱えている企業においては、各々の事業、製品での最適化を図る必要があります。ライン部門による特化戦略が要求される場合が多いケースです。横糸機能は複数の事業、製品のシナジー(相乗)効果を創出できるように、経営資源の最適化を目指した全社的な総合力の発揮を促す役目を担います。事業横断的にカバーしながらサポートできる機能を有します。
ビジネスの縦糸機能として、ナレッジ・マネジメント、カスタマーリレーションシップ・マネジメント、ビジネスプロセス・マネジメント、バリュー・チェーン・マネジメントが要求されます。これらの経営アプローチにより、顧客ニーズを起点としたITの戦略的活用のイメージを検討します。知識経営の総合的実践力が問われます。
横糸の機能には、コスト、リソースの2つの領域からなるマネジメントが必要です。自社の強み、弱みを見極めます。縦軸機能と横糸機能は、コーポレートカルチャ・マネジメント(企業文化)とリスク・マネジメントにより、統合化されます。企業文化は、企業の従業員が有する価値観や信条、経験、市場での行動様式などを司ります。
リスク・マネジメントは、企業の最優先課題のテーマに挙げるべきものであり、リスク管理能力は、企業の存続を左右します。ビジネスモデルの革新のベースには、イノベーションのパワーが有効に機能します。イノベーションの一般的なアプローチには、企業活動の各プロセスの革新を図っていくプロセス・イノベーション及び、製品そのものの革新を図っていくプロダクト・イノベーションがあります。

■ オペレーション・マネジメントと組織
オペレーション・マネジメントの検討では、組織の形態や問題が、業務運営と情報流通のコントロールの仕組みである情報システムに大きく関わってきます。企業における業務プロセス及び情報の流れをうまくコントロールするためには,組織の構造を理解することが重要です。組織的な側面からのアプローチにより、情報システムと組織、人、情報、プロセスがスムーズに連携し、企業経営活動のレベルが向上します。
また、組織的なアプローチにより、個々の部門の果たすべき役割と業務内容の位置付けが全体的観点から明確になり、全体最適を目指した情報システムのデザインが可能になります。
企業経営では、経営階層と職能の仕組みを理解することで、情報のコントロール系統と業務運営すなわちオペレーション・マネジメントのデザインが可能になります。官僚型組織では,経営トップを頂点にして,経営方針,経営戦略,事業戦略,部門戦略が組織の上位から下位に段階的に伝達される組織形態をとります。意思決定に時間を要し,組織の硬直化を招き易い組織形態ですが、命令系統や意思伝達経路が明確である特徴を持ち、情報コントロールと意思決定のメカニズムは明確なスタイルをとります。
いっぽう,フラット化された水平型の組織では,メンバー間の組織階層の簡素化を図ることにより,意思決定及びアクションの迅速化が図れます。大手企業や歴史の古い企業では、官僚型組織をとっているところが見られます。フラット型組織では、新興企業、特にハイテク関連のベンチャービジネスなどでよく採用されています。ネットワーク型組織は、フラット型組織を拡大したものともいえます。一つの組織がネットワークの形態で存在し、そのネットワークがさらに複数のネットワークとつながっている組織形態のことです。インターネットの網の目のように組織同士が連携しています。各組織が自立的に判断して、行動を起こし、柔軟な意思決定による企業活動を行うことが可能になります。
組織の分類は、通常、ライン部門とスタッフ部門に分けられます。ラインとは,製造部門や営業部門のように製品・商品に直接関わっている部門を指し、企業活動の第一線の現場に従事している人材を指しています。スタッフとは,開発・研究部門や人事・管理・経理部門のように,ライン部門の業務を支援する役割を担っている部門を意味します。部門横断的な機能により、全社的な経営資源の活用を図る参謀的役割を担います。
ライン組織では、上位の者が権限を持ち,下位のメンバーに指示します。「決定−>命令−>実施」という流れによる「命令統一の原則」が機能しています。この形態は、命令系統及び権限と責任の所在が明確で秩序・規律維持が保たれやすいですが,権限が最上位の個人に集中するデメリットがあります。
ライン・アンド・スタッフ組織では、ライン組織の指示命令系統を維持しながらスタッフの専門的な援助が得られる組織形態になっています。
複数の事業を抱えている企業では、カンパニー制事業部制組織というものをとっているところもあります。カンパニー制では、各事業部が独立企業として、経営責任を任されています。事業部制の特徴は,プロジェクトや事業分野あるいは製品群別,地域別,顧客別に事業部を設置して,各事業部が独自の利益責任を持つところにあります。各事業部は縦割りの組織で事業活動を行います。この形態では,事業部間の連携が弱く,経営資源の重複などの弊害が見られがちです。

機動的な組織形態として、プロジェクト制があります。この組織形態では、新たな案件が発生する都度,機動的な組織が発足し,人,予算が割り当てられ,案件が完成すると,組織は解散します。 

部門や事業部を横断的に組織化する形態には、マトリックス組織というものがあります。 通常の職能部門組織や事業部制組織と交差する形で,部門・事業部間を横断的に横割りの情報伝達と責任・権限・機能をもつ組織形態です。責任者は職能別組織の枠を越えて,縦割りと横割りの両方の組織に属し,二人の上司をもつことから,ツー・ボス・システムともいいます。職能別に分けられた上位者が,それぞれの職能に関してのみ部下を指揮命令する組織形態です。分業による専門分化が進み専門性の効果が高まりますが,複数の上司から命令を受けるため命令系統が混乱しやすい欠点があります。

製造管理分野のオペレーション・マネジメントをデザインする


ここでは、製造管理分野のオペレーション・マネジメントのデザインで要求される基本事項をマスターします。
■ 製造業の業務フローの基本
製造業の業務フローは、大きく分けると、量産の標準品対象の見込み生産形態(繰り返し生産方式)と、個別仕様に対応した受注生産形態から構成されます。
製造業の基本的な業務フローは、図表のようになっています。販売管理システムにおいて、受注生産形態の場合、顧客からの受注が確定すると、設計部門では、仕様書を作成します。量産の標準品の場合は、受注が確定すると、製品在庫ファイルを参照し、在庫確認を行います。在庫があれば在庫引き当てを行い、製品と納品書を出荷します。顧客から受領書が届いた段階で、出荷データを販売実績ファイルに書き込み、そのデータをもとに売掛管理システムにて支払請求処理を起こします。請求書は顧客に送付されます。支払請求データを売掛ファイルに書き込みます。
いっぽう、受注生産形態の製品では、仕様書をもとに、設計図が起こされ、生産計画が立てられます。生産計画情報に基づいて、生産に必要な資材の所要量がMRP(Manufacturing Resource Planning)システムによって計算されます。
この調達計画により、購買(調達)・外注管理部門は、部品・資材の発注をサプライヤに対して行います。ここで、部品・資材の調達に関して、買掛管理が必要になります.。調達方針により、部品などは内部で製作する場合と外注する場合のいずれにするか、納期・品質・コストを勘案し、内外作の振り分けが行われます。
製品が生産されると、生産実績ファイル、製品在庫ファイルが更新されます。この間、生産指示情報により、工程管理ファイルを更新します。生産計画プロセスでは、どの機種の製品をいくつ作れば納期に間に合うかを検討し、月、週ごとのカレンダーに、工程計画が決定されます。
ここでは、作業負荷量から、必要工数を割り出し、必要な作業人員の計算を行い、人員配置を決定します。必要な設備、ライン構成が決まり、生産開始に向けたライン編成が行われます。
工程計画に基づいて、生産すべき機種の生産順序に応じて、部品・資材がラインサイドに搬入されて、加工・組立・検査などの工程を経て、予定・実績の進捗管理のもとに製品が計画的に生産されていきます。生産においては、投入された人員、部品・資材などの数量の実績値が原価管理システムで収集され、原価計算が行われます。
完成品は、製品入庫管理により、倉庫で保管されます。物流管理部門から、完成品の出庫指示のデータが流れ、顧客のもとに製品が届けられていきます。ここで、製品の出荷により、顧客への代金の支払い請求が発生し、売掛管理が必要になります。
生産計画に基づき、部品・資材の在庫がない場合は、部品・資材の購買指示が出されます。部品・資材が入荷されると、部品在庫ファイルを更新し、生産指示が出されます。同時に、部品・資材の入荷情報及び取引先から送付された納品書のチェック行い、受領書を取引先に送付します。取引先から請求書が送付されてきます。これにより、買掛管理システムで検収処理が行われた後、支払い処理が行われます。買掛ファイルが更新されます。


■ 生産管理システムの基本をマスター
生産管理システムには、生産計画(資材所要量計画)、工程管理、原価管理、品質管理などのシステムがあります。ここでは、生産管理システムにおける重要な機能を理解するために、資材所要量計画、在庫発注モデルついて触れます。

資材所要量計画(MRP:Material Requirement Planning)
MRPとは、生産計画で予定された数量の製品を生産するために必要となる資材の所要量を決定するための計画のことです。正味所要量とは、必要資材の総量から資材の在庫数量を差引いた数量のことです。総所要量とは、必要資材の総量のことです。資材所要量の算出は次の手順で行います。
(1)総所要量の算出:製品の生産計画数量に部品構成ファイルの各々の構成数量を乗じて,必要な部品数の総所要   
  量を算出する。         総所要量=生産計画数×部品構成数
(2)正味所要量の算出:部品の総所要量から部品の現在の在庫数量を差し引き正味必要となる所要量を算出する。
       正味所要量=総所要量−部品在庫数量
流通管理分野のオペレーション・マネジメントをデザインする
 流通管理分野では、インターネット上での電子商取引の仕組みを理解しておくことがSEにとって不可欠です。ここでは、eマーケットプレイスの基本構造を理解し、Web戦略へのアプローチについて考えてみます。さらにPOSシステムも取り上げます。

■ eマーケットプレイスの基本パターンとPOSシステム
ここでは、流通構造の変革の大きな要因のひとつになっているeマーケットプレイスとPOSシステムを紹介します。
□ Web-EDIとeマーケットプレイス

従来のEDIシステムでは、情報のやりとりはバッチファイル伝送形態をとっていたため、VAN(付加価値通信網)に加入した特定の参加企業の間で、閉じた世界での電子商取引形態に甘んじていたといえるでしょう。価格交渉や製品の選択肢の範囲は限られ、コストダウンの低減は難しい状況でした。
企業で導入が活発化しているWbe-EDIは、企業と企業(B2B)、企業と顧客(B2C)の間で、リアルタイムの双方向のコミュニケーションを可能にします。Wbe機能により、スピード、グローバル、コスト、顧客個別対応の実現が図れます。インターネット上の電子商取引の場であるeマーケットプレイスでは、各種業界の多数の企業が電子商取引のインターネットサイトを提供し、流通の中抜きの大きな要因にもなっています。
オンライン・トレーディング、オンライン・ショッピングの急激な拡大により、B2B(企業間取引)と B2C(企業と消費者間取引)による市場規模は拡大してきています。e マーケットプレイスは、①企業の業種や産業分野に関わらず、広くユーザに必要とされる製品・商品やサービスを取引する市場(水平型e マーケットプレイス)、②産業分野別に取り扱い製品・商品、取引ルール、マーケット参加者が異なる多様な個別の市場(垂直型eマーケットプレイス)の2つに大きく分類できます。ここでは、クライアント企業は、製品やサービスの特性にマッチしたe マーケットプレイスへ参加することがポイントです。
 水平型e マーケットプレイスは、購入頻度や事務処理コストが比較的高く、単価の安い製品・商品が取り引きされる形態です。日用雑貨品などを扱う企業が対象になります。顧客はWbe画面を介して電子カタログによる商品の紹介、類似品の比較検討、購入、クレジット決済が可能です。
垂直型e マーケットプレイスでは、B2Bの企業間取引が中心になります。ここでは、価格、品質、納期、決済方法などの取引条件で、複数のサプライヤに競合させることが可能です。買い手は、最適な見積もりの提示をするサプライヤに決定するプロセスが実現します。世界市場から最適なサプライヤを選択できるメリットが買い手企業に狙えます。さらに、従来の商談業務や書面による見積書のやりとりの負担コストの低減が図れ、業務スピードのアップが期待できます。

POSシステム
流通分野で従来から最も良く使われてきているのはPOSシステムです。コンビニエンスストアでは売れ筋、死に筋商品の動向分析や商品政策への展開に必須のITツールになっています。POS端末から収集された商品の購買情報は本部のデータセンターにネットワーク経由で瞬時に伝送され、データウェアハウスで集中管理されます。在庫情報、発注情報に展開され、商品の補充が物流部門に指示されていきます。物流担当の運転手は携帯端末で物流の指示を受け、搭載した商品を迅速に店頭に届けることができます。各店舗において日々、リアルタイムで収集されたPOS情報は本部のサーバで分析し、店舗毎の売れ行き傾向を把握して、次の商品政策の見直しに活かされるのです。
 POS情報で収集した情報を分析・活用することで、店舗管理の改善や従業員管理の強化も図れます。たとえば、生鮮品を扱うマーケットでは、鮮度管理が重要です。鮮度の落ちた生鮮品は、顧客に見向きもされません。地域別曜日別時間帯別の店頭売り上げ状況を分析して、最も売り上げ状況に応じて、商品の店頭への品揃えを最適なパターンにもっていくことも可能になります。仕事帰りの主婦が多い地域では、夕方に品揃えを強化することで、商品の販売の拡大が狙えます。あるいは、郊外型のマーケットで、休日を利用して自家用車で遠方から顧客が多く来店するような立地の場合には、休日に品揃えを強化し、特売なども設定することで売り上げ拡大が見込めます。
 POS情報の従業員管理への活用では、顧客の来店動向を分析して、顧客数に応じた従業員配置の計画を練る場合などのケースが考えられます。さらに、店舗における商品の棚割り計画などにもPOS情報の分析のアプローチが有効です。ある商品を購入する際についでに、近くの棚にある商品もいっしょに買っていこうという顧客が多いものです。
IT戦略論 図解超入門V IT戦略マネジメント&ITシステム設計入門 グローバル競争優位のIT戦略アプローチ IT Strategic Management(改訂最新版): ITエンジニアのためのITスキル教科書

決算書経営分析力を極める

contact:tomohfujii2121@yahoo.co.jp 藤井
企業を取り巻く経営環境が激変する中で、ビジネスパーソンには、日常のビジネスに関係する取引先や勤務先の決算書が読める能力が必要です。
□決算書の分析力はビジネスパーソンの常識
 新人、若手のビジネスパーソンや営業マンは、決算書から、企業の経営の状況を読み取る能力が不可欠です。危ない会社を見分け、先手のビジネスにつなげるためにも、そこに現れる経営数値を経営的センスで読み取る能力が必要になります。
経営の建て直しのために決算書を分析し、解決の糸口を見出すことも可能です。昨日まで取引していた取引先が、今日、会社に出勤してみると、倒産していたということが珍しいことではなくなってきました。
決算書は主に、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、およびキャッシュフロー計算書などからなります。これらには、企業の経営状況が明確に表現されています。企業のホームページ上で、IR情報(*Investor Relations:投資家情報)などの項目をクリックすると、決算書に関する情報をインターネットから得ることができます。
 決算書の分析は難しいものでは決してありません。簿記が苦手だから、決算書もわかるはずがないと思っている読者も多いでしょう。苦手意識や先入観は、本書を読み進めることで、自然と消え失せていくことでしょう。本書では、簿記の仕組みをしっかりと理解できるように説明していきます。決算書は、簿記のデータをもとにして作成されるため、簿記の概念を理解することがポイントになります。簿記の仕組みがわからないまま、決算書を読むのは、ちょうど、薄氷の上を歩いていくようなものなのです。決算書の常識を身に付け、日常業務に支障を来たさないようなレベルに自己能力に磨きをかけていくことで、日々のビジネスを自信に満ちたものに変えていくことができるでしょう。確かな現場情報をいかに早く獲得して、ビジネスリスクを回避できるかどうかは、取引先の財務諸表をいかに分析できるかにかかっています。決算書の裏にある情報をしっかりと読み取り、先手でビジネス行動につなげることができる能力が不可欠な時代になっています。
 新しいことや専門分野以外の知識を学ぶ際には、まず、全体の構造を理解することが早道です。たとえば、ある難所の高山にチャレンジするとき、そこの地図を広げて、全体の道のりがどうなっているのか、難所の箇所を確認しながら鳥瞰的な視点で事前に情報収集し、目標地点までのルートを検討していくのが賢明なやり方です。同様に、本書のテーマである決算書の分析の考え方も、全体構造の理解に重点を置いて説明していきます。決算書の分析力をマスターし、経営感覚を磨くことで、頼りになるビジネスパーソンとして、会社における存在感を高めていくことができます。決算書がすらすら読める能力は、ビジネスパーソンの強い味方になってくれることでしょう。
 決算書は、専門的には財務諸表と呼ばれます。財務諸表には、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書があります。これらは、財務三表と呼ばれます。ここで注意すべきことは、これら3表の会計期間が異なっているものを見ると、判断を誤ってしまうということです。これら3表は同じ会計期間のものを見ることが大切です。
財務諸表には、ほかに、(連結)株主資本変動計算書(*利益処分計算書に替わるもの)、事業報告、個別注記表(各計算書類の注記をまとめたもの)、附属明細書(*財務諸表の主要項目の明細)が含まれます。損益計算書は、会社の儲け具合を把握するためには必須の情報源になります。貸借対照表は、財産の調達と運用の状況がわかるものです。キャッシュフロー計算書では、キャッシュの流れがわかります。これら3表を総合的に見ることで会社の経営状況が把握できます。
上場企業の決算書を得るには、様々な手段があります。紙の媒体手段による方法では、新聞や政府刊行物取扱書店で買える有価証券報告書、「会社四季報」(東洋経済新報社)及び「会社情報」(日本経済新聞社刊)の書籍などがあります。未上場の企業では、注目・有力企業に関する財務情報は、「日本経営指標<店頭・未上場会社版>」(日本経済新聞社刊)で入手できます。
インターネット上で企業のホームページを検索する方法もあります。googleやYahooの検索エンジンで企業名を検索して、「投資家向け情報」や「IR情報」、「決算公告」、「業績・財務情報」などの項目をクリックすると、決算報告に関する情報を収集できます。ここでは、財務諸表のデータだけでなく、企業方針や事業セグメント別情報など、詳しい役に立つ情報も得ることができます。

まず、損益計算書を見ていきましょう。損益計算書は、企業の一定期間における経営状態がわかる会計報告書です。損益計算書では、5種類の利益の意味をしっかりつかむことがポイントです。
□5種類の利益の中身を理解することが基本中の基本
損益計算書には、5種類の利益が示されています。利益には法人税、住民税、事業税などの税金がかかってきます。税引前当期利益は、税金が差し引かれる前の利益のことです。税金が差し引かれた後に残った当期利益というものが、年度の最終に確保された利益ということになります。当期利益がマイナスの場合は、赤字ということになります。プラスであれば、利益を出している状態であることがわかります。このように、損益計算書では、まず、当期利益を見れば、その会社が儲かっているのか、儲かっていないのかが分かります。
利益は、時系列で少なくとも3年間のものを比較して見ることで、その企業の経営がうまくいっているのか、悪化しているのかがわかります。さらに、同規模の同業他社や競合企業と比較することで、会社の実力が見えてきます。
次に売上総利益というものがあります。売上総利益は、粗利益[]とも呼びます。売上高から、売上に要した棚卸商品の仕入原価や製造原価の金額を差し引いて計算します。ここで差し引くものは、売上原価と呼んでいます。よって、売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いて求めることができます。売上高は、営業収益と呼ぶこともあります。売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引くと、営業利益が求められます。営業利益は、会社が本業によって獲得した利益です。ここで、販売費とは、商品や製品を販売するのに要した営業員の人件費や広告宣伝費、経費などを指します。一般管理費とは、会社全体を維持管理するために要した費用のことです。一般管理費は、販売活動には直接関係のない経費です。例えば、間接部門の人件費やオフィスの賃貸費用などがあります。

売上総利益(粗利益)=売上高 − 売上原価

営業利益=売上高 ― 売上原価 ― 販売費 ― 一般管理費
 
□ 経常損益とは
経常損益は、営業損益と営業外損益からなります。営業外収益とは、営業活動以外から発生した経常的な利益を指します。営業外費用は、営業活動以外から発生した経常的な費用を意味します。
経常利益に特別損益を加減したものが税引前当期利益です。特別損益は、当期に臨時的に発生した損益のことで、特別利益と特別損失からなります。特別利益には、土地の売却益、有価証券売却益などがあります。特別損失には、固定資産売却損、過年度損益修正などの項目があります。
税引前当期利益から法人税、住民税、及び事業税、等を除いたものが当期利益です。これに、繰越利益剰余金、配当金(*新会社法により、株主総会の決議によって、期中に随時、配当可能になった。配当や自己株式の有償取得、等は、剰余金の分配として統一的に財源規制される。)などを加減して当期の利益が求められます。繰越利益剰余金とは、前期以前からの利益の累計額を指します。

損益計算書の各項目の計算手順は次のようにして求めます。売上原価は、期首商品棚卸高、当期商品仕入高、期末商品棚卸高からなります。ここで、期首商品棚卸高は、前期末における商品の棚卸残高額のことです。売上原価を求めるには、期首商品棚卸高に、当期に仕入れた商品の金額を加え、さらに期末の時点における商品棚卸高の金額を差し引いて計算します。売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いて計算します。営業利益は、売上利益から、販売費・一般管理費を差し引いて算出します。
経常利益は、営業利益に営業外収益を加算し、営業外費用を差し引いて求めます。税引前当期利益は、経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いて計算できます。当期利益は、税引前当期利益から、法人税、住民税、及び事業税を差し引いて求めることができます。
収益は、売上高、営業外収益、特別利益の3つから構成されています。まず、収益は、事業活動の本業収入である売上高と、本業以外からの収入である営業外収入から構成されます。さらに、営業外収入は、営業外収益と特別利益からなります。営業外収益には、例えば銀行に預金を預け入れることで得る受取利息などがあります。営業外費用では、例えば、企業が銀行からお金を借りた場合に支払う利息などです。
特別利益とは、臨時的な収入です。例えば、災害などによって受け取る保険金のようなものがあります。特別損失は、偶発的な出来事によって発生する損失です。特別損失には、例えば、固定資産を売却して損失が出た場合や、不良債権の処理による貸倒損失の発生などの場合が該当します。特別損失が多額であると、経常利益は黒字でも当期利益が赤字になってしまうことがあります。
 費用は、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失、法人税、住民税及び事業税の5つの区分からなります。
 いっぽう、利益は、前に触れたように売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益、当期利益の5つに分類されています。
 以上より、「収益(3)・費用(5)・利益(5)の法則」ともいうべきものが理解できるでしょう。

損益計算書の計算手順は次のようになります。

売上原価B=期首商品棚卸高C+当期商品仕入高D―期末商品棚卸高E

売上総利益F=売上高A―売上原価B
=売上高A―(期首商品棚卸高C+当期商品仕入高D―期末商品棚卸高E)

営業利益H=売上高A―売上原価B―販売費・一般管理費G

経常利益Q=営業利益H+営業外収益I―営業外費用M

税引前当期利益X=経常利益Q+特別利益R−特別損失U

当期利益Z=税引前当期利益X―法人税・住民税・事業税Y

新会社法(平成18年5月1日の施行)に伴い、決算書類の表記は変更されました。貸借対照表の「資本の部」は、「純資産の部」に名称変更となり、「連結貸借対照表」の記載内容は、下図表のように表記されています。なお、「連結貸借対照表」では、評価・換算差額等の項目において、「為替換算調整勘定」が追加され、さらに「IV 少数株主持分」の項目は純資産の部の内訳項目として記載します。ここで、為替換算調整勘定とは、在外子会社などとの連結財務諸表を作成するときに、貸借対照表において、資産の部と負債・資本の部との間に差額が生じる調整勘定のことです。少数株主持分とは、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分のことで、連結子会社の純資産のうち、親会社以外の外部株主の持分を表します。
新会社法の施行(平成18年5月1日)により、従来の「利益処分計算書」は廃止され、株式会社は純資産項目の増減を表す「株主資本等変動計算書」および「連結株主資本等変動計算書」を作成することとなりました。これは、株主総会または取締役会の決議により、剰余金の配当の決定が随時可能となり、株主資本の計数も随時に変動可能となった事等の理由によります。新会社法では、金銭による配当のみでなく、現物による配当も可能であるとしていますが、会社の純資産が300万円を下回るような配当は禁じられています。株主配当金の計算方法は、従来の控除方式のようなものではなく、積み上げ方式のような形を新規に採っています。
剰余金の分配可能額は、分配時の剰余金の額から、分配時の自己株式の帳簿価額、ならびに期中の自己株式処分の対価、さらに法務省令で定める額を控除して計算します。ここで、分配時の剰余金の額とは、その他の資本剰余金に利益剰余金(期中における期間損は除く)を加えた合計を指します。
貸借対照表および損益計算書と株主資本変動計算書の連動
貸借対照表および損益計算書における各項目の金額は、株主資本変動計算書の各々の当期末残高の欄の金額と一致しています。損益計算書では、当期純利益以下に表示されていた項目は削除となり、株主資本等変動計算書に掲載となりました。負債に掲載していた新株予約権は、純資産に移動しての表示となりました。資産の部又は負債の部に表示していた繰延ヘッジ損益は、税効果を調整した上で純資産の部(評価・換算差額等)に表示となりました。個別貸借対照表におけるその他資本剰余金の区分における内訳の表示は不用となりました。
各計算書類の注記を一括で掲載する個別注記表の内容も明確に定義されています。従来の営業報告書に当たる事業報告は、計算書類に包含されていませんが、監査対象となっています。役員賞与は、損益計算書に見込み額を表示するとともに、貸借対照表引当金として計上することになりました。
株主資本および株主資本以外の項目の表示ルールは次のようになっています。
?株主資本の各項目
前期末残高、当期変動額、および当期末残高に分けて表示します。当期変動額は、変動事由別に金額表示します。なお、変動事由には、当期純利益(損失)、新株発行や自己株式処分、剰余金の配当、自己株式取得・消却、企業結合(増加)、会社分割(減少)、株主資本の計数変動、連結範囲や持分法の適用範囲の変動、などがあります。
?株主資本以外の各項目
前期末残高、当期変動額および当期末残高に分けて表示しますが、当期変動額は純額で表わします。
さらに、新会社法により、損益計算書では、前期繰越利益は、繰越利益剰余金の科目に変更されています。経常損益計算の部と特別損益計算の部、および営業損益計算の部と営業外損益計算の部における区分は、廃止となりました。売上高から売上原価を差し引いた売上総利益(損失)は、損益計算書に表示されます。包括利益(利益の実現および未実現を問わず、期首と期末の差額として純資産の変動分を利益として捉える概念)の表示も損益計算書にできるようになっています。

貸借対照表を極める
資産とは、土地、建物、設備、金銭、物品、権利など、企業が経営活動で役立てている財産のことです。貸借対照表を理解するためには、基本的な財務会計用語を理解することが一番です。
□ 資産の中身は
資産には、現金、銀行預金、不動産や、売掛金、貸付金、未収金(*)などの債権、さらには、営業権、特許権などがあります。資産は、固定資産、流動資産、繰延資産の3つに大きく分けられます。固定資産は、企業経営で長期にわたって保有する財産です。土地、建物、設備などがあります。流動資産とは、現金、及び資金で短期(一年以内が標準)に現金化できるものを指します。
繰延資産とは、企業が支出する費用の中で、支出した効果が支出の時だけでなく将来にも及ぶものを指します。一時的に費用にするのではなく、その効果の及ぶ期間にわたって費用計上します。

動かない財産の本命―固定資産とはなにかを知る
固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の固定資産の3つからなります。有形固定資産は、固定性をもつ物そのものを意味し、不動産、設備、さらに、車両のような動産があります。無形固定資産には、営業権、特許権、借地権、商標権、実用新案権意匠権、などがあります。権利を取得するために支払った対価を取得原価とするものが、無形固定資産です。
情報システムのソフトウェアも条件によっては無形固定資産になります。投資その他の固定資産には、預金や有価証券及び貸付金などのうち長期に保有されるものです。投資等の例では、投資有価証券・長期貸付金・長期預金・長期前払費用[ *長期前払費用:長期前払費用とは、1年を超える期間を経て費用となる前払費用のこと。](*)などがあります。
固定資産の価値減少は減価償却費で考える
 企業活動になくてはならない設備や建物、車両などは、年月とともに、当初持っていた価値が次第に減ってきます。減価償却は、ものの価値の減少分を会計的に処理する考え方です。
減価償却とはなにか
固定資産である土地や建物、設備、車両などは、会社が入手して幾年にもわたって使用し続けます。そのため、購入時の事業年度に費用として一括で会計処理することはできません。製品を作るための原材料費や人件費などは、発生した事業年度に費用として計上できる点が、固定資産との違いといえます。
減価償却という手法では、固定資産の価値の減少分を費用として、毎年、計上していきますが、どのような割合で価値の減少分を算定するかによって、代表的な手法に定率法と定額法があります。
 減価償却を毎期の費用として計算する基準は、固定資産の種類に応じて、税法できめ細かく決められている法定耐用年数と償却率によります。
一定率の償却費を計上する定率法とは
 定率法とは、毎期に一定率の償却費を計上する方法です。固定資産を購入した初年度は、取得価額に一定の比率を乗じて減価償却費を計算します。次年度は、取得価額から初年度の減価償却費を差し引いて、残りの価額に、同様の比率を乗じて、次年度の減価償却費を計算します。次々年度も同様にして、未償却の残高に同じ比率を乗じて、法定耐用年数に達するまで、減価償却費を計上していきます。
ただし、固定資産は、通常、減価償却が法定耐用年数に達した以降も、使用可能なため、費用化できない残存価額というものを定めています。税法上、購入価額の100%を費用計上できない仕組みになっています。減価償却費は、次の式で計算します。
ここで、期首未償却残高とは、購入時の取得価額に対して、前期末までにおける減価償却費を累計した額を除いた残りの金額を意味しています。

減価償却費=期首未償却残高 × 一定率

一定額の償却費を計上定額法とは
 定額法では、毎期に一定額の償却費を計上します。償却費は、取得価額から残存価額を差し引いて、残りの金額を法定耐用年数で割って計算します。ソフトウェアなどの無形固定資産は、通常、定額法で計算します。例えば、500万円で購入したソフトウェアを5年で均等に償却すると、5年目の残存価額をゼロとして、毎年、100万円を費用計上できることになります。
減価償却費=(取得価額 − 残存価額)÷耐用年数
フットワークの優れた資産−流動資産とはなにか
流動資産は、大きくは、棚卸資産当座資産、その他の流動資産に分けられます。ここでは、用語の意味をしっかり把握することがポイントです。

棚卸資産には、商品、製品、仕掛品[製造が完了していない未完成品のこと。]、部品・資材などからなります。当座資産には、現金、預貯金、売掛金受取手形、有価証券などがあります。その他の流動資産とは、棚卸資産及び当座資産以外の流動資産のことです。その他流動資産には、前渡金、前払費用、未収金などがあります。これらには、期限が営業販売の取引以外の1年以内に到来する債権が含まれます。


会社の活動サイクル−正常営業循環基準と1年基準
流動資産で、短期間であるかどうかの判定は、商品の販売による売掛金[ 製品や商品の売上時点で代金の決済がされずに、後日に受取る約束になっている未回収の資金をいう。]など、通常の営業活動で発生したものについては正常営業循環基準が適用されます。正常営業循環基準とは、現金→仕入→商品→販売→売上債権→現金からなる企業の営業活動のプロセスで発生するものを指します。企業活動の1サイクルといえるものです。
商品、売掛金受取手形などは流動資産になります。貸付金などでは、1年基準(ワン・イヤー・ルール)が採用されます。1年基準では、貸付金など、決算日後1年以内に入金予定のものを流動資産とします。1年を超える入金予定のものは固定資産になります。
顧客である取引先の相次ぐ倒産などが発生すると、この企業活動のサイクルが回らなくなってきます。そのため、製品は売れても、売掛債権が増えて、現金化に支障を来たしたりすると、仕入れのために必要な資金や社員の給料の元手がショートすることになります。いわゆる売上計上はあっても、現金が底をついている黒字倒産に陥ってしまいます。

資本を資産及び負債との関係で見てみましょう。資本は、資産総額から、負債総額を引いたもので、自己資本ともいいます。企業の純財産が資本です。負債は他人資本といいます。一般企業では、自己資本他人資本による経営を行っています。期間損益計算の観点では、総資本が資本とされます。

資本=資産―負債
貸方側の資本の調達源泉とは、会社が総資産を確保するための資金をどのようにして調達したのかを示しています。他人資本は、借入金、買掛金などの負債でまかなった資本です。自己資本である株主資本は、株主によって払い込まれた資本金、及び利益を蓄積した剰余金などが含まれます。
自己資本は、純資産に相当するもので、返済の義務がありません。純資産は、資産の部、負債の部、純資産の部から構成される貸借対照表の一部です。純資産は、株主資本、評価・換算差額等、及び新株予約権などから構成されます。
純資産の構成要素である株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金、及び自己株式などからなります。評価・換算差額等は、有価証券評価差額金及び為替換算調整勘定などからなります。連結会計では、少数株主持分は純資産に含まれます。

固定負債と流動負債の違いをチェック
負債には、固定負債と流動負債があります。固定負債は、返済期限が一年を超えて支払期限が到来する負債です。一年以内に期限の到来する債務は、流動負債といいます。
固定負債には、社債、長期借入金[一年を超えて返済期限がくるもので、短期借入金に比べて金利が高い。]、退職給与引当金[従業員が全員自己都合で退職したと想定し、退職金を見積って引き当て計上するもの。]、などがあります。流動負債には、支払手形、短期借入金、未払金、買掛金、前受金、預り金、納税引当金、未払費用、関係会社からの短期債務、前受収益、などがあります。
ここで、買掛金とは、商品、資材などの仕入代金の未払額のことです。未払金は、商品、資材以外のものに対しての未払額であることに注意しましょう。前受金は、受注品などに対する手付金・証拠金のことです。
流動資産と流動負債の差額を正味運転資金と呼んでいます。資産はプラスで、負債はマイナスで処理します。正味運転資金とは、企業の通常の事業活動で運用される資金のことです。
正味運転資金=流動資産 − 流動負債

財務諸表と勘定科目の相互構造を見抜く
ここでは、企業会計の基本である財務諸表と勘定科目との関係を理解します。財
務諸表における勘定科目相互の関係式を理解することがポイントです。
□ 財務諸表における関係式を理解する
 財務諸表の各勘定科目は、資産、負債、資本、収益、費用からなります。貸借対照表損益計算書などの財務諸表と勘定科目[取引の性質が似たもの同士を集計するために決算書上で分類表示される項目をいう。]の関係は、次のようになります。
・資産 + 費用 = 負債 + 資本 + 収益
・資産 − 負債 − 資本 = 収益 − 費用 = 純利益

 貸借対照表、及び損益計算書を作成する場合、各勘定科目ごとに集計し、借方に残高がある場合は、貸借対照表損益計算書の借方に記入します。
貸方に残高がある場合は、貸借対照表損益計算書の貸方に記入します。通常、残高はプラスになりますので、資産と費用は借方、負債、資本及び収益は貸方になります。

貸借対照表損益計算書はどのような関係にあるか
貸借対照表とは、企業の決算日の財政状態を明確にした会計報告書のことです。貸借対照表はバランス・シートとも呼ばれています。
貸借対照表の構造
貸借対照表は、資金運用の形態を示す資産の部,源泉の形態を示す負債の部および資本の部からなります。資産の部の合計額と負債及び資本の部の合計額は一致し,バランス・シート(B/S)ともいわれます。
 資産合計は「総資産」とも呼び、その会社の規模を示しています。負債・資本合計は「総資本」ともいいます。規模が大きいだけで経営効率の悪い会社も多くあります。逆に小さい規模の会社でも業界トップクラスの利益を出している会社もあります。
貸借対照表では、左側欄にお金の使途を示し、右側欄にはお金の調達先を示します。流動資産には、現金、預金、売上代金、製品在庫など短期間に換金できるものを指します。  
固定資産は、企業活動において長期間用いられるもので、有形の土地・建物や、無形の特許権などがあります。調達先は、返済義務がある負債と、返済義務のない資本からなります。

財務会計管理会計の違い
財務会計は、株主・投資家・債権者など、社外の利害関係者(ステーク・ホルダー)への報告を主目的とし、商法の規定に則って作成されます。管理会計は、企業独自のルールにより、企業内の経営者や管理者などに報告するためのものです。
財務会計管理会計の違い
ここでは、株主などのステークホルダー(利害関係者)と会計との関係について見ておきましょう。企業会計には大きく分けて財務会計管理会計からなります。
財務会計は、株主や債権者など、社外のステーク・ホルダー(利害関係者)向けに、財政と経営の会計状況を公開するためのものです。財務会計は、社外向けの会計であるため、商法、税法、証券取引法など、各種の法律や会計基準に遵守していなければなりません。いっぽう、管理会計は、経営の意思決定や改善などを目的として、経営幹部など、社内向けに報告するためのものです。 
管理会計では、企業内部のルールによって会計情報が作成され、会計処理の自由度がある点が特徴です。企業経営では、一般的に、計画→実施→統制のサイクルを繰り返します。この計画と統制を支援するための会計情報が管理会計です。計画を支援する会計は、企業戦略をカバーする戦略会計、短期利益計画、設備投資計画などから構成されます。統制を支援する会計には、予算管理、原価管理などがあります。ここでは、特に、経営戦略の支援に有効な原価管理の体系の概要を理解したうえで、各種の原価管理の手法について理解することが大切です。

基本中の基本−経営分析の5つの視点とは
企業が順調な経営運営を行っているかどうかは、経営分析による評価で把握できます。経営分析では,事業の収益性、資本投資効率などの生産性、経営の安全性や成長性などを分析する各種の指標で評価できます。ここでは、経営分析に用いられる代表的な評価指標について説明していきます。
□ 収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の視点
 会社経営が順調に行われているかどうかを分析する視点は、収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の5つです。
企業経営の成果は収益性によって判断できます。収益性は、いかにうまく儲けているかを見るために必要な視点です。収益性は資本の運用の巧拙や製品力のレベルなどにより左右されます。収益性の評価指標として、資本利益率、売上高総利益率、売上高営業利益率などがあります。収益性を判断するのに、損益分岐点分析の考え方も有効です。
会社経営の効率性では、会社が資本や資産をいかに効率よく使っているかを見ます。効率性は、売上債権回転率、棚卸資産回転率、自己資本回転率、総資本回転率などでチェックします。いかに資本や製品、商品の回転スピードを上げている経営を行っているかを見るためのものです。回転スピードが下がると、資本効率が落ちたり、在庫が増えて、経営効率がダウンし、経営コストの悪化につながってきます。
安全性の分析は、取引先における危ない会社を見分けるために不可欠な視点といえます。事業環境変化の激しい現代においては、会社倒産の危機は常について回ります。順調に推移していた業績が、ある日、突然、戦争や地震災害など、突発的な事象の発生で悪化する場合があります。あるいは、大手顧客である取引先の倒産により、現金回収ができずに、倒産の危機に追いやられる場合もあります。粉飾決算の発覚や経営トップの不祥事、顧客を無視した事業運営などで倒産するケースもあります。顧客のライフスタイルの変化に追従できずに、業績が大幅に悪化する会社も見られます。
多角的なリスク管理を行うことで、あるレベルまでは、経営リスクを回避できますが、事業経営は生き物であるため、常日頃から、企業体質の強化を図っておく必要があります。経営の安全性は、事業環境変化にいかに対応できる企業体力を備えているかを見るものです。安全性の分析には、会社の基礎体力や、負債の支払能力、運転資金など、財務面でのチェックがポイントです。
生産性とは、企業の生産活動において、投入する経営資源と産出高との関係から企業の経営効率のレベルを分析するものです。従業員一人当たりの売上高や売上利益率などをチェックします。生産性は、製品や商品のコスト低減力の評価に直結する視点です。安い人件費で効率的にものを作れるような生産力の向上や、単位時間当たりに生産できる製品の数量がアップすれば、生産性が高くなっていると判断できます。
会社の成長性のチェックでは、売上や利益に関する年々の推移の指標から、企業の安定成長の可能性を把握します。企業成長は、従業員や株主、社会への利益還元の拡大には不可欠なものです。企業の成長性を判断する評価指標には、売上高伸び率、営業利益伸び率、経常利益伸び率などがあります。

□ 分析の切り口にはどのようなものがあるのか
 経営分析の切り口をうまく使いこなせば、会社経営の実態がくっきりと見えてきます。
? 財務諸表を使って分析する
経営分析の基本情報は、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書の3つから収集できます。財務諸表からいかに有益な情報を読み取ることができるかは本書で順次紹介していきます。
? 経営指標を計算して分析する
財務諸表の数値をいろいろな切り口で加工して計算すれば、各種の有益な経営指標を導き出すことができます。
? 業界・競合・時系列・目標値の比較によって分析する
業界情報、競合他社情報、数年間の過去の実績情報、経営目標値など、各種の経営情報をベースに、実績の経営指標を相互比較することによって、会社の事業の経営レベルを把握することができます。

損益、貸借、キャッシュの3表を関連付けて見る
損益計算書では企業の儲けである営業成績がわかります。財務諸表では資本の調達と運用の両者の面から、財政状態が把握できます。
□ 3表の特徴を使い分ける
損益計算書の営業成績は企業活動のアウトプットといえます。売上高、費用、利益などの項目は、企業活動の結果として表れる数値ですが、経営資源をどれだけ投入したのかを知るためには、貸借対照表をじっくりながめる必要があります。貸借対照表は財政状態を把握するために不可欠な情報を持っています。どのように資本を調達し、どのように資本を使っているのか、資本の運用状況がわかります。
貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書を関連付けてみることにより、様々な角度から経営の効率性をチェックすることが可能になります。
利益の金額が大きい場合には会社は儲かっています。しかしながら、黒字を維持していても経営が悪化していたり、場合によっては倒産のリスクが発生することさえあります。表面上、利益が出ているにも関わらず、キャッシュを確保できているとは限らないからです。小売などでは現金商売が一般的ですので、売上計上と同時に、顧客が支払いを行うことで、現金が入ってきます。
しかし、信用取引が一般的な製造業などでは、売上計上はされていても、売掛金が膨らみ、顧客からの入金が遅れれば、次第に、手元に残る現金は減ってきます。資金繰りに窮している場合、手元に現金がなければ、社員に給料が払えなくなります。あるいは、仕入れ先の会社に商品の支払いができなくなります。ここでは、キャッシュフローの実態をしっかり把握する必要があり、キャッシュフロー計算書の解読が役に立ちます。キャッシュフロー計算書では、キャッシュの入と出の状況に関する情報が得られます。

<収益性の経営分析> 総資本回転率と資本利益率
 会社がどの程度効率よく利益を生み出しているか、すなわち会社の「収益性」を判断するにはいくつかの指標があります。
□ 収益性を判断できる総資本回転率
よく使用されるのは総資本回転率(総資産回転率)です。会社の規模に対して売上が比較的大きい場合は回転率も大きくなります。反対に会社の規模が大きいにもかかわらず少ない売上しか確保できないと回転率は小さくなってしまいます。売上高と総資本が同じ場合は、総資本回転率は1です。このとき、会社の総資本と同額の1回転分の売上が発生しています。大手企業や中堅・中小の製造業では、総資本回転率は、1〜2回転が標準の値になります。
総資本回転率=売上高÷総資本
―>1〜2回が標準

□ 資本で収益性を判断する資本利益率とは
新規に事業を始めるためには、資金が必要ですが、投入資金に見合うだけの利益が出なければ、その事業は失敗したことになります。事業の収益性を見るうえで重要な経営指標には、資本利益率と呼ぶものがあります。

資本利益率=利益÷資本×100(%)

総資本経常利益率とは
収益性を示す代表的な指標の一つに総資本経常利益率があります。企業に投下した総資本により、1年間にどの程度の利益を獲得したかを示す指標です。
□ 総資本による利益獲得をチェック
総資本は、通常、貸借対照表における期首と期末の平均値で計算しますが、両者に差があまりない場合は期末の総資本で計算します。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本


ここで、総資本利益率は、さらに二つの指標に分解できます。次の式の意味がわかれば、総資本利益率の分解ができます。

A÷B=(A÷C)×(C÷B)

同様に、総資本利益率は売上高を仲介にして、次のように分解できます。投下した総資本の何倍の売上高を達成したかを示す総資本回転率は次式で計算できます。総資本回転率では、資本の利用効率を評価します。回転率が高いほど経営効率がよいといえます。

総資本回転率=売上高÷総資本×100(%)

よって、総資本経常利益率は、売上高経常利益率総資本回転率を乗じて計算できます。本業が順調の場合でも、営業外で、思わぬ株式の売却損や評価損が発生すれば経常利益は悪化します。
逆に、本業が順調でなくても、営業外の副業などでカバーできれば、経常利益の悪化が防げることになります。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100(%)
           =(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)×100(%)
           =売上高経常利益率×総資本回転率×100(%)
<収益性の経営分析>売上高総利益率と売上高経常利益率
利益率に関する経営指標には、売上高総利益率、売上営業利益率、売上高労働分配率などがあります。
□ 売上高総利益率
売上高総利益率とは、粗利率のことで、企業の収益性を評価するものです。企業規模は、会社によって様々です。大企業でも、企業規模に比べて少しの利益しか出していないところもあれば、逆に、中堅・中小企業でも企業規模以上の大幅な利益を出しているところもあります。独創的な製品開発力で勝負し、ニッチ(狭い)市場で、業界トップクラスの利益率を誇っている企業もあります。
売上高総利益率は、会社の儲ける力を把握するための経営指標といえます。売上高総利益率は、高いほど、効率的な事業運営を行っていると判断できるため、優れた会社であるといえます。
製造業では、売上総利益は、売上高から製造原価を差し引いて計算します。いっぽう、卸・小売業などでは、商品の仕入れによって事業を営むため、売上総利益は、売上高から仕入高を差し引いて計算します。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100(%)

総合力をチェックする売上高経常利益率
会社の収益や費用の発生は、本業の営業利益だけによるものではなく、副業による収益・費用を加減算することによって、企業としての総合的な実力を把握することができます。 
売上高経常利益率では、会社の総合的な実力を知ることができます。経常利益は本業の営業利益に営業外収益・費用を加味したものです。
売上高経常利益率は、経常利益を売上高で割って計算します。売上高経常利益率は、製造業で、5%前後、卸・小売業で、2〜3%前後が適正な値であるといわれています。これらの以下の数値になった場合、その企業は、問題ありといえるでしょう。
 本業が順調でなくても、営業外収益でカバーすることもできます。しかしながら、バブル時代には、本業以外の不動産事業などに手を出して、バブル崩壊後の不動産の暴落で痛い目に合った企業が多くあります。あるいは、鉄鋼メーカーなどが半導体などのハイテク事業に新規参入して撤退したケースが多々ありました。
 本業回帰により、強みに経営資源を集中させることで、企業復活を図っているところも多いといえるでしょう。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100(%)



 営業利益率が低いにもかかわらず、経常利益率の高い会社は、本業が順調でない状況に陥っていると判断できます。逆に、営業利益率が高いにも関わらず、経常利益率が異常に低い会社は、本業以外の分野で、負債を抱え込んでいる可能性が高いといえます。


<収益性の経営分析>売上営業利益率と売上高原価率
営業面から企業の採算性を評価する指標に売上営業利益率があります。企業における本業での儲けの実力を見るための経営指標です。
□相互比較でチェック
売上営業利益率は、営業利益を売上高で割って求めます。売上営業利益率は、業界平均や同業他社との比較、さらには経年比較が意味を持ちます。多くの事業を営んでいる会社では、事業部門別に売上営業利益率を把握することも有効です。
製造業では、売上高営業利益率は、5%以上が適正な値といえます。それ以下の数値になった場合は、販売費や一般管理費にメスを入れる必要があるといえます。
売上営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)
―>5%以上が適正値

ここで、営業利益は次式で求めます。

営業利益=売上高 ― 売上原価 ― 販売費 ― 一般管理費

□ 売上高原価率
売上高に対応した製品製造などに要した原価を売上高と対比させた比率に売上高原価率があります。売上高原価率は低いほど優れ、売上をいかに効率よく出したかを把握することができます。
なぜならば、売上総利益=売上高 − 売上原価 の式より、売上原価が下がると、売上総利益は増えるからです。逆に、売上原価が上昇すると、売上総利益は下がることになります。企業では、原価低減活動が活発ですが、原価を下げることで、事業利益の拡大が図れるからです。
売上原価を下げるためには、商品の仕入れコストや原材料の調達コストを下げるための方策を検討し、日々の企業活動において実践していかなければなりません。製造業では、製品の開発・設計プロセスの改善を行い、生産ラインにおけるプロセス(工程)改善が不可欠になります。
このように、利益の源泉は、企業活動における各プロセスを見直すことによって、見出すことができるのです。売上高原価率は、業種にもよりますが、70%以下が適正であるといわれています。
売上高原価率=売上原価÷売上高×100(%)
―>低いほどよい

<収益性の経営分析>グローバル経営指標ROEとは
株主資本利益率ROE:Return On  Equity)は、企業が株主から預かったお金を使って効率的な経営を行っているかを判断するための指標です。グローバル企業には、不可欠な指標です。ここでは、ROEROA、ROIなどについて紹介します。

□ ROE株主資本利益率)とは
企業が事業活動で用いる総資本は、株主資本と他人資本から構成されます。株主資本は企業が株主から預かったお金です。他人資本は銀行借入や社債などによる資本の調達によるものです。
ROE(Return on Equity)は、自己資本(株主資本)に対してどの程度の利益を上げているかを示すものです。ROEは株主が投資したお金の利回りを意味しています。ROEは、株主資本(自己資本または純資産)に対する税引後の当期利益の割合のことで、株主資本利益率あるいは自己資本利益率ともいいます。株主資本は株主が出資した資本金、法定準備金、剰余金の合計です。株主にとって、投資した企業のROEの値は、少なくとも市中金利よりも大きくなければ、魅力の無い投資になってしまいます。計算式から、当期利益の増加、あるいは、株主資本の減少によって、比率は高くなります。当期利益を増やすことが、株主資本の増加につながります。

ROE株主資本利益率)=純利益÷自己資本
=当期利益÷株主資本

会社は借入れにより資金を調達し、ROEの数値そのものを高くすることが可能です。そのため、ROEの絶対値そのものを自己資本比率の異なる会社間で比較しても有益な情報は得られません。連結決算時代では、単独ROEでなく連結ROEで判断する傾向にあります。一般には、10%以上のROEを達成できれば、優れた企業といえるでしょう。欧米の優良企業では、ROEが20%を超えている企業が数多くあります。
分子の税引後の当期利益と分母の株主資本を発行株式数で割ると、次の式を得ることができます。
ROE=一株当り利益÷一株当り株主資本

<収益性の経営分析>株主が最重視する株価収益率PERとは

株価収益率(PER:PRICE EARNINGS RATIO)は、株価が割安か割高かを判断するための指標です。
□ 株価の何倍まで買われているかをチェック
PERでは、株価が1株あたり利益(EPS:Earnings Per Share)の何倍まで買われているかがわかります。PERは次式で計算します。

PER=株価÷1株当り利益(EPS)


例えば1株の株価が2,000円、今年度の1株当りの利益が200円の場合、PER=株価2,000円÷EPS200円=10倍となります。利益に対して株価が低いとPERは小さくなり、株式は割安といえます。利益に対して株価が高いと、PERは大きくなり、株式は割高といえます。

?PER 小さいと、株価は割安
?PER 大きいと、株価は割高

株価純資産倍率(PBR:PRICE BOOK-VALUE RATIO)は企業の資産価値を判断するための指標です。株価純資産倍率(PBR)は次式で求めます。

PBR=株価÷1株当り純資産

株価が3,000円で1株当り純資産が1,000円の場合、PBRは3倍になります。純資産は、資本金、資本準備金利益準備金などを合計したものです。1株当り純資産は、企業の解散時に株主が得る価値となります。PBRは、株価が1株当たり純資産の何倍であるかを意味しています。
すなわち、解散価値の何倍まで買われているかを示しています。PBRが1を割り込むことはなく、PBRが1に近い値では株価が底値に達したとみなすことができます。






























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―ITマネジメント

シリコンバレーの神経系ネットワーク

米国のハイテクの集積地域であるシリコンバレーは情報産業のリード役を果たしています。ここでは、インターネットがビジネス活動の神経系のネットワークとして、ビジネスマンにとって、必須のツールです。従来型の経営においては、トップからの経営戦略、事業戦略からの指示のもとに各個人がビジネスの絵を描いてきたのが一般的でしょう。現在、必要な市場情報や製品情報、その他、ビジネス活動に必要な情報は、インターネットから引き出すことが可能で、その場での即断即決の意志決定のビジネススタイルを可能にします。この意味で、インターネットは組織のフラット化とプルスタイル(引っぱり型)の情報活用を加速化させていると言え、情報が上位から下位に降りてくる階層型組織によるプッシュスタイル(押し出し型)とは、情報流通機能が全く違っています。インターネットのこのプル機能はシリコンバレーにおけるベンチャービジネスの新陳代謝を促すビジネスのインフラといえるでしょう。

○双方向コミュニケーションによる電子商取引市場の成長

このインターネットの持つ能動的なWebの機能は、ビジネスの分野のみならず、消費者に情報の発信者、受信者として、双方向のコミュニケーションに参加させ、消費者と企業が生み出す情報の蓄積と進化をもたらし、新たな付加価値を介した電子商取引市場の飛躍的な成長につながっています。

インターネットによって、Web上に現れる無数の情報から、新たなビジネスモデルによるサイバースペースでのビジネスが加速度的に生まれてきています。IT革命はコストがゼロに限りなく近いインターネットの情報を世界中に流通させ、売り手が潜在顧客を発見することが容易になり、製品・サービスにおける顧客の選択肢の幅は一気に拡大しました。 

サイバースペース上での電子流通による商品、サービスの新しいe マーケットプレイスは既存の店頭販売を始めとした従来のビジネスのやり方に対して市場撤退を迫ってきています。経営者はIT革命が経営の屋台骨を大きく揺るがしてきていることに危機感を持たざるを得ない時代に突入していることを認識しなければならないでしょう。



○ナレッジ重視型企業 

 IT革命は資本力の乏しい新規企業やニッチ企業を世界の電子市場に躍り出ることを可能にしました。資本力だけに頼った従来のビジネスモデルは競争優位性を失ってくる時代になってきています。アウトソーシングコア・コンピタンスの絶妙なバランスを経営の基本軸に据え、インターネットを事業の推進力に組み込めるナレッジ重視型の企業は21世紀をリードしていくe カンパニーとして勝ち組の土俵に残れるでしょう。最小の経営資源で最適化を図り、企業付加価値の最大化をいかなるビジネスモデルによって実現していくかという問いに明確なビジョンと実践力で答えうる経営者のみが資本市場で高い評価を受けることができるでしょう。

○購買行動の変化と顧客起点ベクトル

 一方、消費者と企業の購買行動は大きく変わりつつあります。インターネットで、製品や商品・サービスを選択・注文するのは利便性・コストの優位性から、購買スタイルとして定着してくるでしょう。このような顧客の変化の方向を機敏に捉え、顧客を起点ベクトルに据えた企業の業務プロセス、バリュー・チェーン(価値連鎖)にデザインシフトしていくことが新世紀型のビジネスモデルを追求していく基本的アプローチといえるでしょう。

 すなわち、従来のようにメーカ主導型の製品ありきの発想から脱却し、顧客ニーズを徹底して把握し、そこを起点にして業務プロセスをデザインするやり方への転換です。

 顧客へのサービス、顧客に到達するまでの物流、販売、生産、材料調達、製品設計、製品開発というように、源流に遡って、従来の業務プロセスの流れを逆転させて顧客の視点からビジネスモデルをデザインするというアプローチが重要です。

○ITマネジメントにおける視点とアプローチの転換

 このようなビジネスモデルを実現するためには、ITマネジメントはいかにあるべきでしょうか。限られた経営資源の中でいかにITを活用して、あるべきビジネスモデルをデザインしていくのかを検討していくうえで、従来のITマネジメントに取り組むときの視点とアプローチの基本的な有り方の転換を図っていく必要があります。具体的なところは次章以下で明らかにしていきますが、ハイパーエンジニアが目指すべきITマネジメントはコスト、品質、スピード、インターフェースの視点から戦略的かつシステム思考的な発想で情報化アプローチを検討していくことがポイントになります。従来、モノつくりの視点は品質、コスト、納期の枠ぐみの中でビジネスが行われてきました。

 しかし、IT革命時代においては、ビジネスに求められる最重要なファクターはスピード、及びインターネットを介して生まれるサイバービジネス空間における金、モノ、情報の流通性を決定するインターフェースの視点にシフトしてきています。製品やサービスにおける品質、コストはeビジネスの土俵に参加するためのパスポートとして企業が当然に備えるべきものという位置付けになって来ています。とくに、品質においては企業活動における事業リスクが多様化・複雑化する中で、製品やサービスを輩出するバックボーンとしての経営品質のレベルが問われてきています。

 ITエンジニアは、従来型のITマネジメント取り組みの視点からの脱却を図り、戦略的視点からITを経営に深く浸透させることができるようなITマネジメント能力を身につけていく必要があります。

 そのためには、問題及び課題発見型のITソリューションを経営的視点から駆使できるスキルが要求されます。MBAのシステム的戦略思考による発想力のレベルがITエンジニアの資質の評価基準として重要なファクターとなってくるでしょう。



―なぜIT化は失敗するのか

○戦略の運命共同体 

 それでは、ビジネスモデルの再構築や革新をどのようなアプローチで取り組んでいけばよいのでしょうか。ここでは、ビジネス活動におけるマネジメントおよびITマネジメントの2つの視点からIT化が失敗に帰する要因を検討してみましょう。

 情報化戦略はビジネスモデル特許が情報技術(IT)を活用した新規性のあるビジネスを対象としているという意味で、事業戦略に沿って、創造的なビジネスモデルをIT化でいかに実現していけばよいのかがポイントになります。特に、インターネットの活用における新規性のある仕組みが特許になるかどうかのキーになります。

 情報化戦略は事業戦略、経営戦略と連動し、整合性をもたなければ、トータルとしての経営効果は期待できないでしょう。これらすべての戦略は運命共同体といえるものです。いずれかが欠けたり、整合性が不充分な内容では、組織内部要因あるいは競合や技術革新、事業環境変化の外的要因によってビジネスモデルは音を立ててその基盤から崩れていく弱さを内在することになります。

 逆に、これらの戦略がうまく連携すれば、競合の企業に対する競争優位のみか、業界構造の創造的破壊による独占的ポジションの確立、新規のビジネスの創造さえ可能にするチャンスが狙えることも忘れてはならないでしょう。

○情報の共有化と組織力

 情報の共有化・シームレス化を進めていく上で、組織・部門間・協力会社間及び顧客との壁を取り除かなければ、情報の流通機能は作用せず、情報システムが孤立化して、いわゆる離れ小島の集まりの現象ができてしまうことになります。情報化を進める際、組織力学のアンバランスの問題は最も力点をおいて、十分な内外の組織・部門間のコンセンサスのもとにトップダウンで解決しておくべきものといえます。ここで、ハイセンスなプロジェクトマネジメント能力が問われるのはいうまでもないでしょう。

○システム的戦略思考の重要性

 いっぽうでは、現場の声高なニーズに振り回されて部分最適に陥っていた従来の情報化のアプローチからの脱却を図っていくことが重要です。マクロ的かつ鷹の目の視点で、全体最適化の企業活動のデザインをイメージできなければ、スピードとコストの追求は難しいでしょう。

 経営に深く関わってきている情報化において、システム的な戦略思考が特に重要です。米国の戦略の権威であるマイケル・ポーター氏は、戦略とはいかに競合に対し差別化を図れる競争優位なポジションを築きあげられるかをデザインすることであると言っています。競合に対し差別化できない情報システムは、負の遺産となるだけなのです。すなわち、システム思考による斬新なアイデアを情報システムに組み込み、ビジネスモデル特許で独占的ポジションを構築することが、経営的に競争優位に立つためのインフラ基盤の確保につながります。

 特に、企業にジャストフィットした経営管理手法を戦略的に導入・活用し、情報システムと連携させて、企業活動の仕組みそのものの戦略的ブラッシュ・アップを図っていくことが極めて重要です。いわゆる情報部門任せにしないユーザー参画型の環境作りが情報化の成否を決めるといえるでしょう。



○システム導入後の効果チェック体制の整備

 ここで見落としてはならないポイントは投資の狙いと情報システムの立ち上げ後の効果検証の組織的かつ継続的なフォローです。

 キャッシュフロー重視の経営の実践においては、経営効果を全社的にオーサライズされた客観的評価尺度で継続的にチェックする組織的な取り組みが不可欠です。当初の狙いに対して、達成できたところと達成できなかったところを明確にし、トップ及び関連部門を入れて、議論・反省を行ったうえで、システムの改善や運用方法の在り方の見直しを徹底することが重要です。情報化で失敗しているケースでは、この視点を忘れて、現場任せで、情報システムの絶えざる改善のサイクルができあがっていない企業が多いといえます。

 業務プロセス、組織構造、及び情報システムが事業環境の変化に追随して柔軟に変身を不断に図っていける仕組みが整備されているか、情報化の成否を決める重要なファクターはここにあるといえるでしょう。

―ITマネジメントのための経営における基本概念とは

○WIN−WINの構築

 ビジネスモデルの再構築や革新を推進していく前提条件として、組織や内外の関連する企業の垣根を越えた全体最適化の視点でビジネスモデル戦略を明確に打ち立て、全社的な共有化を図る体制作りが必要不可欠といえるでしょう。いわゆる企業間のB to B (BUSINESS TO BUSINESS)電子商取引のサプライ・チェーンをWIN-WINの関係で構築し、自社とサプライヤー(調達先)が相互のメリットを追求していくことが重要です。それではビジネスモデルの創造を目指した情報化戦略について考えてみましょう。

○オペレーション・マネジメントの最適化 

情報化の究極の目指すところは、ビジネスモデルの創造や革新を通じて、経営資源の最適化、コアコンピタンス(核となる競争力)の強化、競合優位の確立、顧客満足の最大化と収益力の強化を実現していくことであるといえます。

 経営とは、インプットとしての経営資源の最適化をいかに図り、アウトプットとしての企業の付加価値の最大化を実現すればよいのかという課題を、最適なマネジメントによるオペレーションをデザインし、実践を通じて解決していくことです。

 企業活動における人材、運転資金としてのキャッシュ、製品材料、生産のための設備、そして、それらをコントロールするためのベースとなる知識、ノウハウ、情報がインプットとしての経営資源です。一方、企業活動におけるアウトプットは顧客満足の最大化を目指すことであり、コストの最小化による企業収益大化のリターンが企業存続の条件です。

 ここで、最小限の経営資源のインプットに対する企業活動の結果としてのアウトプットの最大化をいかに実現していけばよいのかが情報化に与えられるべき課題といえます。オペレーション・マネジメントにおける最適化と競合に対する差別化を図っていくためには、人材・組織の見直しが重要であり、業務プロセスの革新も視野にいれなければなりません。企業付加価値の最大化達成の成否は、最適なバリューチェーンの再構築をいかに計画し、実現できるかにかかっているといえるでしょう。



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