中小企業診断士・IT資格受験対策講座:経営ビジョンとは

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■経営ビジョンとは
経営ビジョンは、企業の将来像を短いフレーズで表現したもので、企業の魂ともいえるものです。たとえば、「世界最高の製品で市場に貢献しよう」という経営ビジョンでは、この短いフレーズにその企業の将来像と目指すべき方向が明確に表現されることになります。
経営ビジョンは、その企業の社会における存在価値を示すものであり、企業の顔といえるものです。製品やサービスは、経営ビジョンのDNAを備えています。従業員の価値観や倫理観、企業風土も、経営ビジョンのDNAをもとにして形成されます。
 企業経営では、明確なビジョンと戦略は、羅針盤の役割を担い、企業の浮沈を決定すると言っても過言ではないでしょう。経営トップが明確なビジョンを従業員に示すことができなければ、現場の第一線で企業活動に携わる幹部や従業員は、右往左往することになります。企業活動のベクトルが各部門でバラバラな方向に向いて統制が取れなくなります。経営資源の無駄使いやロスが発生して、企業経営は衰退の道を辿ることになります。バランス・スコアカードでは、明確なビジョンと戦略の設定は、企業の経営能力開発における推進力という位置付けにあります。
 このように、経営ビジョンは、組織体の本質を決定付けるオーガナイザー(自己誘導)の機能を有しています。樹木にたとえれば、経営ビジョンとは、根っこを支える土であり、土壌の成分が木の成長の行く末に大きく影響します。
 以上のようにバランス・スコアカードにおける経営ビジョンは、経営的に非常に重要な機能を担うことがわかります。経営ビジョンは、企業の歴史の中で、形成されてくるものです。経営トップが交代するたびに変更になるようなものではなく、未来を長期的視点に立って洞察し、自社のあるべき姿を明確にしたものです。
しかしながら、事業環境変化のスピードが速い今日においては、経営ビジョンの陳腐化も速くなってくるといえます。経営ビジョンが、自社の事業内容を表現するのに無理が出てくる場合や、事業環境変化にマッチしない経営ビジョンである場合、トップダウンによる見直しが必要になってきます。

 バランス・スコアカードの実践は7ステップから構成されます。バランス・スコアカードの第1ステップでは、ビジョンを明確にします。ビジョンは、企業の社会的存在価値を短い言葉で表した理想の姿そのものです。ここでは、戦略策定のための基本方針を明らかにします。経営方針とも言い換えることができます。経営方針は、企業の方向性を決めるもので、企業内外に公開されます。
 第2ステップでは、経営方針に則り、経営評価の4つの視点にプラスαの視点を追加することを検討します。環境の視点やCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)、リスク・マネジメントの視点を追加する企業が増えています。
 経営の評価の視点が決定したうえで、経営のゴールにおける最大の戦略目標として、KGI(Key Goal Indicator)というものを設定します。KGIとしては、売上高や利益率の伸び、市場シェアなどがよく使われます。企業では、KGIは、半年あるいは1年スパン程度の短期計画、3年スパン程度の中期計画、3〜5年程度の長期計画において、各々設定されるのが一般的です。
 第3ステップでは、KGIを達成するために、企業を取り巻く外部環境と内部環境の分析を行います。ここでは、SWOT分析という手法により、強み、弱み、機会、脅威を洗い出して、機会を活かして強みを強化し、脅威から弱みを回避することにより、勝つための基本戦略を練ります。
 第4ステップでは、SWOT分析をベースにして、4つの視点の因果関係を連関的に表現した戦略の鳥瞰図を作成します。ここでは、外部環境における機会を捉えてビジネス成長を図るとともに、外部環境の脅威を回避するシナリオを財務、業務プロセス、学習と成長、および顧客からなる4つの視点で練ります。・・・・・・・

最終的には、目標の設定に対するモニタリング(監視)を組織的かつ定期的に実施し、実績とのギャップを明確にして、問題点の把握、要因分析を行い、対策の軌道修正を図っていきます。

企業活動におけるバランス・スコアカードの作成は、組織のトップから、事業部長、ミドルマネジャー、一般の従業員にいたるすべての階層において、全社的に実施します。ただし、慎重を期すため、特定の事業部や部門でテストパイロット的に実施して、仮説、検証の評価を行い、段階的に全社的に水平展開していくアプローチが有効です。




■ITソリューションと経営的視点
 ITソリューション戦略の検討において、留意すべきことは、クライアントと一体になって企業活動の仕組みの見直しを十分に行うステップを踏まずに、ITソリューションの絵を描いてはならないということです。IT投資効果を見極め、経営的視点からITの導入を検討します。

□経営手法とビジネスプロセス
 企業活動の仕組みの再構築を図っていくステップでは、クライアント企業の事業特性や企業文化、組織特性、製品特性、及び事業特性などの実態にマッチした最適な経営手法を導入し、ITソリューションで企業活動の枠組みを固める必要があります。
 経営手法は、企業活動におけるビジネスプロセスの強み、弱みを見極め、競合に負けているビジネスプロセスを強化するために適用されます。各種の経営手法が企業活動におけるどのビジネスプロセスで活用できるのかをよく知っておくことが重要です。
 企業活動におけるビジネスプロセス毎にマッチした経営手法にはどのようなものがあるのか、相互の関係をしっかり把握することが大切です。

コア・コンピタンス
 利益の源泉となり,他社と比較して優越した自社独自のスキルや技術を指します。自社のコア・コンピタンスを見極め、経営資源をそこに注力することで、経営資源の有効活用が図れ、経営効率の向上につながります。コア・コンピタンスには、開発力、販売力、生産力や、他社がまねのできない革新的な独自の専門的技術などがあります。

□SIS(Strategic Information System) 
 SISとは,競争優位を目指した戦略的情報システムのことを指します。情報システムにより,経営に関するデータの蓄積,活用を促進する効率的な業務や取引の形態に転換していく狙いがあります。
 ここで、競争優位とは、自社が競合の企業に対して企業活動の仕組みや,製品開発力,サービス力、ブランド力などで勝っているような状況を指します。

アウトソーシング
 アウトソーシングとは,外注化のことです。限りある経営資源をもつ企業が,外部の経営資源を活用することにより,経営効率を高めることができます。
 たとえば,製品の開発あるいは生産を外部企業に委託し,自社の得意分野に人,モノ,金を集中することにより,収益の向上が図れる例がよく見られます。情報システムのアウトソーシングでは,情報システムの構築や運用を社内のシステム部門から外部の専門業者に委託します。情報システムの導入コストや運用管理コストの低減化が図れます。
CRM及びSCM
 顧客管理強化のための経営手法であるCRM(customer relationship management)では、顧客と製品・サービスを提供する企業とが相互に信頼関係を築くための顧客管理を行うことができます。
 企業と顧客の信頼関係の確立を目指して,企業は顧客の消費プロセスに深く関わって行く企業活動の展開が必要です。顧客への個別対応と信頼関係の強化がマーケティングの重要課題になってきています。
 CRMにより、特定の顧客のセグメントニーズに着目して掘り下げ、そのニーズに合った商品やサービスを開発、提供することで、顧客との緊密な信頼関係を築くことができます。

 SCM(Supply Chain Management)は、企業間連携による全体最適の仕組みの構築に不可欠な経営手法です。IT(情報技術)を活用して、情報の共有化による企業間連携を高め、取引先との受発注、調達、在庫、製造、物流プロセスに関わる情報などを共有します。
 企業活動を全体最適の視点でマネジメントすることで、リードタイムの短縮化や在庫の低減化,流通コストの削減に効果を発揮します。企業の供給活動のプロセスにおけるモノ・情報・金の流れを供給連鎖(サプライチェーン)と捉えます。SCMの情報システムに参加する企業間で、経営資源全体最適の視点で一元管理できます。ここでは、企業間の既存の枠組みにとらわれず、需要情報、生産情報、顧客情報、製品情報など、企業活動に関わる情報を参加企業間で共有し、参加企業が一体化できる仕組みを構築できるかどうかがポイントです。

□ ステークホルダー(利害関係者)からみた評価
 多数の(ステークホルダー)利害関係者が参加する情報システムでは、関係者や関連部門、関連企業の満足ある評価を得なければ、プロジェクトの推進に支障を来たし、システムの定着化も図れません。
 スパイラルアプローチによる評価・軌道修正のフィードバックサイクルが機能するためには、プロジェクト評価項目を明確にしておくことが大切です。
プロジェクトの企画・計画段階で、クライアント企業の経営トップをはじめ、利害関係のある関係者・関連部門、関連企業の品質評価尺度を予め情報収集します。関係者のリーダー格のメンバーからなる会議で十分に議論を尽くし、プロジェクト評価尺度を決定します。これは、プロジェクトメンバーの目標設定を可能にし、モチベーションの形成を促し、プロジェクト推進のエネルギーの源泉となります。

プロジェクトを推進するうえで、戦略の実践に必須のプロジェクト評価にはさまざまなものがあります。ここでは、プロジェクト評価のフレームワークの考え方がプロジェクトの成否を決める大きなファクターとなります。
 プロジェクトにおける対象領域の設定は、プロジェクトの品質を決めるうえで、決定的な役割を果たします。対象領域のレベル設定では、次の5つのカテゴリーに分けることができます。?部門内での業務レベル課題解決のためのIT・BSC、?関連部門を含む業務レベル課題解決のためのIT・BSC、事業戦略に関わる事業部レベルにおける課題解決のためのIT・BSC、?経営戦略に関わる全社課題解決のためのIT・BSC、?サプライチェーン・マネジメント(SCM)の具現化のような企業内外の関係する企業(サプライヤ、物流業者、販売店など)との連携ビジネスにおける課題解決のためのIT・BSC、?地域連携ビジネスのIT・BSC、国家連携レベルのIT・BSCに階層化できます。 さらに、対象領域のコンテンツの設定では、次のような12からなるカテゴリーを設定できます。?業務プロセスの改善・改革・革新、?新ビジネスモデルの創造・構築、?既存ビジネスのリエンジニアリング、?新業態の創出、?競争優位の確立、?コスト低減、?ビジネススピードアップ、?企業間連携、?合併&買収によるシステムの統合化、?新製品の輩出、?技術革新への対応、?環境経営への対応があります。
 さて、ITのプロジェクトの全体価値は、どのように数値化できるでしょうか。
<アプローチ> 2つの要素の全体価値は相乗積で求める!
 プロジェクトの全体価値は、ITバランス・スコアカードの対象領域におけるレベルとコンテンツとの積で数値化できます。
企業において、S1からS11及びTS1からTS5までの評価で、スコアを設定することで、プロジェクト全体の価値を評価でき、複数プロジェクトの優先順位付けに役立てることができます。すなわち、プロジェクトの全体価値=ΣSi×TSiで求めることができます。
プロジェクト対象領域 Si:        対象領域レベル TSi:
                 
業務プロセスの改善・改革・革新(S1)  部門内での業務レベル(TS1)
新ビジネスモデルの創造・構築(S2)
既存ビジネスのリエンジニアリング(S3)   関連部門業務レベル(TS2)
新業態の創出(S4)
競争優位の確立(S5)            事業戦略レベル(TS3)
コスト低減(S6)            
ビジネススピードアップ(S7)        経営戦略レベル(TS4)
企業間連携(S8)
合併&買収によるシステムの統合化(S9)   企業内外連携ビジネスレベル
新製品の輩出(S10)                      (TS5)
技術革新への対応(S11)           地域連携ビジネスレベル(TS5)
環境経営への対応(S12)           国家連携ビジネスレベル(TS6)

□IT投資評価の基本的考え方
 ITの技術革新のスピードはシステムの陳腐化を促します。業界標準にマッチしたITテクノロジーの採用は、企業間における双方向でのオープンな情報のやり取りの実現のためには不可欠なアプローチといえます。
 自社のコア技術,業務・技術ノウハウ,強みのオペレーションや経営資源の最適化を図るために,どのようなITテクノロジーを選択し,情報システムのインフラ基盤を構築していくべきかを検討しなければなりません。
 ITのニューテクノロジーの導入では、現行システムとの技術的な整合性の検討も重要です。情報システムの変更、改善では、大きな再投資が不要なITデザインが要求されます。投資効率を十分に評価・検討し、クライアント企業の業態、事業特性にマッチしたITソリューションを選択できる能力が必要です。
 情報システムのRFP(Request For Proposal:提案要請)では、クライアントに対して、複数の代替案を提示することがポイントです。少なくとも3案からなるITデザインをクライアント企業に提示することが有効です。

 IT投資効果を検討する際,複数のプロジェクトの優先付けには,会計利益率法などが用いられます。さらに、現在価値法や回収期間法などの投資評価手法により,事業採算に支障を来さない投資判断を行うことがポイントです。
 現在価値法では,投資金額を利率で割り引いて現在価値に直して投資効果を算出します。回収期間法では,予想される効果金額が何年で回収できるかを算定して,回収のメドが立つ期間・年数と回収基準期間・年数とを比べて,投資の意思決定を行います。

 プロジェクトマネジメントの視点から、システム化におけるユーザ・ニーズを明確にし,推進スケジュール,開発体制,予算などに関する計画を立て,関係部門,関係者,経営トップの承認を得ます。
 次に、システム化における対象業務内容を明確にし,ユーザ・ニーズとして開発技術者に提示します。基本計画はシステム化計画,プロジェクト実行計画,要求定義の3つに作業工程が分かれます。
 ITプロジェクト推進計画書の作成では,プロジェクトの狙い・背景をまず,明確に記述することが重要です。なぜ,情報化を進めなければならないのか,事業性や競合他社の動向,業界の動向,技術革新の動向など,企業内外の環境を十分に把握したうえで,現状の問題点を整理し,全体最適かつ戦略的に問題点の解決策を練ります。
 問題点を解決するためのITソリューションの選択では、投資効果,現状のITの整備状況,IT人材の情報システムの運用管理能力やスキルなどを見極めたうえで,明確なソリュ−ションのデザインが要求されます。
 プロジェクトの推進では,後戻りはできないという覚悟のもとに、様々な問題や障害に万全の体制をもって望む必要があります。登山に、万全の準備をして望む場合でも、気象条件の変化や思わぬトラブルなどに遭遇して、戦略の練り直しが幾度も要求されるのが常です。 
 プロジェクトでは関係者が多数関わり、チームワークのパワーを発揮できるかどうかにより、プロジェクトの成否が決まるといえます。このため、十分な意見調整と情報の共有が図れる仕組みを構築することが不可欠です。
プロジェクトの推進スケジュールは、関連部門,関係者,ITベンダーとの調整のもとに明確にし、理解を得て、周知徹底を図ることが大切です。ここでは,①情報化のための現状調査・分析,ユーザ・ニーズのヒアリング,続いて,②システム設計,開発,テスト,③システム導入・本格稼働・運用管理からなる日程計画を記述します。システム化計画の記述では、投資額対期待効果の評価,開発の体制及び規模,技術革新の動向調査だけでなく、推進上の問題点・課題・対策なども明記します。
 企画書には,以上のように,プロジェクトの推進における必須項目を明記するとともに、IT投資効果の明確化を図るため、経営的視点で目標効果の明細をできる限り金額,数値で記述することがポイントです。

RFP(RFP:Request For Proposal)
 ITベンダーにITシステム導入の見積もりを依頼する際には、提案依頼書(RFP:Request For Proposal)が作成されます。
ITシステムの投資検討では、複数のITベンダーに対して、システムの概要や構成要件、調達条件を記述したシステム提案を依頼する文書(RFP)が必要となります。RFPには、ハードウェア及びソフトウェアの構成、サービス内容、依頼事項、保証用件、契約事項などを明記します。

ERP
 ERPはEnterprise Resource Planningの略で,企業の基幹業務全体を支援する統合情報システムを指します。調達管理,生産管理,会計・財務管理,人事管理,販売管理,サービス管理など,企業活動における各管理分野をサポートする各種のソフトウェア・パッケージがITベンダーにより供給されています。
ERPは標準的なビジネスプロセスをシステム化しているため,グローバル経営を目指す企業にとっては,スピーディかつ安価にシステムの立ち上げが可能である点がメリットといえます。
 ERPの各モジュールはその業界でのベストプラクティスの経営の仕組みやビジネスプロセスを組み込んでいるため,企業経営のやり方やビジネスプロセスの刷新手段としても優れています。
 世界各国の通貨に対応した多通貨対応機能により,グローバルな決済機能を持つ多言語対応のERPソフトウェア・パッケージも用意されています。
 ERPのデメリットとしてよく指摘されるのは,日本独自の商習慣になじまないものがあるものも多いという点です。現行業務にERPパッケージをフィットさせようとする場合,ソフトウェアのカスタマイズ費用が当初の見積もり金額を大幅に超過することもあります。
 ERPパッケージの選定では,ベンダーのコンサル力,情報システム企画・構想・構築能力,導入後のサポート体制,企業規模,価格見積基準の根拠,技術対応力,コード体系,使い勝手,基本コンセプト,各種機能・オプション,導入実績などをチェックすることがポイントになります。
 複数のITベンダーを徹底的に比較・検討して,IT投資規模,経営・事業特性を十分に勘案したうえで選定することが大切です。
 コード体系の全社的な統一化も大きな負担になるため,関連部門,関係者を含めて現行の情報システム及び業務プロセスの十分な事前調査を行う必要があります。

□SI(System  Integration)
SIとは,ユーザニーズの分析・把握に基づいてハード・ソフトの全てに関わる情報システムの構築において、立案・設計・開発・導入、及び運用の準備,保守などに至る幅広い業務を一貫して統合的に行うサービスを指します。このような業務を請け負う業者をSI(syetem integrator)と呼びます。IT化レベルが高くないユーザでは、ERPの導入において、SIの活用を図ることで、IT化を進める選択肢もあります。


システム開発の手法を理解する

 基幹業務システムの開発では,開発の手順をモデル化したものとして,ウォータフォールモデル,プロトタイピングモデル,スパイラルモデルの3つの開発モデルがあります。迅速な開発手法としてはRADがあります。ウォータフォールモデルでは,システムの開発の上位フェーズから下位フェーズに向けて,前工程の成果と次工程に引き継ぎながら,順次開発を進めていきます。

基本計画―>外部設計―>内部設計―>プログラム設計―>プログラム開発―>テスト―>運用・保守

 作業のフェーズは,基本計画,外部設計,内部設計,プログラム設計,プログラミング,テストからなります。各工程ごとに成果物の検証作業が組み込まれす。これにより,前工程に戻るのが困難であるという欠点を防ぐことができます。

□ウォータフォールモデル
 ウォータフォールモデルによるシステム開発では,単体テスト,統合テスト(モジュール間のテストであり,結合テストともいう),システムテスト(システム全体の機能テストや処理時間,処理能力をチェックする性能テストであり,総合テストともいう),承認テスト(検収時に行うテスト),運用テストがあります。
□プロトタイピングモデル
 プロトタイピングモデルでは,開発段階で試作品(プロトタイプ)を作って,エンドユーザのニーズを十分に確認しながら開発を行います。試作品の結果を以降のシステム開発工程に反映できます。エンドユーザに画面や帳票のイメージを与えながら開発者と一体になって要求分析と基本設計を行います。

□スパイラルモデル
 スパイラルモデルでは、大規模開発向きのウォータフォールモデルと小規模開発に向いているプロトタイピングモデルの長所を取り入れています。この手法では、システムの一部の開発から始め,サブシステムごとに開発し,発展的に成長させて全体のシステムにつなげいきます。通常、開発工程のリスク管理に重点が置かれ,ユーザの要求定義のステップでプロトタイピングモデルを用います。
 
□RAD
RAD( Rapid Application Development)では,短期間でアプリケーション開発を行うことができます。①キックオフミーティング、②要求定義、③外部設計、④開発、⑤導入のステップからなります。RADでは、特に、外部設計において、プロトタイピング手法を用いて、ユーザ・ニーズを明確にし、外部仕様を効率的にすばやく確定するところに特徴があります。開発のステップでは、CASEツールなど、各種のツールやソフトウェアパッケージを活用し、短期間の開発を実現します。プロトタイピングの開発では、ユーザの参画により、効率的なユーザ・ニーズの吸収を図ります。
□システムの見積り手法
 オブジェクト指向GUI(Graphical User Interface)画面による開発の活発化に伴い,プログラムのステップ数で見積もる従来の方法ではコスト算定の信頼性の確保が難しくなっています。ファンクションポイント法では,システムに求められる機能及び規模,開発の難易のレベルを分析し,開発コストを見積もります。
 現行システムから新規システムに移行する際に関わるシステム移行時の留意点について理解します。現行システムから新規システムの移行においては、関係者の参加のもとに、まず、移行対象を明確に決定する必要があります。データ変換の移行作業、ハードウェア、ソフトウェアの移行作業など、手順と準備事項、担当者、スケジュールを明確化し、移行計画書を作成しなければなりません。そのうえで、関係者の了解を得て、移行リハーサルを行い、新たに発見あるいは発生した問題点や課題を抽出し、本番稼動のための移行計画を確定し、移行の実施に着手することになります。
 ここでは、移行失敗時のリカバリーをどのような段取りと手順で行うか、不測事象対応計画として事前に準備しておくことも必要です。さらに、システム規模が大きい場合や、関連部門、関連する外部企業が多数に亘る場合は、システムのダウンやバグなどによるトラブルを想定して、移行対象範囲を限定し、特定の部門、関連する企業でパイロットテストを行い、十分に、検証し、問題点を洗い出し、改善を図った上で、順次、移行対象範囲を拡大していくアプローチが重要といえます。

□ システムの運用計画のポイント
 事業環境変化への対応などのため,情報システムのハードウェア,ソフトウェアに関する構成変更が発生すると、現場業務に支障が生じないようにシステムの運用管理を図る必要があります。
 情報システムでは、ハードウェアの更新やソフトウェアのバージョンアップが発生するため,ハードウェアとソフトウェアの構成を記録できる台帳管理が必要です。システムセキュリティの確保のためには、ユーザIDやパスワード管理を組織的に行う必要があります。情報システムに関するセキュリティ評価基準ISO15408では、第三者機関が企業における情報処理機器や運用システムにおけるセキュリティ機能・品質を検査し,問題がないことを証明します。システムの運用においては,セキュリティ対策を十分に検討し,実施することが重要です。
 バッチ処理を採用しているシステムでは,システム運用の詳細なスケジュールを計画します。処理内容の優先順位,処理手順のルールを明確にして,運用マニュアルを作成し、運用状況は、運用日誌に記録します。システムのトラブル発生時には,日常業務に支障が出ないように迅速に対応できるような仕組みを不測事象対応計画として、事前に計画します。システムの保守は、定期的にチェックを行い、未然にトラブルの発生をを防ぐことが要求されます。

□ TCO( Total Cost of Ownership)と運用形態の選択のアプローチ
 運用管理では、TCOの考え方が重要です。TCOとは,コンピュータの導入時の初期投資費用だけではなく,運用・保守や教育に関わる導入後の費用を含めたシステムの総コストを指します。情報化におけるコストには、要件定義段階でのコンサル費用、ハードウェア及びソフトウェアの費用、システム開発費用、導入・運用管理費用、廃棄費用などがあります。システムのコストは、情報システムのライフサイクルの視点で把握することが大切です。    
 たとえ導入までのコストが比較的安くても、人件費やソフトのバージョンアップ、通信費用、カスタマイズやシステム改善などの運用管理コストで当初の見積もりを大幅に上回る場合も発生することが多く、注意が必要です。
 システム稼動後、ネットワーク負荷やシステム負荷が当初の予想に反して増大し、レスポンス悪化によるシステムの大幅な見直しなどが発生するケースもあります。 TCO削減のためには、自社で利用する情報システムを自社で資産として保有せずに、リースの利用やASPサービス、アウトソーシングなどを活用する選択肢が一般的です。ROI(Return On Investment:投資収益率)の向上を図れるIT投資へのアプローチが重要になってきています。外部のASPやハウジング・サービス、ホスティング・サービスを利用するなど、多彩なTCOのアプローチがあります。


□ ベスト・オブ・ブリード
 ベスト・オブ・ブリードとは、特定のベンダーに企業のシステム全体を任せるのではなく、各々の分野で最良のシステムを選択して組み合わせる手法です。企業間の合併・統合の動きが増す中、TCOを図るための注目すべきアプローチです。ここでは異なるパッケージ間のインターフェースをEAI(Enterprise Application Integration)ツールで統合することで、特定ベンダー依存のシステムから脱却し、コスト優位性を確保することも可能になります。

クラウド・コンピューティング
 クラウドコンピューティングでは、ネットワーク経由の大規模なデータセンターを介して、従来は自分のシステムで利用していたフトウェアやデータなどをサービス形式で必要の都度、利用する方式を採用します。
 ユーザーは、システムの投資や更新・バックアップ管理などから開放されるメリットがあるが、セキュリティ管理上の問題が残ります。