中小企業診断士受験対策:財務分析―危険な会社と伸びる会社

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 危険な会社を見分けるには、決算書における安全性のチェックポイントとして、次の7つをマークすれば十分です。株投資にも有効な指標です。

1.借金の支払い能力をチェック
 流動比率流動資産÷流動負債×100(%)
      
 優良企業:200%以上
安全圏:150%以上
危険圏:100%以下
流動比率は、1年以内に現金化できる資産と1年以内に返済要する借金を比較して、借金の健全度を見る。

2.短期即時支払能力をチェック
当座比率当座資産÷流動負債×100(%)
安全圏:100%以上
危険圏:90%以下
当座資産=現金・預金+受取手形売掛金+有価証券−貸倒引当金

3.借金の支払い能力をチェック
 流動比率流動資産÷流動負債×100(%)
      
 優良企業:200%以上
安全圏:150%以上
危険圏:100%以下
流動比率は、1年以内に現金化できる資産と1年以内に返済要する借金を比較して、借金の健全度を見る。

4.短期即時支払能力をチェック
当座比率当座資産÷流動負債×100(%)
安全圏:100%以上
危険圏:90%以下
当座資産=現金・預金+受取手形売掛金+有価証券−貸倒引当金

5.資本力をいかに返済不要の資金でまかなっているかチェック
自己資本比率自己資本(I)÷総資本(J)×100(%)
     
 優良企業:40%以上、安全圏:30%以上



6.設備投資をいかに返済不要の資金でまかなっているかチェック
固定比率=固定資産÷自己資本×100(%)
   
安全圏100%以下、危険圏:100%以上
7.設備投資の長期資金(固定負債)依存度をチェック
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100(%)
安全圏:100%以内、危険圏:100%以上(資金繰り悪化)


伸びる会社や投資すべき会社を見分けるには、決算書における次の成長性及び効率性のチェックポイントをマークすれば十分です。

1.過去3年間程度の決算書で成長性の推移をチェック
成長企業では、下記の指標は、少なくとも3年以上は増加傾向にあり、右肩上がりになっていることが絶対条件です。
・売上高伸び率、営業利益増減率
・経常利益増減率、自己資本増減率
・総資産増減率

2.効率性チェック
総資本回転率は、正常な経営の企業では、1〜2回転以上が必要です。
・固定資産回転率は、製造業等で2.5回転以上、流通業では5回転以上が必要です。
・売上債権回転率は、6回転以上で、資金回収力が正常です。
棚卸資産回転率は、6回転以上で、製品販売力が正常です。

<財務分析手法>

損益分岐点分析とは
損益分岐点は企業において、事業採算を見極める際に使われる手法です。収益性の検討には不可欠な手法といえます。
費用を変動費と固定費に分けて考える損益分岐点分析の手法では、売上高や販売量の変動により、企業収益や原価がどのように変化するかを把握できます。損益分岐点売上高とは,損益がゼロのときの売上高を意味しています。損益分岐点売上高を求めるためには,まず,費用を操業度や売上によって変わる変動費と、操業度や売上によって変動しない固定費に分けます。
固定費には間接部門の人件費・労務費、減価償却費、支払利息・割引料、租税公課などがあります。変動費には原材料費、エネルギー費、外注加工費、販売経費などがあります。

損益分岐点売上高は次式で計算できます。

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費÷売上高)
          =固定費÷(1−変動費率)

ここで、以下の式が成立します。
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
固定費率 = 固定費 ÷ 売上高
限界利益率 = 1 − 変動費
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1−変動費率)
       = 固定費 ÷ 限界利益


■経営分析の5つの視点とは
企業が順調な経営運営を行っているかどうかは、経営分析による評価で把握できます。経営分析では,事業の収益性、資本投資効率などの生産性、経営の安全性や成長性などを分析する各種の指標で評価できます。ここでは、経営分析に用いられる代表的な評価指標について説明していきます。
□ 収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の視点
会社経営が順調に行われているかどうかを分析する視点は、収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の5つです。
企業経営の成果は収益性によって判断できます。収益性は、いかにうまく儲けているかを見るために必要な視点です。収益性は資本の運用の巧拙や製品力のレベルなどにより左右されます。収益性の評価指標として、資本利益率、売上高総利益率、売上高営業利益率などがあります。収益性を判断するのに、損益分岐点分析の考え方も有効です。
会社経営の効率性では、会社が資本や資産をいかに効率よく使っているかを見ます。効率性は、売上債権回転率、棚卸資産回転率、自己資本回転率、総資本回転率などでチェックします。いかに資本や製品、商品の回転スピードを上げている経営を行っているかを見るためのものです。回転スピードが下がると、資本効率が落ちたり、在庫が増えて、経営効率がダウンし、経営コストの悪化につながってきます。
安全性の分析は、取引先における危ない会社を見分けるために不可欠な視点といえます。事業環境変化の激しい現代においては、会社倒産の危機は常について回ります。順調に推移していた業績が、ある日、突然、戦争や地震災害など、突発的な事象の発生で悪化する場合があります。あるいは、大手顧客である取引先の倒産により、現金回収ができずに、倒産の危機に追いやられる場合もあります。粉飾決算の発覚や経営トップの不祥事、顧客を無視した事業運営などで倒産するケースもあります。顧客のライフスタイルの変化に追従できずに、業績が大幅に悪化する会社も見られます。
多角的なリスク管理を行うことで、あるレベルまでは、経営リスクを回避できますが、事業経営は生き物であるため、常日頃から、企業体質の強化を図っておく必要があります。経営の安全性は、事業環境変化にいかに対応できる企業体力を備えているかを見るものです。安全性の分析には、会社の基礎体力や、負債の支払能力、運転資金など、財務面でのチェックがポイントです。
生産性とは、企業の生産活動において、投入する経営資源と産出高との関係から企業の経営効率のレベルを分析するものです。従業員一人当たりの売上高や売上利益率などをチェックします。生産性は、製品や商品のコスト低減力の評価に直結する視点です。安い人件費で効率的にものを作れるような生産力の向上や、単位時間当たりに生産できる製品の数量がアップすれば、生産性が高くなっていると判断できます。
会社の成長性のチェックでは、売上や利益に関する年々の推移の指標から、企業の安定成長の可能性を把握します。企業成長は、従業員や株主、社会への利益還元の拡大には不可欠なものです。企業の成長性を判断する評価指標には、売上高伸び率、営業利益伸び率、経常利益伸び率などがあります。

□ 分析の切り口にはどのようなものがあるのか
 経営分析の切り口をうまく使いこなせば、会社経営の実態がくっきりと見えてきます。
① 財務諸表を使って分析する
経営分析の基本情報は、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書の3つから収集できます。財務諸表からいかに有益な情報を読み取ることができるかは本書で順次紹介していきます。
② 経営指標を計算して分析する
財務諸表の数値をいろいろな切り口で加工して計算すれば、各種の有益な経営指標を導き出すことができます。
③ 業界・競合・時系列・目標値の比較によって分析する
業界情報、競合他社情報、数年間の過去の実績情報、経営目標値など、各種の経営情報をベースに、実績の経営指標を相互比較することによって、会社の事業の経営レベルを把握することができます。

□ ROE株主資本利益率)とは
株主資本利益率ROE:Return On  Equity)は、企業が株主から預かったお金を使って効率的な経営を行っているかを判断するための指標です。グローバル企業には、不可欠な指標です。企業が事業活動で用いる総資本は、株主資本と他人資本から構成されます。株主資本は企業が株主から預かったお金です。他人資本は銀行借入や社債などによる資本の調達によるものです。
ROE(Return on Equity)は、自己資本(株主資本)に対してどの程度の利益を上げているかを示すものです。ROEは株主が投資したお金の利回りを意味しています。ROEは、株主資本(自己資本または純資産)に対する税引後の当期利益の割合のことで、株主資本利益率あるいは自己資本利益率ともいいます。株主資本は株主が出資した資本金、法定準備金、剰余金の合計です。株主にとって、投資した企業のROEの値は、少なくとも市中金利よりも大きくなければ、魅力の無い投資になってしまいます。計算式から、当期利益の増加、あるいは、株主資本の減少によって、比率は高くなります。当期利益を増やすことが、株主資本の増加につながります。

ROE株主資本利益率)=純利益÷自己資本
=当期利益÷株主資本

会社は借入れにより資金を調達し、ROEの数値そのものを高くすることが可能です。そのため、ROEの絶対値そのものを自己資本比率の異なる会社間で比較しても有益な情報は得られません。連結決算時代では、単独ROEでなく連結ROEで判断する傾向にあります。一般には、10%以上のROEを達成できれば、優れた企業といえるでしょう。欧米の優良企業では、ROEが20%を超えている企業が数多くあります。
分子の税引後の当期利益と分母の株主資本を発行株式数で割ると、次の式を得ることができます。
ROE=一株当り利益÷一株当り株主資本

□ 総資産利益率を判断するROA
ROA(Return On Assets)は、税引き後利益を総資産の金額で割ったものです。ROI(Return On Investment)は、投下資本に対して得られる利益の割合のことです。
ROA(Return On Assets:総資産利益率)は、純利益である税引き後利益(当期利益)を総資産の金額で割って求めます。ROAは、総資産に対する投資利回りの意味です。10%以上が理想といえます。

    ROA = 当期税引き後利益÷総資産

ここで利益の金額には、経常利益または営業利益を一般的に用います。ROAでは、株主資本に加えて、借入金など他人資本も加味した総資産で計算します。

□ ROIとは
 ROI(Return On Investment)は、投資利益率のことで、投下資本に対して得られる利益の割合のことです。投資に見合った利益を生み出しているかを判定できます。企業における事業や資産、設備の収益性を測る指標として活用されています。
ROI= 経常利益÷投下資本
   =(売上高÷投下資本)×(経常利益÷売上高)
  =経営資本回転率×売上高経常利益率

□ 経済付加価値EVAとは
EVAは、経済付加価値のことで、Economic Value Addedの略語です。米国のコンサルティング会社 スターン スチュワート(Stern Stewart)社の登録商標です。税引後利益から使用する資本のコストを加味した利益を指しています。
EVAは、企業が投資家の期待以上の利益を生み出し、付加価値を創出することができたかを判断するための経営指標です。会社の資本コストの計算では、負債のコストと株主資本(自己資本)のコストの両方を見る必要があります。WACC(加重平均資本コスト)は、負債と株主資本のそれぞれの金額で加重平均して計算したものです。
EVAは企業で創造された価値を測定するための指標として活用されています。事業の生み出した利益から資本コストを差し引いた差額を指し、算出されたEVAがプラスになれば価値を創出していると判断します。EVAは、税引後営業利益NOPAT(Net Operating Profit after Tax)から投下資本(C:Invest Capital)の資本コストを差し引いて、収益力を把握します。EVAでは、投資すべきか否かの判断の基準は、資本コストを上回る投資案件か否かで判断します。EVAは、資本コストをかけて投資すべきか否かの判断基準を与えてくれます。
EVAにより、資本コストを上回る利益がある場合は経済的な付加価値が生まれ、逆に資本コストを下回る利益しか確保できない場合には経済的価値を生まないということが判断できます。

・EVA=税引後営業利益NOPAT−投下資本C×加重平均資本コストWACC
・WACC=株主資本のウエイト×株主資本コスト+負債資本のウエイト×負債コスト

キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書とは、一定期間でのキャッシュの流れ(キャッシュフロー)を示した計算書のことです。一定期間におけるキャッシュの流入(キャッシュ・イン)と、キャッシュの流出、すなわち、キャッシュの使途(キャッシュ・アウトという)が把握できます。企業の資金力を評価するうえで、キャッシュフロー計算書は明確な答えを返してくれます。
キャッシュフロー計算書は、営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローからなる3部構成になっています。

営業活動によるキャッシュフローでは、製品・商品などの売買による本業の活動によるキャッシュフローの実態を把握できます。
投資活動によるキャッシュフローでは、企業の成長を目指した投資の内容として、固定資産、有価証券などへの投資による収入と支出の実態がわかります。
財務活動によるキャッシュフローでは、資金の調達先と返済、株主への配当金などの状況がわかります。
貸借対照表では企業の財政状態が把握できます。損益計算書では経営成績がわかります。しかしながら、両者だけでは、企業の資金力の度合いを十分に掴むには不十分といえます。売上がアップしている場合でも、その企業にはキャッシュが入ってこないケースもありえます。
たとえば、受取手形による集金や売掛金だけが増加している場合には、見かけ上、売上高が増えても手元にキャッシュが一向に入らないことになるわけです。
キャッシュフローの視点からみると、売上や利益の増加にもかかわらず、在庫や売上債権が増えるとキャッシュは減少することになります。
すなわち、キャッシュフロー計算書を見れば、その企業の手元に資金が不足し、キャッシュフローが悪化した状態であることが判明します。キャッシュフロー経営とはまさに、安定した経営状態を保つために、手元にいかに資金を豊富に確保できているかが問われることを指しているのです。

□フリーキャッシュフローとは自由に使える余裕資金
フリーキャッシュフローとは、企業が本業の事業活動により生み出すキャッシュフローのことで、企業が株主や資金の提供元に対して自由に分配できるキャッシュです。フリーキャッシュフローは、金利の返済や、債務の償還、株主への配当などの原資になります。設備投資では、フリーキャッシュフローの考え方が必要になります。フリーキャッシュフローは営業活動及び投資活動によるキャッシュフローから構成されます。財務活動によるキャッシュフローは除外します。

フリーキャッシュ・フロー(FCF)=営業活動によるキャッシュ・フロー
+投資活動によるキャッシュ・フロー


<税引後営業利益(NOPAT)の算出方法>
①財務活動によるキャッシュ・フローを除外し、本業による税引前利益(EBIT:Earning Before Interest & Tax)を計算。
②経常利益に支払利息を加えて戻し、受取利息を差し引く。
③この税引前利益に法人税の実効税率を乗じて税金費用を求め、税引前利益から差し引く。

求めた税引後の営業利益はNOPAT(Net Operating Profit After Tax)と呼んでいます。但し、減価償却費などは、キャッシュの支払が発生しない費用ですので、これを税引後営業利益に加え戻します。設備投資は、費用ではありませんが、キャッシュの支出になりますので、設備投資額を税引後営業利益から差し引きます。
運転資本の増減があれば、修正を行う必要があります。在庫は費用には該当しませんが、営業キャッシュフローを得る上で、必要な資金のため、支払いの扱いになります。ここで設備投資額を最後に控除するのは、設備投資が現在の考え方からです。仕入・支払い、及び売上・入金には、時期的なズレが発生します。入金遅れや支払いの先行により、運転資本が増加すると、キャッシュフローはマイナスに作用します。運転資本の増減額は税引後営業利益から差し引かねばなりません。フリーキャッシュフロー(FCF)は次式で計算します。

フリーキャッシュフロー(FCF)=税引後営業利益+減価償却費−設備投資額
−運転資本増加額


ここで、税引後営業利益は次式で求めます。実効税率とは、事業税、法人税など企業に課せられた税金の税率のことです。
税引後営業利益=(経常利益−受取利息+支払利息)×(1−実効税率)

よって、フリーキャッシュフローは次式でまとめることができます。減価償却費は非資金費用に該当します。非資金費用とは、資金の支出はないですが、損益計算上費用の扱いとなる費用のことです。
フリーキャッシュフロー(FCF)=(経常利益−受取利息+支払利息)×(1−実効税率)+減価償却費−設備投資−運転資本増加額
フリーキャッシュフローの増加対策としては、営業利益の増加、増加運転資金の減少及び、設備投資の減少の選択肢があります。