中小企業診・IT資格受験対策講座:財務分析―決算書の極意

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 決算書は、専門的には財務諸表と呼んでいます。財務諸表には、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書があります。これらは、財務三表と呼んでいます。損益計算書は、会社の儲け具合を把握するためには必須の経営情報源になります。貸借対照表は、財産の調達と運用の状況がわかるものです。企業成長は、従業員や株主、社会への利益還元の拡大には不可欠なものです。企業の成長性を判断する評価指標には、売上高伸び率、営業利益伸び率、経常利益伸び率などがあります。
 
 財務諸表を使って分析することにより、経営分析の切り口をうまく使いこなせば、会社経営の実態がくっきりと見えてきます。経営分析の基本情報は、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書の3つから収集できます。
 財務諸表の数値をいろいろな切り口で加工して計算すれば、各種の有益な経営判断データを導き出すことができます。業界・競合・時系列・目標値の比較によって分析することも有効です。業界情報、競合他社情報、数年間の過去の経営数値など、各種の経営情報をベースに、経営指標を相互比較することによって、事業の経営レベルを把握することができます。


企業の決算書を読み解く能力は、ビジネスパーソンや投資家にとって必須能力となっています。新会社法が施行され、決算書の内容も変更になっています。従来の資本の部は、純資産の部と呼ぶようになりました。従来の利益処分計算書に変わり、新たに株主資本等変動計算書により、期首および期末における資本の増減を明確に理解できるようになりました。
 決算書は、数々の優れた業績評価指標をステークホルダーに論理的に提供してくれるビジネス戦略手法であるといえます。決算書の数値は、経営分析という理論によって、企業の経営状況、財政状況を明確に判断できるものに価値転換されます。ここでは、経営数値に対する精緻な洞察力と企業経営の基本理論を熟知していることが重要です。
このような話をすると、決算書は難しいものだとの印象を持つ方が多いかもわかりませんが、決算書の基本構造は、非常に簡単です。

上場企業の決算書を得るには、様々な手段があります。紙の媒体手段による方法では、新聞や政府刊行物取扱書店で買える有価証券報告書、「会社四季報」(東洋経済新報社)及び「会社情報」(日本経済新聞社刊)の書籍などがあります。未上場の企業では、注目・有力企業に関する財務情報は、「日本経営指標<店頭・未上場会社版>」(日本経済新聞社刊)で入手できます。
 インターネット上で企業のホームページを検索する方法もあります。googleやYahooの検索エンジンで企業名を検索して、「投資家向け情報」や「IR情報」、「決算公告」、「業績・財務情報」などの項目をクリックすると、決算報告に関する情報を収集できます。ここでは、財務諸表のデータだけでなく、企業方針や事業セグメント別情報など、詳しい役に立つ情報も得ることができます。
 中小企業のホームページ(http://www.chusho.meti.go.jp/chousa/index.htm)を見れば、中小企業庁が毎年発表する「中小企業の経営指標」のダイジェスト版を得ることもできます。財務省のホームページでは、「法人企業調査統計」により、業種ごとに売上高、利益、設備投資などに関する調査結果を公開しています(http://www.mof.go.jp/ )。
 また、金融庁より行政サービスの一環として提供されているサイトに、EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)があります。これは、『証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム』のことです。このサイトでは、EDINETシステムに提出された開示書類について、インターネット上で企業情報の閲覧が可能です。
 財団法人中小企業診断協会が出している「中小企業の経営指標」(中小企業庁編)からも有益な情報が得られます。損益計算書には、5種類の利益が示されています。利益には法人税、住民税、事業税などの税金がかかってきます。税引前当期利益は、税金が差し引かれる前の利益のことです。税金が差し引かれた後に残った当期利益というものが、年度の最終に確保された利益ということになります。当期利益がマイナスの場合は、赤字ということになります。プラスであれば、利益を出している状態であることがわかります。このように、損益計算書では、まず、当期利益を見れば、その会社が儲かっているのか、儲かっていないのかが分かります。
 利益は、時系列で少なくとも3年間のものを比較して見ることで、その企業の経営がうまくいっているのか、悪化しているのかがわかります。さらに、同規模の同業他社や競合企業と比較することで、会社の実力が見えてきます。
 次に売上総利益というものがあります。売上総利益は、粗利益[ ]とも呼びます。売上高から、売上に要した棚卸商品の仕入原価や製造原価の金額を差し引いて計算します。ここで差し引くものは、売上原価と呼んでいます。よって、売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いて求めることができます。売上高は、営業収益と呼ぶこともあります。売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引くと、営業利益が求められます。営業利益は、会社が本業によって獲得した利益です。ここで、販売費とは、商品や製品を販売するのに要した営業員の人件費や広告宣伝費、経費などを指します。一般管理費とは、会社全体を維持管理するために要した費用のことです。一般管理費は、販売活動には直接関係のない経費です。例えば、間接部門の人件費やオフィスの賃貸費用などがあります。

売上総利益(粗利益)=売上高 − 売上原価

営業利益=売上高 ― 売上原価 ― 販売費 ― 一般管理費
経常利益とは、本業で儲けた利益である営業利益に、本業以外で儲けた利益を加え、費用を差し引いたものです。
経常利益=営業利益 +営業外収益 ―営業外費用

 ここで、営業外収益とは、営業活動以外から発生した経常的な利益を指します。営業外費用は、営業活動以外から発生した経常的な費用を意味します。

 経常利益に特別損益を加減したものが税引前当期利益です。特別損益は、当期に臨時的に発生した損益のことで、特別利益と特別損失からなります。特別利益には、土地の売却益、有価証券売却益などがあります。特別損失には、固定資産売却損、過年度損益修正などの項目があります。
税引き前当期利益から法人税、住民税、及び事業税を除いたものが当期利益です。

経常利益は、営業利益に営業外収益を加算し、営業外費用を差し引いて求めます。税引前当期利益は、経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いて計算できます。当期利益は、税引前当期利益から、法人税、住民税、及び事業税を差し引いて求めることができます。
収益は、売上高、営業外収益、特別利益の3つから構成されています。まず、収益は、事業活動の本業収入である売上高と、本業以外からの収入である営業外収入から構成されます。さらに、営業外収入は、営業外収益と特別利益からなります。営業外収益には、例えば銀行に預金を預け入れることで得る受取利息などがあります。営業外費用では、例えば、企業が銀行からお金を借りた場合に支払う利息などです。
 特別利益とは、臨時的な収入です。例えば、災害などによって受け取る保険金のようなものがあります。特別損失は、偶発的な出来事によって発生する損失です。特別損失には、例えば、固定資産を売却して損失が出た場合や、不良債権の処理による貸倒損失の発生などの場合が該当します。特別損失が多額であると、経常利益は黒字でも当期利益が赤字になってしまうことがあります。
 費用は、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失、法人税、住民税及び事業税の5つの区分からなります。利益は、前に触れたように売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益、当期利益の5つに分類されています。

 資産には、現金、銀行預金、不動産や、売掛金、貸付金、未収金(*)などの債権、さらには、営業権、特許権などがあります。資産は、固定資産、流動資産、繰延資産の3つに大きく分けられます。固定資産は、企業経営で長期にわたって保有する財産です。土地、建物、設備などがあります。流動資産とは、現金、及び資金で短期(一年以内が標準)に現金化できるものを指します。
 繰延資産とは、企業が支出する費用の中で、支出した効果が支出の時だけでなく将来にも及ぶものを指します。一時的に費用にするのではなく、その効果の及ぶ期間にわたって費用計上します。

 固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の固定資産の3つからなります。有形固定資産は、固定性をもつ物そのものを意味し、不動産、設備、さらに、車両のような動産があります。無形固定資産には、営業権、特許権、借地権、商標権、実用新案権意匠権、などがあります。権利を取得するために支払った対価を取得原価とするものが、無形固定資産です。
 
 固定資産である土地や建物、設備、車両などは、会社が入手して幾年にもわたって使用し続けます。そのため、購入時の事業年度に費用として一括で会計処理することはできません。製品を作るための原材料費や人件費などは、発生した事業年度に費用として計上できる点が、固定資産との違いといえます。
 減価償却という手法では、固定資産の価値の減少分を費用として、毎年、計上していきますが、どのような割合で価値の減少分を算定するかによって、代表的な手法に定率法と定額法があります。減価償却を毎期の費用として計算する基準は、固定資産の種類に応じて、税法できめ細かく決められている法定耐用年数と償却率によります。

 定率法とは、毎期に一定率の償却費を計上する方法です。固定資産を購入した初年度は、取得価額に一定の比率を乗じて減価償却費を計算します。次年度は、取得価額から初年度の減価償却費を差し引いて、残りの価額に、同様の比率を乗じて、次年度の減価償却費を計算します。次々年度も同様にして、未償却の残高に同じ比率を乗じて、法定耐用年数に達するまで、減価償却費を計上していきます。
 ただし、固定資産は、通常、減価償却が法定耐用年数に達した以降も、使用可能なため、費用化できない残存価額というものを定めています。税法上、購入価額の100%を費用計上できない仕組みになっています。減価償却費は、次の式で計算します。
 ここで、期首未償却残高とは、購入時の取得価額に対して、前期末までにおける減価償却費を累計した額を除いた残りの金額を意味しています。

減価償却費=期首未償却残高 × 一定率


 定額法では、毎期に一定額の償却費を計上します。償却費は、取得価額から残存価額を差し引いて、残りの金額を法定耐用年数で割って計算します。ソフトウェアなどの無形固定資産は、通常、定額法で計算します。例えば、500万円で購入したソフトウェアを5年で均等に償却すると、5年目の残存価額をゼロとして、毎年、100万円を費用計上できることになります。
減価償却費=(取得価額 − 残存価額)÷耐用年数


 流動資産は、大きくは、棚卸資産当座資産、その他の流動資産に分けられます。ここでは、用語の意味をしっかり把握することがポイントです。
棚卸資産には、商品、製品、仕掛品[製造が完了していない未完成品のこと。]、部品・資材などからなります。当座資産には、現金、預貯金、売掛金受取手形、有価証券などがあります。その他の流動資産とは、棚卸資産及び当座資産以外の流動資産のことです。その他流動資産には、前渡金、前払費用、未収金などがあります。これらには、期限が営業販売の取引以外の1年以内に到来する債権が含まれます。


 資本を資産及び負債との関係で見てみましょう。資本は、資産総額から、負債総額を引いたもので、自己資本ともいいます。企業の純財産が資本です。負債は他人資本といいます。一般企業では、自己資本他人資本による経営を行っています。期間損益計算の観点では、総資本が資本とされます。

資本=資産―負債
 貸方側の資本の調達源泉とは、会社が総資産を確保するための資金をどのようにして調達したのかを示しています。他人資本は、借入金、買掛金などの負債でまかなった資本です。自己資本である株主資本は、株主によって払い込まれた資本金、及び利益を蓄積した剰余金などが含まれます。
 自己資本は、純資産に相当するもので、返済の義務がありません。純資産は、資産の部、負債の部、純資産の部から構成される貸借対照表の一部です。純資産は、株主資本、評価・換算差額等、及び新株予約権などから構成されます。
 純資産の構成要素である株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金、及び自己株式などからなります。評価・換算差額等は、有価証券評価差額金及び為替換算調整勘定などからなります。連結会計では、少数株主持分は純資産に含まれます。


 負債には、固定負債と流動負債があります。固定負債は、返済期限が一年を超えて支払期限が到来する負債です。一年以内に期限の到来する債務は、流動負債といいます。
 固定負債には、社債、長期借入金[一年を超えて返済期限がくるもので、短期借入金に比べて金利が高い。]、退職給与引当金[従業員が全員自己都合で退職したと想定し、退職金を見積って引き当て計上するもの。]、などがあります。流動負債には、支払手形、短期借入金、未払金、買掛金、前受金、預り金、納税引当金、未払費用、関係会社からの短期債務、前受収益、などがあります。
 ここで、買掛金とは、商品、資材などの仕入代金の未払額のことです。未払金は、商品、資材以外のものに対しての未払額であることに注意しましょう。前受金は、受注品などに対する手付金・証拠金のことです。
 流動資産と流動負債の差額を正味運転資金と呼んでいます。資産はプラスで、負債はマイナスで処理します。正味運転資金とは、企業の通常の事業活動で運用される資金のことです。
正味運転資金=流動資産 − 流動負債

 財務諸表の各勘定科目は、資産、負債、資本、収益、費用からなります。貸借対照表損益計算書などの財務諸表と勘定科目[取引の性質が似たもの同士を集計するために決算書上で分類表示される項目をいう。]の関係は、次のようになります。
・資産 + 費用 = 負債 + 資本 + 収益
・資産 − 負債 − 資本 = 収益 − 費用 = 純利益

 貸借対照表は、資金運用の形態を示す資産の部,源泉の形態を示す負債の部および資本の部からなります。資産の部の合計額と負債及び資本の部の合計額は一致し,バランス・シート(B/C)ともいわれます。
 資産合計は「総資産」とも呼び、その会社の規模を示しています。負債・資本合計は「総資本」ともいいます。規模が大きいだけで経営効率の悪い会社も多くあります。逆に小さい規模の会社でも業界トップクラスの利益を出している会社もあります。
 貸借対照表では、左側欄にお金の使途を示し、右側欄にはお金の調達先を示します。流動資産には、現金、預金、売上代金、製品在庫など短期間に換金できるものを指します。  
 固定資産は、企業活動において長期間用いられるもので、有形の土地・建物や、無形の特許権などがあります。調達先は、返済義務がある負債と、返済義務のない資本からなります。

 会社経営が順調に行われているかどうかを分析する視点は、収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の5つです。企業経営の成果は収益性によって判断できます。収益性は、いかにうまく儲けているかを見るために必要な視点です。収益性は資本の運用の巧拙や製品力のレベルなどにより左右されます。収益性の評価指標として、資本利益率、売上高総利益率、売上高営業利益率などがあります。収益性を判断するのに、損益分岐点分析の考え方も有効です。
 会社経営の効率性では、会社が資本や資産をいかに効率よく使っているかを見ます。効率性は、売上債権回転率、棚卸資産回転率、自己資本回転率、総資本回転率などでチェックします。いかに資本や製品、商品の回転スピードを上げている経営を行っているかを見るためのものです。回転スピードが下がると、資本効率が落ちたり、在庫が増えて、経営効率がダウンし、経営コストの悪化につながってきます。
 安全性の分析は、取引先における危ない会社を見分けるために不可欠な視点といえます。事業環境変化の激しい現代においては、会社倒産の危機は常について回ります。順調に推移していた業績が、ある日、突然、戦争や地震災害など、突発的な事象の発生で悪化する場合があります。あるいは、大手顧客である取引先の倒産により、現金回収ができずに、倒産の危機に追いやられる場合もあります。粉飾決算の発覚や経営トップの不祥事、顧客を無視した事業運営などで倒産するケースもあります。顧客のライフスタイルの変化に追従できずに、業績が大幅に悪化する会社も見られます。
 多角的なリスク管理を行うことで、あるレベルまでは、経営リスクを回避できますが、事業経営は生き物であるため、常日頃から、企業体質の強化を図っておく必要があります。経営の安全性は、事業環境変化にいかに対応できる企業体力を備えているかを見るものです。安全性の分析には、会社の基礎体力や、負債の支払能力、運転資金など、財務面でのチェックがポイントです。
 生産性とは、企業の生産活動において、投入する経営資源と産出高との関係から企業の経営効率のレベルを分析するものです。従業員一人当たりの売上高や売上利益率などをチェックします。生産性は、製品や商品のコスト低減力の評価に直結する視点です。安い人件費で効率的にものを作れるような生産力の向上や、単位時間当たりに生産できる製品の数量がアップすれば、生産性が高くなっていると判断できます。
 会社の成長性のチェックでは、売上や利益に関する年々の推移の指標から、企業の安定成長の可能性を把握します。企業成長は、従業員や株主、社会への利益還元の拡大には不可欠なものです。企業の成長性を判断する評価指標には、売上高伸び率、営業利益伸び率、経常利益伸び率などがあります。

 損益計算書の営業成績は企業活動のアウトプットといえます。売上高、費用、利益などの項目は、企業活動の結果として表れる数値ですが、経営資源をどれだけ投入したのかを知るためには、貸借対照表をじっくりながめる必要があります。貸借対照表は財政状態を把握するために不可欠な情報を持っています。どのように資本を調達し、どのように資本を使っているのか、資本の運用状況がわかります。
 貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書を関連付けてみることにより、様々な角度から経営の効率性をチェックすることが可能になります。
 利益の金額が大きい場合には会社は儲かっています。しかしながら、黒字を維持していても経営が悪化していたり、場合によっては倒産のリスクが発生することさえあります。表面上、利益が出ているにも関わらず、キャッシュを確保できているとは限らないからです。小売などでは現金商売が一般的ですので、売上計上と同時に、顧客が支払いを行うことで、現金が入ってきます。
 しかし、信用取引が一般的な製造業などでは、売上計上はされていても、売掛金が膨らみ、顧客からの入金が遅れれば、次第に、手元に残る現金は減ってきます。資金繰りに窮している場合、手元に現金がなければ、社員に給料が払えなくなります。あるいは、仕入れ先の会社に商品の支払いができなくなります。ここでは、キャッシュフローの実態をしっかり把握する必要があり、キャッシュフロー計算書の解読が役に立ちます。キャッシュフロー計算書では、キャッシュの入と出の状況に関する情報が得られます。

□ 収益性を判断できる総資本回転率
 よく使用されるのは総資本回転率(総資産回転率)です。会社の規模に対して売上が比較的大きい場合は回転率も大きくなります。反対に会社の規模が大きいにもかかわらず少ない売上しか確保できないと回転率は小さくなってしまいます。売上高と総資本が同じ場合は、総資本回転率は1です。このとき、会社の総資本と同額の1回転分の売上が発生しています。大手企業や中堅・中小の製造業では、総資本回転率は、1〜2回転が標準の値になります。
総資本回転率=売上高÷総資本
―>1〜2回が標準

□ 資本で収益性を判断する資本利益率とは
 新規に事業を始めるためには、資金が必要ですが、投入資金に見合うだけの利益が出なければ、その事業は失敗したことになります。事業の収益性を見るうえで重要な経営指標には、資本利益率と呼ぶものがあります。

資本利益率=利益÷資本×100(%)

□ 総資本による利益獲得をチェック
 収益性を示す代表的な指標の一つに総資本経常利益率があります。企業に投下した総資本により、1年間にどの程度の利益を獲得したかを示す指標です。
総資本は、通常、貸借対照表における期首と期末の平均値で計算しますが、両者に差があまりない場合は期末の総資本で計算します。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本

 ここで、総資本利益率は、さらに二つの指標に分解できます。次の式の意味がわかれば、総資本利益率の分解ができます。

A÷B=(A÷C)×(C÷B)

 同様に、総資本利益率は売上高を仲介にして、次のように分解できます。投下した総資本の何倍の売上高を達成したかを示す総資本回転率は次式で計算できます。総資本回転率では、資本の利用効率を評価します。回転率が高いほど経営効率がよいといえます。

総資本回転率=売上高÷総資本×100(%)

 よって、総資本経常利益率は、売上高経常利益率総資本回転率を乗じて計算できます。本業が順調の場合でも、営業外で、思わぬ株式の売却損や評価損が発生すれば経常利益は悪化します。
 逆に、本業が順調でなくても、営業外の副業などでカバーできれば、経常利益の悪化が防げることになります。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100(%)
           =(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)×100(%)
           =売上高経常利益率×総資本回転率×100(%)

□ 売上高総利益率
 売上高総利益率とは、粗利率のことで、企業の収益性を評価するものです。企業規模は、会社によって様々です。大企業でも、企業規模に比べて少しの利益しか出していないところもあれば、逆に、中堅・中小企業でも企業規模以上の大幅な利益を出しているところもあります。独創的な製品開発力で勝負し、ニッチ(狭い)市場で、業界トップクラスの利益率を誇っている企業もあります。
 売上高総利益率は、会社の儲ける力を把握するための経営指標といえます。売上高総利益率は、高いほど、効率的な事業運営を行っていると判断できるため、優れた会社であるといえます。
製造業では、売上総利益は、売上高から製造原価を差し引いて計算します。いっぽう、卸・小売業などでは、商品の仕入れによって事業を営むため、売上総利益は、売上高から仕入高を差し引いて計算します。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100(%)


会社の収益や費用の発生は、本業の営業利益だけによるものではなく、副業による収益・費用を加減算することによって、企業としての総合的な実力を把握することができます。売上高経常利益率では、会社の総合的な実力を知ることができます。経常利益は本業の営業利益に営業外収益・費用を加味したものです。
売上高経常利益率は、経常利益を売上高で割って計算します。売上高経常利益率は、製造業で、5%前後、卸・小売業で、2〜3%前後が適正な値であるといわれています。これらの以下の数値になった場合、その企業は、問題ありといえるでしょう。
 本業が順調でなくても、営業外収益でカバーすることもできます。しかしながら、バブル時代には、本業以外の不動産事業などに手を出して、バブル崩壊後の不動産の暴落で痛い目に合った企業が多くあります。あるいは、鉄鋼メーカーなどが半導体などのハイテク事業に新規参入して撤退したケースが多々ありました。
 本業回帰により、強みに経営資源を集中させることで、企業復活を図っているところも多いといえるでしょう。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100(%)

 営業利益率が低いにもかかわらず、経常利益率の高い会社は、本業が順調でない状況に陥っていると判断できます。逆に、営業利益率が高いにも関わらず、経常利益率が異常に低い会社は、本業以外の分野で、負債を抱え込んでいる可能性が高いといえます。ここでは、副業の失敗が本業の利益を圧迫する構図が成り立っているといえます。

営業面から企業の採算性を評価する指標に売上営業利益率があります。企業における本業での儲けの実力を見るための経営指標です。

売上営業利益率は、営業利益を売上高で割って求めます。売上営業利益率は、業界平均や同業他社との比較、さらには経年比較が意味を持ちます。多くの事業を営んでいる会社では、事業部門別に売上営業利益率を把握することも有効です。製造業では、売上高営業利益率は、5%以上が適正な値といえます。それ以下の数値になった場合は、販売費や一般管理費にメスを入れる必要があるといえます。
売上営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)
―>5%以上が適正値

ここで、営業利益は次式で求めます。

営業利益=売上高 ― 売上原価 ― 販売費 ― 一般管理費

売上高に対応した製品製造などに要した原価を売上高と対比させた比率に売上高原価率があります。売上高原価率は低いほど優れ、売上をいかに効率よく出したかを把握することができます。
なぜならば、売上総利益=売上高 − 売上原価 の式より、売上原価が下がると、売上総利益は増えるからです。逆に、売上原価が上昇すると、売上総利益は下がることになります。企業では、原価低減活動が活発ですが、原価を下げることで、事業利益の拡大が図れるからです。
売上原価を下げるためには、商品の仕入れコストや原材料の調達コストを下げるための方策を検討し、日々の企業活動において実践していかなければなりません。製造業では、製品の開発・設計プロセスの改善を行い、生産ラインにおけるプロセス(工程)改善が不可欠になります。

このように、利益の源泉は、企業活動における各プロセスを見直すことによって、見出すことができるのです。売上高原価率は、業種にもよりますが、70%以下が適正であるといわれています。
売上高原価率=売上原価÷売上高×100(%)
―>低いほどよい

収益力を見るキャッシュフロー分析の主要な経営指標には、キャッシュフローマージン、利益構成比率などがあります。投資活動と資金調達の程度をチェックするキャッシュフロー分析には、営業CF投資CF比率、事業CF売上高比率があります。
返済能力を見るキャッシュフロー分析には、営業CF対流動負債比率、営業CF対長期負債比率、インタレスト・カバレッジ・レシオがあります。

□ 収益力を見るキャッシュフローマージンとは
本業の営業活動によって、売上高の何%を営業キャッシュフローで稼ぎ出しているのかを見る指標に、キャッシュフローマージン率というものがあります。この比率が高いほど効率的な資金化が行われていると判断できます。キャッシュフローマージン率は、損益計算書の売上経常利益率に相当するものです。
キャッシュフローマージン率=営業キャッシュフロー÷売上高×100(%)


営業キャッシュフローの構成要素の中には、当期利益と減価償却費が含まれます。利益構成比率は、営業キャッシュフローにおける利益と減価償却費の比率を見るもので、営業キャッシュフローへの貢献度合いを示しています。利益構成比率が50%を超える場合は、営業キャッシュフローが利益の変動要因に左右されやすい経営ということになりますが、成長性が大きいともいえます。利益構成比率が低ければ、減価償却費の比重が大きくなり、安定的なキャッシュフローを稼げる経営体質であると見ることができます。

利益構成比率=当期利益÷(当期利益+減価償却費)×100(%)


□ 投資活動と資金調達の程度を見るキャッシュフロー分析
 投資活動と資金調達の程度を見るキャッシュフロー分析には、営業CF投資CF比率、事業CF売上高比率があります。
 会社の本業を維持し、成長させていくためには、戦略的な設備投資が必要になります。例えば、デジタル液晶分野では、大型投資によって、競合他社に打ち勝てる生産力を維持できなければ、コスト競争で負けてしまう宿命を負っています。しかしながら、企業体力を超えた設備投資は、経営を危うくします。設備投資に必要な資金は、本業から得た営業キャッシュフローで充当するのが賢明な経営といえます。
 営業活動で得た営業キャッシュフローを、どの程度、投資に充当したかを判断できる指標が、営業CF(キャッシュフロー)投資CF(キャッシュフロー)比率です。
 投資に必要なキャッシュフローを営業キャッシュフローでまかなえているかどうかがわかる比率です。この比率が100%以上であれば、営業キャッシュフローで投資全体をまかなっていることになり、財務上、安全な投資を行っているといえます。100%未満の場合は、手元資金の取り崩しや、借入金、増資など、財務キャッシュフローによる新規の資金調達が行われていることになります。
 
営業CF投資CF比率=投資キャッシュフロー÷営業キャッシュフロー×100(%)


□ 事業CF売上高比率
 事業CF売上高比率は、会社の営業活動と投資活動によって流出した金額が、売上に対してどれ程度の比率になるかを表したものです。売上に対してどの程度の資金調達を必要としているかがわかります。この比率が高ければ、借入れの依存度が低いといえます。
事業CF売上高比率=(営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー)÷売上高×100%




□ 返済能力を見る営業CF対流動負債比率
 返済能力を見るキャッシュフロー分析には、営業CF対流動負債比率、営業CF対長期負債比率、インタレスト・カバレッジ・レシオがあります。営業CF対流動負債比率は、流動負債に対する営業キャッシュフローの返済能力を見るものです。この比率が大きいほど、返済能力が高いと判断できますので、安全性が高いともいえます。当座比率では、当座資産で流動負債の返済能力を判断できますが、営業CF対流動負債比率は、営業活動で獲得したキャッシュフローによってどの程度の流動負債を返済できるかがわかります。
営業CF対流動負債比率=営業キャッシュフロー÷流動負債×100%


□ 営業CF対長期負債比率
 営業CF対長期負債比率は、長期負債(長期借入金、社債転換社債、長期支払手形、長期未払金など)を営業キャッシュフローでまかなうことが可能かどうかを判断するための指標です。この比率が100%以上の場合、営業活動で獲得したキャッシュを充当することによって長期負債を返済できることを示しています。

□インタレスト・カバレッジ・レシオ
 インタレスト・カバレッジ・レシオは、利払い能力を見る指標で、この倍率が高いほど利息支払に余裕があることを示しています。逆にこの倍率が低いということは、儲けた営業キャッシュフローのほとんどが支払金利に充当され、余裕のない財政状態であるということになります。