決算書読解力の極意

□ 財務諸表のデータはインターネットで入手するのが一番!
 上場企業の決算書を得るには、様々な手段があります。紙の媒体手段による方法では、新聞や政府刊行物取扱書店で買える有価証券報告書、「会社四季報」(東洋経済新報社)及び「会社情報」(日本経済新聞社刊)の書籍などがあります。未上場の企業では、注目・有力企業に関する財務情報は、「日本経営指標<店頭・未上場会社版>」(日本経済新聞社刊)で入手できます。

インターネット上で企業のホームページを検索する方法もあります。googleやYahooの検索エンジンで企業名を検索して、「投資家向け情報」や「IR情報」、「決算公告」、「業績・財務情報」などの項目をクリックすると、決算報告に関する情報を収集できます。ここでは、財務諸表のデータだけでなく、企業方針や事業セグメント別情報など、詳しい役に立つ情報も得ることができます。
 企業の実力を見極める際に最も重要なことは、決算書の周辺情報を精査することにあります。世の中には決算書の読み方に関する本は数多く出ていますが、決算公告に関する各種の情報は、企業によって様々な表現方法がとられており、これらを鉄則のようなツールを使い、多角的な視野で読み解く手法を紹介した本は非常に少ないのが現状です。


□ 3表の特徴を使い分ける
 損益計算書の営業成績は企業活動のアウトプットといえます。売上高、費用、利益などの項目は、企業活動の結果として表れる数値ですが、経営資源をどれだけ投入したのかを知るためには、貸借対照表をじっくりながめる必要があります。貸借対照表は財政状態を把握するために不可欠な情報を持っています。どのように資本を調達し、どのように資本を使っているのか、資本の運用状況がわかります。
貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書を関連付けてみることにより、様々な角度から経営の効率性をチェックすることが可能になります。

利益の金額が大きい場合には会社は儲かっています。しかしながら、黒字を維持していても経営が悪化していたり、場合によっては倒産のリスクが発生することさえあります。表面上、利益が出ているにも関わらず、キャッシュを確保できているとは限らないからです。小売などでは現金商売が一般的ですので、売上計上と同時に、顧客が支払いを行うことで、現金が入ってきます。

しかし、信用取引が一般的な製造業などでは、売上計上はされていても、売掛金が膨らみ、顧客からの入金が遅れれば、次第に、手元に残る現金は減ってきます。資金繰りに窮している場合、手元に現金がなければ、社員に給料が払えなくなります。あるいは、仕入れ先の会社に商品の支払いができなくなります。ここでは、キャッシュフローの実態をしっかり把握する必要があり、キャッシュフロー計算書の解読が役に立ちます。キャッシュフロー計算書では、キャッシュの入と出の状況に関する情報が得られます。

会社がどの程度効率よく利益を生み出しているか、すなわち会社の「収益性」を判断するにはいくつかの指標があります。

□ 収益性を判断できる総資本回転率
よく使用されるのは総資本回転率(総資産回転率)です。会社の規模に対して売上が比較的大きい場合は回転率も大きくなります。反対に会社の規模が大きいにもかかわらず少ない売上しか確保できないと回転率は小さくなってしまいます。売上高と総資本が同じ場合は、総資本回転率は1です。このとき、会社の総資本と同額の1回転分の売上が発生しています。大手企業や中堅・中小の製造業では、総資本回転率は、1〜2回転が標準の値になります。

□ 売上高総利益率
売上高総利益率とは、粗利率のことで、企業の収益性を評価するものです。企業
規模は、会社によって様々です。大企業でも、企業規模に比べて少しの利益しか出していないところもあれば、逆に、中堅・中小企業でも企業規模以上の大幅な利益を出しているところもあります。独創的な製品開発力で勝負し、ニッチ(狭い)市場で、業界トップクラスの利益率を誇っている企業もあります。売上高総利益率は、会社の儲ける力を把握するための経営指標といえます。売上高総利益率は、高いほど、効率的な事業運営を行っていると判断できるため、優れた会社であるといえます。

□ 総合力をチェックする売上高経常利益率
会社の収益や費用の発生は、本業の営業利益だけによるものではなく、副業による収益・費用を加減算することによって、企業としての総合的な実力を把握することができます。売上高経常利益率では、会社の総合的な実力を知ることができます。経常利益は本業の営業利益に営業外収益・費用を加味したものです。売上高経常利益率は、経常利益を売上高で割って計算します。売上高経常利益率は、製造業で、5%前後、卸・小売業で、2〜3%前後が適正な値であるといわれています。これらの以下の数値になった場合、その企業は、問題ありといえるでしょう。

 本業が順調でなくても、営業外収益でカバーすることもできます。しかしながら、バブル時代には、本業以外の不動産事業などに手を出して、バブル崩壊後の不動産の暴落で痛い目に合った企業が多くあります。あるいは、鉄鋼メーカーなどが半導体などのハイテク事業に新規参入して撤退したケースが多々ありました。
 本業回帰により、強みに経営資源を集中させることで、企業復活を図っているところも多いといえるでしょう。
□ 売上高原価率
売上高に対応した製品製造などに要した原価を売上高と対比させた比率に売上高原価率があります。売上高原価率は低いほど優れ、売上をいかに効率よく出したかを把握することができます。なぜならば、売上総利益=売上高 − 売上原価 の式より、売上原価が下がると、売上総利益は増えるからです。逆に、売上原価が上昇すると、売上総利益は下がることになります。企業では、原価低減活動が活発ですが、原価を下げることで、事業利益の拡大が図れるからです。売上原価を下げるためには、商品の仕入れコストや原材料の調達コストを下げるための方策を検討し、日々の企業活動において実践していかなければなりません。製造業では、製品の開発・設計プロセスの改善を行い、生産ラインにおけるプロセス(工程)改善が不可欠になります。このように、利益の源泉は、企業活動における各プロセスを見直すことによって、見出すことができるのです。売上高原価率は、業種にもよりますが、70%以下が適正であるといわれています。

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取引先選定では、まず、安全性のチェックが第一に必要です。流動比率自己資本比率などを評価します。企業の財務リスクの状況を把握する基本ともいえるものは、企業の短期の支払能力をチェックできる流動比率当座比率です。

□ 安全性分析とは
企業経営の負債状況や資金の調達状況などを把握するためには、安全性の評価指標でチェックします。流動比率当座比率、固定比率、固定長期適合比率、負債比率、自己資本比率などで企業経営の安全性を評価できます。
安全性分析では、企業の支払能力を見ることで、資金繰りの安全性をチェックします。経営面の安全性の向上を図るためには、適正な利益を確保し、売掛金の早期回収、棚卸資産や固定資産の適正化、自己資本の強化が不可欠になります。

□ 安全性分析の評価指標
 企業経営の負債状況や資金の調達状況などを把握するためには、安全性の評価指標でチェックします。流動比率当座比率、固定比率、固定長期適合比率、負債比率、自己資本比率などで企業経営の安全性を評価できます。
□ 流動比率は短期支払能力を見るもの
流動比率は、企業の短期の支払能力を評価するものです。流動比率は、今後1年以内に回収される資産である流動資産と、1年以内に返済義務を負う流動負債のバランスを示します。200%以上が理想です。日本企業では、130〜150%位が標準です。

□ 当座比率は即時支払能力を見るもの
支払い能力のチェックは、流動比率だけで安心できません。支払能力を確実に把握するためには、当座比率を見る必要があります。これは、即座に現金化が可能な資産をどの程度持っているかをチェックするための指標です。当座資産は、換金性の高い資産のことです。流動資産の中で、換金性の高い資産を当座資産として区別しています。当座資産には、現・預金、売掛金受取手形、短期所有の有価証券などがあります。受取手形は、銀行などで割引くことで、預金や裏書きの形で負債の支払いに充当できます。
棚卸資産などは、即座の決済手段には使えません。これらは、融資を受けていた銀行から、急に資金を引き揚げるような事態が発生し場合、会社が即時に支払いできるような資金となります。有価証券や受取手形売掛金も、通常のサイクルであれば毎月の回収が見込めます。

以上のように当座比率は、危ない会社を見分けるには非常に有効な指標です。短期(1年以内)に返済期限がくる負債である流動負債に対して、すぐに現金化できる当座資産によって、どの程度まかなえるかをチェックできます。当座比率は、高ければ高いほど良く、支払い能力が高いと判断します。
当座比率は、経営的には120%超が望ましく、100%以下で比率が低くなるほど要注意です。80%以下になると、借金過剰でリスクが大きく、取引先としては注意すべき会社といえます。

現金販売の形態が一般的に採用される小売業以外では、通常、会社間の取引は信用取引が中心のため、現金よりも手形がよく用いられます。そのため、売上債権額が過剰になっていないかチェックする必要があります。

□ 高い売上債権比率の会社は危ない!
取引では、翌月末払いなど、商品の受け渡しから遅れた時期に支払いが行われるのが一般的です。このように信用販売では、売掛金受取手形で取引することになります。売上債権とは、このような販売によって生じた債権のことです。現金販売では売上債権は発生しません。いっぽう、仕入債務とは、仕入活動によって生じた債務のことで、買掛金や支払手形などがあります。売上に占める売上債権額が適正かどうかを判断するには、売上債権回転率をチェックします。
売上の増加に伴って売上債権が一定水準以上に増えてくると、取引先の支払いの遅れや、倒産による回収不能というリスクも発生してきます。これは、不良債権と呼んでいます。


売上債権回転率は、業種などによっても違いますが、一般企業では、6回転/年以上が適正といえます。これの半分の3回転/年以下であれば、要注意といえます。
売上債権の別の見方として、売上債権の回収に要する期間を見る方法もあります。売上債権が月商の何倍に当たるかをチェックするわけです。売上債権の回転期間が2カ月以内では適正な経営状況といえます。回転期間が4カ月以上の場合は、要注意です。


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粉飾決算や過少申告の疑いが見られる場合のチェックポイント
粉飾決算を行う企業では、決算書に細工を行い、実態からかけ離れた不正確な財務諸表を作成するケースがよく見られます。経営分析の指標間で、整合性の取れていない数値になっている点をチェックすることがポイントです。

 例えば、不良の在庫や売掛金が発生している場合、成長性や利益率の指標が優れていても、在庫や売掛債権の回転期間が延びることになります。また、目先の支払資金が不足してきますと、当座比率は下がってきます。簿外債務がある場合、買掛債務の回転期間が異常に短くなります。

 過少申告を行う会社のケースでは、帳簿から収益や資産を除くことで粉飾決算を行うケースがよく見られます。例えば、在庫を過小に評価すると、在庫回転期間が異常に短くなるため、過少申告をチェックできます。また、固定資産を早期に償却した場合や、取得時に固定資産としてではなく、費用で処理しますと、固定長期適合率が異常に低い値になります。仕入や経費関係の計上を過大に行うと、買掛債務回転期間が異常に長期化することで見抜けます。


◆投資の指標
 ここで、投資に関する指標をみてみましょう。
 PERとは、株価÷1株当り利益(EPS)で求めます。PERでは、株価が1株あたり利益(EPS:Earnings Per Share)の何倍まで買われているかがわかります。

 例えば1株の株価が2,000円、今年度の1株当りの利益が200円の場合、PER=株価2,000円÷EPS200円=10倍となります。利益に対して株価が低いとPERは小さくなり、株式は割安といえます。利益に対して株価が高いと、PERは大きくなり、株式は割高といえます。

 PBRとは、株価純資産倍率のことで、株価÷1株当り純資産 で求めます。PRICE BOOK-VALUE RATIOの略で、企業の資産価値を判断するための指標です。株価が3,000円で1株当り純資産が1,000円の場合、PBRは3倍になります。純資産は、資本金、資本準備金利益準備金などを合計したものです。1株当り純資産は、企業の解散時に株主が得る価値となります。PBRは、株価が1株当たり純資産の何倍であるかを意味しています。すなわち、解散価値の何倍まで買われているかを示しています。PBRが1を割り込むことはなく、PBRが1に近い値では株価が底値に達したとみなすことができます。