決算書経営分析力を極める

contact:tomohfujii2121@yahoo.co.jp 藤井
企業を取り巻く経営環境が激変する中で、ビジネスパーソンには、日常のビジネスに関係する取引先や勤務先の決算書が読める能力が必要です。
□決算書の分析力はビジネスパーソンの常識
 新人、若手のビジネスパーソンや営業マンは、決算書から、企業の経営の状況を読み取る能力が不可欠です。危ない会社を見分け、先手のビジネスにつなげるためにも、そこに現れる経営数値を経営的センスで読み取る能力が必要になります。
経営の建て直しのために決算書を分析し、解決の糸口を見出すことも可能です。昨日まで取引していた取引先が、今日、会社に出勤してみると、倒産していたということが珍しいことではなくなってきました。
決算書は主に、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、およびキャッシュフロー計算書などからなります。これらには、企業の経営状況が明確に表現されています。企業のホームページ上で、IR情報(*Investor Relations:投資家情報)などの項目をクリックすると、決算書に関する情報をインターネットから得ることができます。
 決算書の分析は難しいものでは決してありません。簿記が苦手だから、決算書もわかるはずがないと思っている読者も多いでしょう。苦手意識や先入観は、本書を読み進めることで、自然と消え失せていくことでしょう。本書では、簿記の仕組みをしっかりと理解できるように説明していきます。決算書は、簿記のデータをもとにして作成されるため、簿記の概念を理解することがポイントになります。簿記の仕組みがわからないまま、決算書を読むのは、ちょうど、薄氷の上を歩いていくようなものなのです。決算書の常識を身に付け、日常業務に支障を来たさないようなレベルに自己能力に磨きをかけていくことで、日々のビジネスを自信に満ちたものに変えていくことができるでしょう。確かな現場情報をいかに早く獲得して、ビジネスリスクを回避できるかどうかは、取引先の財務諸表をいかに分析できるかにかかっています。決算書の裏にある情報をしっかりと読み取り、先手でビジネス行動につなげることができる能力が不可欠な時代になっています。
 新しいことや専門分野以外の知識を学ぶ際には、まず、全体の構造を理解することが早道です。たとえば、ある難所の高山にチャレンジするとき、そこの地図を広げて、全体の道のりがどうなっているのか、難所の箇所を確認しながら鳥瞰的な視点で事前に情報収集し、目標地点までのルートを検討していくのが賢明なやり方です。同様に、本書のテーマである決算書の分析の考え方も、全体構造の理解に重点を置いて説明していきます。決算書の分析力をマスターし、経営感覚を磨くことで、頼りになるビジネスパーソンとして、会社における存在感を高めていくことができます。決算書がすらすら読める能力は、ビジネスパーソンの強い味方になってくれることでしょう。
 決算書は、専門的には財務諸表と呼ばれます。財務諸表には、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書があります。これらは、財務三表と呼ばれます。ここで注意すべきことは、これら3表の会計期間が異なっているものを見ると、判断を誤ってしまうということです。これら3表は同じ会計期間のものを見ることが大切です。
財務諸表には、ほかに、(連結)株主資本変動計算書(*利益処分計算書に替わるもの)、事業報告、個別注記表(各計算書類の注記をまとめたもの)、附属明細書(*財務諸表の主要項目の明細)が含まれます。損益計算書は、会社の儲け具合を把握するためには必須の情報源になります。貸借対照表は、財産の調達と運用の状況がわかるものです。キャッシュフロー計算書では、キャッシュの流れがわかります。これら3表を総合的に見ることで会社の経営状況が把握できます。
上場企業の決算書を得るには、様々な手段があります。紙の媒体手段による方法では、新聞や政府刊行物取扱書店で買える有価証券報告書、「会社四季報」(東洋経済新報社)及び「会社情報」(日本経済新聞社刊)の書籍などがあります。未上場の企業では、注目・有力企業に関する財務情報は、「日本経営指標<店頭・未上場会社版>」(日本経済新聞社刊)で入手できます。
インターネット上で企業のホームページを検索する方法もあります。googleやYahooの検索エンジンで企業名を検索して、「投資家向け情報」や「IR情報」、「決算公告」、「業績・財務情報」などの項目をクリックすると、決算報告に関する情報を収集できます。ここでは、財務諸表のデータだけでなく、企業方針や事業セグメント別情報など、詳しい役に立つ情報も得ることができます。

まず、損益計算書を見ていきましょう。損益計算書は、企業の一定期間における経営状態がわかる会計報告書です。損益計算書では、5種類の利益の意味をしっかりつかむことがポイントです。
□5種類の利益の中身を理解することが基本中の基本
損益計算書には、5種類の利益が示されています。利益には法人税、住民税、事業税などの税金がかかってきます。税引前当期利益は、税金が差し引かれる前の利益のことです。税金が差し引かれた後に残った当期利益というものが、年度の最終に確保された利益ということになります。当期利益がマイナスの場合は、赤字ということになります。プラスであれば、利益を出している状態であることがわかります。このように、損益計算書では、まず、当期利益を見れば、その会社が儲かっているのか、儲かっていないのかが分かります。
利益は、時系列で少なくとも3年間のものを比較して見ることで、その企業の経営がうまくいっているのか、悪化しているのかがわかります。さらに、同規模の同業他社や競合企業と比較することで、会社の実力が見えてきます。
次に売上総利益というものがあります。売上総利益は、粗利益[]とも呼びます。売上高から、売上に要した棚卸商品の仕入原価や製造原価の金額を差し引いて計算します。ここで差し引くものは、売上原価と呼んでいます。よって、売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いて求めることができます。売上高は、営業収益と呼ぶこともあります。売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引くと、営業利益が求められます。営業利益は、会社が本業によって獲得した利益です。ここで、販売費とは、商品や製品を販売するのに要した営業員の人件費や広告宣伝費、経費などを指します。一般管理費とは、会社全体を維持管理するために要した費用のことです。一般管理費は、販売活動には直接関係のない経費です。例えば、間接部門の人件費やオフィスの賃貸費用などがあります。

売上総利益(粗利益)=売上高 − 売上原価

営業利益=売上高 ― 売上原価 ― 販売費 ― 一般管理費
 
□ 経常損益とは
経常損益は、営業損益と営業外損益からなります。営業外収益とは、営業活動以外から発生した経常的な利益を指します。営業外費用は、営業活動以外から発生した経常的な費用を意味します。
経常利益に特別損益を加減したものが税引前当期利益です。特別損益は、当期に臨時的に発生した損益のことで、特別利益と特別損失からなります。特別利益には、土地の売却益、有価証券売却益などがあります。特別損失には、固定資産売却損、過年度損益修正などの項目があります。
税引前当期利益から法人税、住民税、及び事業税、等を除いたものが当期利益です。これに、繰越利益剰余金、配当金(*新会社法により、株主総会の決議によって、期中に随時、配当可能になった。配当や自己株式の有償取得、等は、剰余金の分配として統一的に財源規制される。)などを加減して当期の利益が求められます。繰越利益剰余金とは、前期以前からの利益の累計額を指します。

損益計算書の各項目の計算手順は次のようにして求めます。売上原価は、期首商品棚卸高、当期商品仕入高、期末商品棚卸高からなります。ここで、期首商品棚卸高は、前期末における商品の棚卸残高額のことです。売上原価を求めるには、期首商品棚卸高に、当期に仕入れた商品の金額を加え、さらに期末の時点における商品棚卸高の金額を差し引いて計算します。売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いて計算します。営業利益は、売上利益から、販売費・一般管理費を差し引いて算出します。
経常利益は、営業利益に営業外収益を加算し、営業外費用を差し引いて求めます。税引前当期利益は、経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いて計算できます。当期利益は、税引前当期利益から、法人税、住民税、及び事業税を差し引いて求めることができます。
収益は、売上高、営業外収益、特別利益の3つから構成されています。まず、収益は、事業活動の本業収入である売上高と、本業以外からの収入である営業外収入から構成されます。さらに、営業外収入は、営業外収益と特別利益からなります。営業外収益には、例えば銀行に預金を預け入れることで得る受取利息などがあります。営業外費用では、例えば、企業が銀行からお金を借りた場合に支払う利息などです。
特別利益とは、臨時的な収入です。例えば、災害などによって受け取る保険金のようなものがあります。特別損失は、偶発的な出来事によって発生する損失です。特別損失には、例えば、固定資産を売却して損失が出た場合や、不良債権の処理による貸倒損失の発生などの場合が該当します。特別損失が多額であると、経常利益は黒字でも当期利益が赤字になってしまうことがあります。
 費用は、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失、法人税、住民税及び事業税の5つの区分からなります。
 いっぽう、利益は、前に触れたように売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益、当期利益の5つに分類されています。
 以上より、「収益(3)・費用(5)・利益(5)の法則」ともいうべきものが理解できるでしょう。

損益計算書の計算手順は次のようになります。

売上原価B=期首商品棚卸高C+当期商品仕入高D―期末商品棚卸高E

売上総利益F=売上高A―売上原価B
=売上高A―(期首商品棚卸高C+当期商品仕入高D―期末商品棚卸高E)

営業利益H=売上高A―売上原価B―販売費・一般管理費G

経常利益Q=営業利益H+営業外収益I―営業外費用M

税引前当期利益X=経常利益Q+特別利益R−特別損失U

当期利益Z=税引前当期利益X―法人税・住民税・事業税Y

新会社法(平成18年5月1日の施行)に伴い、決算書類の表記は変更されました。貸借対照表の「資本の部」は、「純資産の部」に名称変更となり、「連結貸借対照表」の記載内容は、下図表のように表記されています。なお、「連結貸借対照表」では、評価・換算差額等の項目において、「為替換算調整勘定」が追加され、さらに「IV 少数株主持分」の項目は純資産の部の内訳項目として記載します。ここで、為替換算調整勘定とは、在外子会社などとの連結財務諸表を作成するときに、貸借対照表において、資産の部と負債・資本の部との間に差額が生じる調整勘定のことです。少数株主持分とは、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分のことで、連結子会社の純資産のうち、親会社以外の外部株主の持分を表します。
新会社法の施行(平成18年5月1日)により、従来の「利益処分計算書」は廃止され、株式会社は純資産項目の増減を表す「株主資本等変動計算書」および「連結株主資本等変動計算書」を作成することとなりました。これは、株主総会または取締役会の決議により、剰余金の配当の決定が随時可能となり、株主資本の計数も随時に変動可能となった事等の理由によります。新会社法では、金銭による配当のみでなく、現物による配当も可能であるとしていますが、会社の純資産が300万円を下回るような配当は禁じられています。株主配当金の計算方法は、従来の控除方式のようなものではなく、積み上げ方式のような形を新規に採っています。
剰余金の分配可能額は、分配時の剰余金の額から、分配時の自己株式の帳簿価額、ならびに期中の自己株式処分の対価、さらに法務省令で定める額を控除して計算します。ここで、分配時の剰余金の額とは、その他の資本剰余金に利益剰余金(期中における期間損は除く)を加えた合計を指します。
貸借対照表および損益計算書と株主資本変動計算書の連動
貸借対照表および損益計算書における各項目の金額は、株主資本変動計算書の各々の当期末残高の欄の金額と一致しています。損益計算書では、当期純利益以下に表示されていた項目は削除となり、株主資本等変動計算書に掲載となりました。負債に掲載していた新株予約権は、純資産に移動しての表示となりました。資産の部又は負債の部に表示していた繰延ヘッジ損益は、税効果を調整した上で純資産の部(評価・換算差額等)に表示となりました。個別貸借対照表におけるその他資本剰余金の区分における内訳の表示は不用となりました。
各計算書類の注記を一括で掲載する個別注記表の内容も明確に定義されています。従来の営業報告書に当たる事業報告は、計算書類に包含されていませんが、監査対象となっています。役員賞与は、損益計算書に見込み額を表示するとともに、貸借対照表引当金として計上することになりました。
株主資本および株主資本以外の項目の表示ルールは次のようになっています。
?株主資本の各項目
前期末残高、当期変動額、および当期末残高に分けて表示します。当期変動額は、変動事由別に金額表示します。なお、変動事由には、当期純利益(損失)、新株発行や自己株式処分、剰余金の配当、自己株式取得・消却、企業結合(増加)、会社分割(減少)、株主資本の計数変動、連結範囲や持分法の適用範囲の変動、などがあります。
?株主資本以外の各項目
前期末残高、当期変動額および当期末残高に分けて表示しますが、当期変動額は純額で表わします。
さらに、新会社法により、損益計算書では、前期繰越利益は、繰越利益剰余金の科目に変更されています。経常損益計算の部と特別損益計算の部、および営業損益計算の部と営業外損益計算の部における区分は、廃止となりました。売上高から売上原価を差し引いた売上総利益(損失)は、損益計算書に表示されます。包括利益(利益の実現および未実現を問わず、期首と期末の差額として純資産の変動分を利益として捉える概念)の表示も損益計算書にできるようになっています。

貸借対照表を極める
資産とは、土地、建物、設備、金銭、物品、権利など、企業が経営活動で役立てている財産のことです。貸借対照表を理解するためには、基本的な財務会計用語を理解することが一番です。
□ 資産の中身は
資産には、現金、銀行預金、不動産や、売掛金、貸付金、未収金(*)などの債権、さらには、営業権、特許権などがあります。資産は、固定資産、流動資産、繰延資産の3つに大きく分けられます。固定資産は、企業経営で長期にわたって保有する財産です。土地、建物、設備などがあります。流動資産とは、現金、及び資金で短期(一年以内が標準)に現金化できるものを指します。
繰延資産とは、企業が支出する費用の中で、支出した効果が支出の時だけでなく将来にも及ぶものを指します。一時的に費用にするのではなく、その効果の及ぶ期間にわたって費用計上します。

動かない財産の本命―固定資産とはなにかを知る
固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の固定資産の3つからなります。有形固定資産は、固定性をもつ物そのものを意味し、不動産、設備、さらに、車両のような動産があります。無形固定資産には、営業権、特許権、借地権、商標権、実用新案権意匠権、などがあります。権利を取得するために支払った対価を取得原価とするものが、無形固定資産です。
情報システムのソフトウェアも条件によっては無形固定資産になります。投資その他の固定資産には、預金や有価証券及び貸付金などのうち長期に保有されるものです。投資等の例では、投資有価証券・長期貸付金・長期預金・長期前払費用[ *長期前払費用:長期前払費用とは、1年を超える期間を経て費用となる前払費用のこと。](*)などがあります。
固定資産の価値減少は減価償却費で考える
 企業活動になくてはならない設備や建物、車両などは、年月とともに、当初持っていた価値が次第に減ってきます。減価償却は、ものの価値の減少分を会計的に処理する考え方です。
減価償却とはなにか
固定資産である土地や建物、設備、車両などは、会社が入手して幾年にもわたって使用し続けます。そのため、購入時の事業年度に費用として一括で会計処理することはできません。製品を作るための原材料費や人件費などは、発生した事業年度に費用として計上できる点が、固定資産との違いといえます。
減価償却という手法では、固定資産の価値の減少分を費用として、毎年、計上していきますが、どのような割合で価値の減少分を算定するかによって、代表的な手法に定率法と定額法があります。
 減価償却を毎期の費用として計算する基準は、固定資産の種類に応じて、税法できめ細かく決められている法定耐用年数と償却率によります。
一定率の償却費を計上する定率法とは
 定率法とは、毎期に一定率の償却費を計上する方法です。固定資産を購入した初年度は、取得価額に一定の比率を乗じて減価償却費を計算します。次年度は、取得価額から初年度の減価償却費を差し引いて、残りの価額に、同様の比率を乗じて、次年度の減価償却費を計算します。次々年度も同様にして、未償却の残高に同じ比率を乗じて、法定耐用年数に達するまで、減価償却費を計上していきます。
ただし、固定資産は、通常、減価償却が法定耐用年数に達した以降も、使用可能なため、費用化できない残存価額というものを定めています。税法上、購入価額の100%を費用計上できない仕組みになっています。減価償却費は、次の式で計算します。
ここで、期首未償却残高とは、購入時の取得価額に対して、前期末までにおける減価償却費を累計した額を除いた残りの金額を意味しています。

減価償却費=期首未償却残高 × 一定率

一定額の償却費を計上定額法とは
 定額法では、毎期に一定額の償却費を計上します。償却費は、取得価額から残存価額を差し引いて、残りの金額を法定耐用年数で割って計算します。ソフトウェアなどの無形固定資産は、通常、定額法で計算します。例えば、500万円で購入したソフトウェアを5年で均等に償却すると、5年目の残存価額をゼロとして、毎年、100万円を費用計上できることになります。
減価償却費=(取得価額 − 残存価額)÷耐用年数
フットワークの優れた資産−流動資産とはなにか
流動資産は、大きくは、棚卸資産当座資産、その他の流動資産に分けられます。ここでは、用語の意味をしっかり把握することがポイントです。

棚卸資産には、商品、製品、仕掛品[製造が完了していない未完成品のこと。]、部品・資材などからなります。当座資産には、現金、預貯金、売掛金受取手形、有価証券などがあります。その他の流動資産とは、棚卸資産及び当座資産以外の流動資産のことです。その他流動資産には、前渡金、前払費用、未収金などがあります。これらには、期限が営業販売の取引以外の1年以内に到来する債権が含まれます。


会社の活動サイクル−正常営業循環基準と1年基準
流動資産で、短期間であるかどうかの判定は、商品の販売による売掛金[ 製品や商品の売上時点で代金の決済がされずに、後日に受取る約束になっている未回収の資金をいう。]など、通常の営業活動で発生したものについては正常営業循環基準が適用されます。正常営業循環基準とは、現金→仕入→商品→販売→売上債権→現金からなる企業の営業活動のプロセスで発生するものを指します。企業活動の1サイクルといえるものです。
商品、売掛金受取手形などは流動資産になります。貸付金などでは、1年基準(ワン・イヤー・ルール)が採用されます。1年基準では、貸付金など、決算日後1年以内に入金予定のものを流動資産とします。1年を超える入金予定のものは固定資産になります。
顧客である取引先の相次ぐ倒産などが発生すると、この企業活動のサイクルが回らなくなってきます。そのため、製品は売れても、売掛債権が増えて、現金化に支障を来たしたりすると、仕入れのために必要な資金や社員の給料の元手がショートすることになります。いわゆる売上計上はあっても、現金が底をついている黒字倒産に陥ってしまいます。

資本を資産及び負債との関係で見てみましょう。資本は、資産総額から、負債総額を引いたもので、自己資本ともいいます。企業の純財産が資本です。負債は他人資本といいます。一般企業では、自己資本他人資本による経営を行っています。期間損益計算の観点では、総資本が資本とされます。

資本=資産―負債
貸方側の資本の調達源泉とは、会社が総資産を確保するための資金をどのようにして調達したのかを示しています。他人資本は、借入金、買掛金などの負債でまかなった資本です。自己資本である株主資本は、株主によって払い込まれた資本金、及び利益を蓄積した剰余金などが含まれます。
自己資本は、純資産に相当するもので、返済の義務がありません。純資産は、資産の部、負債の部、純資産の部から構成される貸借対照表の一部です。純資産は、株主資本、評価・換算差額等、及び新株予約権などから構成されます。
純資産の構成要素である株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金、及び自己株式などからなります。評価・換算差額等は、有価証券評価差額金及び為替換算調整勘定などからなります。連結会計では、少数株主持分は純資産に含まれます。

固定負債と流動負債の違いをチェック
負債には、固定負債と流動負債があります。固定負債は、返済期限が一年を超えて支払期限が到来する負債です。一年以内に期限の到来する債務は、流動負債といいます。
固定負債には、社債、長期借入金[一年を超えて返済期限がくるもので、短期借入金に比べて金利が高い。]、退職給与引当金[従業員が全員自己都合で退職したと想定し、退職金を見積って引き当て計上するもの。]、などがあります。流動負債には、支払手形、短期借入金、未払金、買掛金、前受金、預り金、納税引当金、未払費用、関係会社からの短期債務、前受収益、などがあります。
ここで、買掛金とは、商品、資材などの仕入代金の未払額のことです。未払金は、商品、資材以外のものに対しての未払額であることに注意しましょう。前受金は、受注品などに対する手付金・証拠金のことです。
流動資産と流動負債の差額を正味運転資金と呼んでいます。資産はプラスで、負債はマイナスで処理します。正味運転資金とは、企業の通常の事業活動で運用される資金のことです。
正味運転資金=流動資産 − 流動負債

財務諸表と勘定科目の相互構造を見抜く
ここでは、企業会計の基本である財務諸表と勘定科目との関係を理解します。財
務諸表における勘定科目相互の関係式を理解することがポイントです。
□ 財務諸表における関係式を理解する
 財務諸表の各勘定科目は、資産、負債、資本、収益、費用からなります。貸借対照表損益計算書などの財務諸表と勘定科目[取引の性質が似たもの同士を集計するために決算書上で分類表示される項目をいう。]の関係は、次のようになります。
・資産 + 費用 = 負債 + 資本 + 収益
・資産 − 負債 − 資本 = 収益 − 費用 = 純利益

 貸借対照表、及び損益計算書を作成する場合、各勘定科目ごとに集計し、借方に残高がある場合は、貸借対照表損益計算書の借方に記入します。
貸方に残高がある場合は、貸借対照表損益計算書の貸方に記入します。通常、残高はプラスになりますので、資産と費用は借方、負債、資本及び収益は貸方になります。

貸借対照表損益計算書はどのような関係にあるか
貸借対照表とは、企業の決算日の財政状態を明確にした会計報告書のことです。貸借対照表はバランス・シートとも呼ばれています。
貸借対照表の構造
貸借対照表は、資金運用の形態を示す資産の部,源泉の形態を示す負債の部および資本の部からなります。資産の部の合計額と負債及び資本の部の合計額は一致し,バランス・シート(B/S)ともいわれます。
 資産合計は「総資産」とも呼び、その会社の規模を示しています。負債・資本合計は「総資本」ともいいます。規模が大きいだけで経営効率の悪い会社も多くあります。逆に小さい規模の会社でも業界トップクラスの利益を出している会社もあります。
貸借対照表では、左側欄にお金の使途を示し、右側欄にはお金の調達先を示します。流動資産には、現金、預金、売上代金、製品在庫など短期間に換金できるものを指します。  
固定資産は、企業活動において長期間用いられるもので、有形の土地・建物や、無形の特許権などがあります。調達先は、返済義務がある負債と、返済義務のない資本からなります。

財務会計管理会計の違い
財務会計は、株主・投資家・債権者など、社外の利害関係者(ステーク・ホルダー)への報告を主目的とし、商法の規定に則って作成されます。管理会計は、企業独自のルールにより、企業内の経営者や管理者などに報告するためのものです。
財務会計管理会計の違い
ここでは、株主などのステークホルダー(利害関係者)と会計との関係について見ておきましょう。企業会計には大きく分けて財務会計管理会計からなります。
財務会計は、株主や債権者など、社外のステーク・ホルダー(利害関係者)向けに、財政と経営の会計状況を公開するためのものです。財務会計は、社外向けの会計であるため、商法、税法、証券取引法など、各種の法律や会計基準に遵守していなければなりません。いっぽう、管理会計は、経営の意思決定や改善などを目的として、経営幹部など、社内向けに報告するためのものです。 
管理会計では、企業内部のルールによって会計情報が作成され、会計処理の自由度がある点が特徴です。企業経営では、一般的に、計画→実施→統制のサイクルを繰り返します。この計画と統制を支援するための会計情報が管理会計です。計画を支援する会計は、企業戦略をカバーする戦略会計、短期利益計画、設備投資計画などから構成されます。統制を支援する会計には、予算管理、原価管理などがあります。ここでは、特に、経営戦略の支援に有効な原価管理の体系の概要を理解したうえで、各種の原価管理の手法について理解することが大切です。

基本中の基本−経営分析の5つの視点とは
企業が順調な経営運営を行っているかどうかは、経営分析による評価で把握できます。経営分析では,事業の収益性、資本投資効率などの生産性、経営の安全性や成長性などを分析する各種の指標で評価できます。ここでは、経営分析に用いられる代表的な評価指標について説明していきます。
□ 収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の視点
 会社経営が順調に行われているかどうかを分析する視点は、収益性、効率性、安全性、生産性、成長性の5つです。
企業経営の成果は収益性によって判断できます。収益性は、いかにうまく儲けているかを見るために必要な視点です。収益性は資本の運用の巧拙や製品力のレベルなどにより左右されます。収益性の評価指標として、資本利益率、売上高総利益率、売上高営業利益率などがあります。収益性を判断するのに、損益分岐点分析の考え方も有効です。
会社経営の効率性では、会社が資本や資産をいかに効率よく使っているかを見ます。効率性は、売上債権回転率、棚卸資産回転率、自己資本回転率、総資本回転率などでチェックします。いかに資本や製品、商品の回転スピードを上げている経営を行っているかを見るためのものです。回転スピードが下がると、資本効率が落ちたり、在庫が増えて、経営効率がダウンし、経営コストの悪化につながってきます。
安全性の分析は、取引先における危ない会社を見分けるために不可欠な視点といえます。事業環境変化の激しい現代においては、会社倒産の危機は常について回ります。順調に推移していた業績が、ある日、突然、戦争や地震災害など、突発的な事象の発生で悪化する場合があります。あるいは、大手顧客である取引先の倒産により、現金回収ができずに、倒産の危機に追いやられる場合もあります。粉飾決算の発覚や経営トップの不祥事、顧客を無視した事業運営などで倒産するケースもあります。顧客のライフスタイルの変化に追従できずに、業績が大幅に悪化する会社も見られます。
多角的なリスク管理を行うことで、あるレベルまでは、経営リスクを回避できますが、事業経営は生き物であるため、常日頃から、企業体質の強化を図っておく必要があります。経営の安全性は、事業環境変化にいかに対応できる企業体力を備えているかを見るものです。安全性の分析には、会社の基礎体力や、負債の支払能力、運転資金など、財務面でのチェックがポイントです。
生産性とは、企業の生産活動において、投入する経営資源と産出高との関係から企業の経営効率のレベルを分析するものです。従業員一人当たりの売上高や売上利益率などをチェックします。生産性は、製品や商品のコスト低減力の評価に直結する視点です。安い人件費で効率的にものを作れるような生産力の向上や、単位時間当たりに生産できる製品の数量がアップすれば、生産性が高くなっていると判断できます。
会社の成長性のチェックでは、売上や利益に関する年々の推移の指標から、企業の安定成長の可能性を把握します。企業成長は、従業員や株主、社会への利益還元の拡大には不可欠なものです。企業の成長性を判断する評価指標には、売上高伸び率、営業利益伸び率、経常利益伸び率などがあります。

□ 分析の切り口にはどのようなものがあるのか
 経営分析の切り口をうまく使いこなせば、会社経営の実態がくっきりと見えてきます。
? 財務諸表を使って分析する
経営分析の基本情報は、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書の3つから収集できます。財務諸表からいかに有益な情報を読み取ることができるかは本書で順次紹介していきます。
? 経営指標を計算して分析する
財務諸表の数値をいろいろな切り口で加工して計算すれば、各種の有益な経営指標を導き出すことができます。
? 業界・競合・時系列・目標値の比較によって分析する
業界情報、競合他社情報、数年間の過去の実績情報、経営目標値など、各種の経営情報をベースに、実績の経営指標を相互比較することによって、会社の事業の経営レベルを把握することができます。

損益、貸借、キャッシュの3表を関連付けて見る
損益計算書では企業の儲けである営業成績がわかります。財務諸表では資本の調達と運用の両者の面から、財政状態が把握できます。
□ 3表の特徴を使い分ける
損益計算書の営業成績は企業活動のアウトプットといえます。売上高、費用、利益などの項目は、企業活動の結果として表れる数値ですが、経営資源をどれだけ投入したのかを知るためには、貸借対照表をじっくりながめる必要があります。貸借対照表は財政状態を把握するために不可欠な情報を持っています。どのように資本を調達し、どのように資本を使っているのか、資本の運用状況がわかります。
貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書を関連付けてみることにより、様々な角度から経営の効率性をチェックすることが可能になります。
利益の金額が大きい場合には会社は儲かっています。しかしながら、黒字を維持していても経営が悪化していたり、場合によっては倒産のリスクが発生することさえあります。表面上、利益が出ているにも関わらず、キャッシュを確保できているとは限らないからです。小売などでは現金商売が一般的ですので、売上計上と同時に、顧客が支払いを行うことで、現金が入ってきます。
しかし、信用取引が一般的な製造業などでは、売上計上はされていても、売掛金が膨らみ、顧客からの入金が遅れれば、次第に、手元に残る現金は減ってきます。資金繰りに窮している場合、手元に現金がなければ、社員に給料が払えなくなります。あるいは、仕入れ先の会社に商品の支払いができなくなります。ここでは、キャッシュフローの実態をしっかり把握する必要があり、キャッシュフロー計算書の解読が役に立ちます。キャッシュフロー計算書では、キャッシュの入と出の状況に関する情報が得られます。

<収益性の経営分析> 総資本回転率と資本利益率
 会社がどの程度効率よく利益を生み出しているか、すなわち会社の「収益性」を判断するにはいくつかの指標があります。
□ 収益性を判断できる総資本回転率
よく使用されるのは総資本回転率(総資産回転率)です。会社の規模に対して売上が比較的大きい場合は回転率も大きくなります。反対に会社の規模が大きいにもかかわらず少ない売上しか確保できないと回転率は小さくなってしまいます。売上高と総資本が同じ場合は、総資本回転率は1です。このとき、会社の総資本と同額の1回転分の売上が発生しています。大手企業や中堅・中小の製造業では、総資本回転率は、1〜2回転が標準の値になります。
総資本回転率=売上高÷総資本
―>1〜2回が標準

□ 資本で収益性を判断する資本利益率とは
新規に事業を始めるためには、資金が必要ですが、投入資金に見合うだけの利益が出なければ、その事業は失敗したことになります。事業の収益性を見るうえで重要な経営指標には、資本利益率と呼ぶものがあります。

資本利益率=利益÷資本×100(%)

総資本経常利益率とは
収益性を示す代表的な指標の一つに総資本経常利益率があります。企業に投下した総資本により、1年間にどの程度の利益を獲得したかを示す指標です。
□ 総資本による利益獲得をチェック
総資本は、通常、貸借対照表における期首と期末の平均値で計算しますが、両者に差があまりない場合は期末の総資本で計算します。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本


ここで、総資本利益率は、さらに二つの指標に分解できます。次の式の意味がわかれば、総資本利益率の分解ができます。

A÷B=(A÷C)×(C÷B)

同様に、総資本利益率は売上高を仲介にして、次のように分解できます。投下した総資本の何倍の売上高を達成したかを示す総資本回転率は次式で計算できます。総資本回転率では、資本の利用効率を評価します。回転率が高いほど経営効率がよいといえます。

総資本回転率=売上高÷総資本×100(%)

よって、総資本経常利益率は、売上高経常利益率総資本回転率を乗じて計算できます。本業が順調の場合でも、営業外で、思わぬ株式の売却損や評価損が発生すれば経常利益は悪化します。
逆に、本業が順調でなくても、営業外の副業などでカバーできれば、経常利益の悪化が防げることになります。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100(%)
           =(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)×100(%)
           =売上高経常利益率×総資本回転率×100(%)
<収益性の経営分析>売上高総利益率と売上高経常利益率
利益率に関する経営指標には、売上高総利益率、売上営業利益率、売上高労働分配率などがあります。
□ 売上高総利益率
売上高総利益率とは、粗利率のことで、企業の収益性を評価するものです。企業規模は、会社によって様々です。大企業でも、企業規模に比べて少しの利益しか出していないところもあれば、逆に、中堅・中小企業でも企業規模以上の大幅な利益を出しているところもあります。独創的な製品開発力で勝負し、ニッチ(狭い)市場で、業界トップクラスの利益率を誇っている企業もあります。
売上高総利益率は、会社の儲ける力を把握するための経営指標といえます。売上高総利益率は、高いほど、効率的な事業運営を行っていると判断できるため、優れた会社であるといえます。
製造業では、売上総利益は、売上高から製造原価を差し引いて計算します。いっぽう、卸・小売業などでは、商品の仕入れによって事業を営むため、売上総利益は、売上高から仕入高を差し引いて計算します。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100(%)

総合力をチェックする売上高経常利益率
会社の収益や費用の発生は、本業の営業利益だけによるものではなく、副業による収益・費用を加減算することによって、企業としての総合的な実力を把握することができます。 
売上高経常利益率では、会社の総合的な実力を知ることができます。経常利益は本業の営業利益に営業外収益・費用を加味したものです。
売上高経常利益率は、経常利益を売上高で割って計算します。売上高経常利益率は、製造業で、5%前後、卸・小売業で、2〜3%前後が適正な値であるといわれています。これらの以下の数値になった場合、その企業は、問題ありといえるでしょう。
 本業が順調でなくても、営業外収益でカバーすることもできます。しかしながら、バブル時代には、本業以外の不動産事業などに手を出して、バブル崩壊後の不動産の暴落で痛い目に合った企業が多くあります。あるいは、鉄鋼メーカーなどが半導体などのハイテク事業に新規参入して撤退したケースが多々ありました。
 本業回帰により、強みに経営資源を集中させることで、企業復活を図っているところも多いといえるでしょう。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100(%)



 営業利益率が低いにもかかわらず、経常利益率の高い会社は、本業が順調でない状況に陥っていると判断できます。逆に、営業利益率が高いにも関わらず、経常利益率が異常に低い会社は、本業以外の分野で、負債を抱え込んでいる可能性が高いといえます。


<収益性の経営分析>売上営業利益率と売上高原価率
営業面から企業の採算性を評価する指標に売上営業利益率があります。企業における本業での儲けの実力を見るための経営指標です。
□相互比較でチェック
売上営業利益率は、営業利益を売上高で割って求めます。売上営業利益率は、業界平均や同業他社との比較、さらには経年比較が意味を持ちます。多くの事業を営んでいる会社では、事業部門別に売上営業利益率を把握することも有効です。
製造業では、売上高営業利益率は、5%以上が適正な値といえます。それ以下の数値になった場合は、販売費や一般管理費にメスを入れる必要があるといえます。
売上営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)
―>5%以上が適正値

ここで、営業利益は次式で求めます。

営業利益=売上高 ― 売上原価 ― 販売費 ― 一般管理費

□ 売上高原価率
売上高に対応した製品製造などに要した原価を売上高と対比させた比率に売上高原価率があります。売上高原価率は低いほど優れ、売上をいかに効率よく出したかを把握することができます。
なぜならば、売上総利益=売上高 − 売上原価 の式より、売上原価が下がると、売上総利益は増えるからです。逆に、売上原価が上昇すると、売上総利益は下がることになります。企業では、原価低減活動が活発ですが、原価を下げることで、事業利益の拡大が図れるからです。
売上原価を下げるためには、商品の仕入れコストや原材料の調達コストを下げるための方策を検討し、日々の企業活動において実践していかなければなりません。製造業では、製品の開発・設計プロセスの改善を行い、生産ラインにおけるプロセス(工程)改善が不可欠になります。
このように、利益の源泉は、企業活動における各プロセスを見直すことによって、見出すことができるのです。売上高原価率は、業種にもよりますが、70%以下が適正であるといわれています。
売上高原価率=売上原価÷売上高×100(%)
―>低いほどよい

<収益性の経営分析>グローバル経営指標ROEとは
株主資本利益率ROE:Return On  Equity)は、企業が株主から預かったお金を使って効率的な経営を行っているかを判断するための指標です。グローバル企業には、不可欠な指標です。ここでは、ROEROA、ROIなどについて紹介します。

□ ROE株主資本利益率)とは
企業が事業活動で用いる総資本は、株主資本と他人資本から構成されます。株主資本は企業が株主から預かったお金です。他人資本は銀行借入や社債などによる資本の調達によるものです。
ROE(Return on Equity)は、自己資本(株主資本)に対してどの程度の利益を上げているかを示すものです。ROEは株主が投資したお金の利回りを意味しています。ROEは、株主資本(自己資本または純資産)に対する税引後の当期利益の割合のことで、株主資本利益率あるいは自己資本利益率ともいいます。株主資本は株主が出資した資本金、法定準備金、剰余金の合計です。株主にとって、投資した企業のROEの値は、少なくとも市中金利よりも大きくなければ、魅力の無い投資になってしまいます。計算式から、当期利益の増加、あるいは、株主資本の減少によって、比率は高くなります。当期利益を増やすことが、株主資本の増加につながります。

ROE株主資本利益率)=純利益÷自己資本
=当期利益÷株主資本

会社は借入れにより資金を調達し、ROEの数値そのものを高くすることが可能です。そのため、ROEの絶対値そのものを自己資本比率の異なる会社間で比較しても有益な情報は得られません。連結決算時代では、単独ROEでなく連結ROEで判断する傾向にあります。一般には、10%以上のROEを達成できれば、優れた企業といえるでしょう。欧米の優良企業では、ROEが20%を超えている企業が数多くあります。
分子の税引後の当期利益と分母の株主資本を発行株式数で割ると、次の式を得ることができます。
ROE=一株当り利益÷一株当り株主資本

<収益性の経営分析>株主が最重視する株価収益率PERとは

株価収益率(PER:PRICE EARNINGS RATIO)は、株価が割安か割高かを判断するための指標です。
□ 株価の何倍まで買われているかをチェック
PERでは、株価が1株あたり利益(EPS:Earnings Per Share)の何倍まで買われているかがわかります。PERは次式で計算します。

PER=株価÷1株当り利益(EPS)


例えば1株の株価が2,000円、今年度の1株当りの利益が200円の場合、PER=株価2,000円÷EPS200円=10倍となります。利益に対して株価が低いとPERは小さくなり、株式は割安といえます。利益に対して株価が高いと、PERは大きくなり、株式は割高といえます。

?PER 小さいと、株価は割安
?PER 大きいと、株価は割高

株価純資産倍率(PBR:PRICE BOOK-VALUE RATIO)は企業の資産価値を判断するための指標です。株価純資産倍率(PBR)は次式で求めます。

PBR=株価÷1株当り純資産

株価が3,000円で1株当り純資産が1,000円の場合、PBRは3倍になります。純資産は、資本金、資本準備金利益準備金などを合計したものです。1株当り純資産は、企業の解散時に株主が得る価値となります。PBRは、株価が1株当たり純資産の何倍であるかを意味しています。
すなわち、解散価値の何倍まで買われているかを示しています。PBRが1を割り込むことはなく、PBRが1に近い値では株価が底値に達したとみなすことができます。






























図解入門 決算書経営分析力 100の極意(改訂版)

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図解 IT戦略マネジメント入門(改訂最新版)

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