経営戦略論入門
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図解 エッセンシャル 経営戦略マネジメント手法入門(改訂最新版)
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バランス・スコアカードとITマネジメント
―ITマネジメント
○シリコンバレーの神経系ネットワーク
米国のハイテクの集積地域であるシリコンバレーは情報産業のリード役を果たしています。ここでは、インターネットがビジネス活動の神経系のネットワークとして、ビジネスマンにとって、必須のツールです。従来型の経営においては、トップからの経営戦略、事業戦略からの指示のもとに各個人がビジネスの絵を描いてきたのが一般的でしょう。現在、必要な市場情報や製品情報、その他、ビジネス活動に必要な情報は、インターネットから引き出すことが可能で、その場での即断即決の意志決定のビジネススタイルを可能にします。この意味で、インターネットは組織のフラット化とプルスタイル(引っぱり型)の情報活用を加速化させていると言え、情報が上位から下位に降りてくる階層型組織によるプッシュスタイル(押し出し型)とは、情報流通機能が全く違っています。インターネットのこのプル機能はシリコンバレーにおけるベンチャービジネスの新陳代謝を促すビジネスのインフラといえるでしょう。
○双方向コミュニケーションによる電子商取引市場の成長
このインターネットの持つ能動的なWebの機能は、ビジネスの分野のみならず、消費者に情報の発信者、受信者として、双方向のコミュニケーションに参加させ、消費者と企業が生み出す情報の蓄積と進化をもたらし、新たな付加価値を介した電子商取引市場の飛躍的な成長につながっています。
インターネットによって、Web上に現れる無数の情報から、新たなビジネスモデルによるサイバースペースでのビジネスが加速度的に生まれてきています。IT革命はコストがゼロに限りなく近いインターネットの情報を世界中に流通させ、売り手が潜在顧客を発見することが容易になり、製品・サービスにおける顧客の選択肢の幅は一気に拡大しました。
サイバースペース上での電子流通による商品、サービスの新しいe マーケットプレイスは既存の店頭販売を始めとした従来のビジネスのやり方に対して市場撤退を迫ってきています。経営者はIT革命が経営の屋台骨を大きく揺るがしてきていることに危機感を持たざるを得ない時代に突入していることを認識しなければならないでしょう。
○ナレッジ重視型企業
IT革命は資本力の乏しい新規企業やニッチ企業を世界の電子市場に躍り出ることを可能にしました。資本力だけに頼った従来のビジネスモデルは競争優位性を失ってくる時代になってきています。アウトソーシングとコア・コンピタンスの絶妙なバランスを経営の基本軸に据え、インターネットを事業の推進力に組み込めるナレッジ重視型の企業は21世紀をリードしていくe カンパニーとして勝ち組の土俵に残れるでしょう。最小の経営資源で最適化を図り、企業付加価値の最大化をいかなるビジネスモデルによって実現していくかという問いに明確なビジョンと実践力で答えうる経営者のみが資本市場で高い評価を受けることができるでしょう。
○購買行動の変化と顧客起点ベクトル
一方、消費者と企業の購買行動は大きく変わりつつあります。インターネットで、製品や商品・サービスを選択・注文するのは利便性・コストの優位性から、購買スタイルとして定着してくるでしょう。このような顧客の変化の方向を機敏に捉え、顧客を起点ベクトルに据えた企業の業務プロセス、バリュー・チェーン(価値連鎖)にデザインシフトしていくことが新世紀型のビジネスモデルを追求していく基本的アプローチといえるでしょう。
すなわち、従来のようにメーカ主導型の製品ありきの発想から脱却し、顧客ニーズを徹底して把握し、そこを起点にして業務プロセスをデザインするやり方への転換です。
顧客へのサービス、顧客に到達するまでの物流、販売、生産、材料調達、製品設計、製品開発というように、源流に遡って、従来の業務プロセスの流れを逆転させて顧客の視点からビジネスモデルをデザインするというアプローチが重要です。
○ITマネジメントにおける視点とアプローチの転換
このようなビジネスモデルを実現するためには、ITマネジメントはいかにあるべきでしょうか。限られた経営資源の中でいかにITを活用して、あるべきビジネスモデルをデザインしていくのかを検討していくうえで、従来のITマネジメントに取り組むときの視点とアプローチの基本的な有り方の転換を図っていく必要があります。具体的なところは次章以下で明らかにしていきますが、ハイパーエンジニアが目指すべきITマネジメントはコスト、品質、スピード、インターフェースの視点から戦略的かつシステム思考的な発想で情報化アプローチを検討していくことがポイントになります。従来、モノつくりの視点は品質、コスト、納期の枠ぐみの中でビジネスが行われてきました。
しかし、IT革命時代においては、ビジネスに求められる最重要なファクターはスピード、及びインターネットを介して生まれるサイバービジネス空間における金、モノ、情報の流通性を決定するインターフェースの視点にシフトしてきています。製品やサービスにおける品質、コストはeビジネスの土俵に参加するためのパスポートとして企業が当然に備えるべきものという位置付けになって来ています。とくに、品質においては企業活動における事業リスクが多様化・複雑化する中で、製品やサービスを輩出するバックボーンとしての経営品質のレベルが問われてきています。
ITエンジニアは、従来型のITマネジメント取り組みの視点からの脱却を図り、戦略的視点からITを経営に深く浸透させることができるようなITマネジメント能力を身につけていく必要があります。
そのためには、問題及び課題発見型のITソリューションを経営的視点から駆使できるスキルが要求されます。MBAのシステム的戦略思考による発想力のレベルがITエンジニアの資質の評価基準として重要なファクターとなってくるでしょう。
―なぜIT化は失敗するのか
○戦略の運命共同体
それでは、ビジネスモデルの再構築や革新をどのようなアプローチで取り組んでいけばよいのでしょうか。ここでは、ビジネス活動におけるマネジメントおよびITマネジメントの2つの視点からIT化が失敗に帰する要因を検討してみましょう。
情報化戦略はビジネスモデル特許が情報技術(IT)を活用した新規性のあるビジネスを対象としているという意味で、事業戦略に沿って、創造的なビジネスモデルをIT化でいかに実現していけばよいのかがポイントになります。特に、インターネットの活用における新規性のある仕組みが特許になるかどうかのキーになります。
情報化戦略は事業戦略、経営戦略と連動し、整合性をもたなければ、トータルとしての経営効果は期待できないでしょう。これらすべての戦略は運命共同体といえるものです。いずれかが欠けたり、整合性が不充分な内容では、組織内部要因あるいは競合や技術革新、事業環境変化の外的要因によってビジネスモデルは音を立ててその基盤から崩れていく弱さを内在することになります。
逆に、これらの戦略がうまく連携すれば、競合の企業に対する競争優位のみか、業界構造の創造的破壊による独占的ポジションの確立、新規のビジネスの創造さえ可能にするチャンスが狙えることも忘れてはならないでしょう。
○情報の共有化と組織力学
情報の共有化・シームレス化を進めていく上で、組織・部門間・協力会社間及び顧客との壁を取り除かなければ、情報の流通機能は作用せず、情報システムが孤立化して、いわゆる離れ小島の集まりの現象ができてしまうことになります。情報化を進める際、組織力学のアンバランスの問題は最も力点をおいて、十分な内外の組織・部門間のコンセンサスのもとにトップダウンで解決しておくべきものといえます。ここで、ハイセンスなプロジェクトマネジメント能力が問われるのはいうまでもないでしょう。
○システム的戦略思考の重要性
いっぽうでは、現場の声高なニーズに振り回されて部分最適に陥っていた従来の情報化のアプローチからの脱却を図っていくことが重要です。マクロ的かつ鷹の目の視点で、全体最適化の企業活動のデザインをイメージできなければ、スピードとコストの追求は難しいでしょう。
経営に深く関わってきている情報化において、システム的な戦略思考が特に重要です。米国の戦略の権威であるマイケル・ポーター氏は、戦略とはいかに競合に対し差別化を図れる競争優位なポジションを築きあげられるかをデザインすることであると言っています。競合に対し差別化できない情報システムは、負の遺産となるだけなのです。すなわち、システム思考による斬新なアイデアを情報システムに組み込み、ビジネスモデル特許で独占的ポジションを構築することが、経営的に競争優位に立つためのインフラ基盤の確保につながります。
特に、企業にジャストフィットした経営管理手法を戦略的に導入・活用し、情報システムと連携させて、企業活動の仕組みそのものの戦略的ブラッシュ・アップを図っていくことが極めて重要です。いわゆる情報部門任せにしないユーザー参画型の環境作りが情報化の成否を決めるといえるでしょう。
○システム導入後の効果チェック体制の整備
ここで見落としてはならないポイントは投資の狙いと情報システムの立ち上げ後の効果検証の組織的かつ継続的なフォローです。
キャッシュフロー重視の経営の実践においては、経営効果を全社的にオーサライズされた客観的評価尺度で継続的にチェックする組織的な取り組みが不可欠です。当初の狙いに対して、達成できたところと達成できなかったところを明確にし、トップ及び関連部門を入れて、議論・反省を行ったうえで、システムの改善や運用方法の在り方の見直しを徹底することが重要です。情報化で失敗しているケースでは、この視点を忘れて、現場任せで、情報システムの絶えざる改善のサイクルができあがっていない企業が多いといえます。
業務プロセス、組織構造、及び情報システムが事業環境の変化に追随して柔軟に変身を不断に図っていける仕組みが整備されているか、情報化の成否を決める重要なファクターはここにあるといえるでしょう。
―ITマネジメントのための経営における基本概念とは
○WIN−WINの構築
ビジネスモデルの再構築や革新を推進していく前提条件として、組織や内外の関連する企業の垣根を越えた全体最適化の視点でビジネスモデル戦略を明確に打ち立て、全社的な共有化を図る体制作りが必要不可欠といえるでしょう。いわゆる企業間のB to B (BUSINESS TO BUSINESS)電子商取引のサプライ・チェーンをWIN-WINの関係で構築し、自社とサプライヤー(調達先)が相互のメリットを追求していくことが重要です。それではビジネスモデルの創造を目指した情報化戦略について考えてみましょう。
○オペレーション・マネジメントの最適化
情報化の究極の目指すところは、ビジネスモデルの創造や革新を通じて、経営資源の最適化、コアコンピタンス(核となる競争力)の強化、競合優位の確立、顧客満足の最大化と収益力の強化を実現していくことであるといえます。
経営とは、インプットとしての経営資源の最適化をいかに図り、アウトプットとしての企業の付加価値の最大化を実現すればよいのかという課題を、最適なマネジメントによるオペレーションをデザインし、実践を通じて解決していくことです。
企業活動における人材、運転資金としてのキャッシュ、製品材料、生産のための設備、そして、それらをコントロールするためのベースとなる知識、ノウハウ、情報がインプットとしての経営資源です。一方、企業活動におけるアウトプットは顧客満足の最大化を目指すことであり、コストの最小化による企業収益大化のリターンが企業存続の条件です。
ここで、最小限の経営資源のインプットに対する企業活動の結果としてのアウトプットの最大化をいかに実現していけばよいのかが情報化に与えられるべき課題といえます。オペレーション・マネジメントにおける最適化と競合に対する差別化を図っていくためには、人材・組織の見直しが重要であり、業務プロセスの革新も視野にいれなければなりません。企業付加価値の最大化達成の成否は、最適なバリューチェーンの再構築をいかに計画し、実現できるかにかかっているといえるでしょう。
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バランス・スコアカードとは?
バランス・スコアカードでは、顧客の視点、財務の視点、内部業務プロセスの視点、学習・成長の視点からなる、バランスの取れた4つの視点で、企業戦略を検討します。
□バランス・スコアカード(BSC:Balanced Score Card)
バランス・スコアカードとは、経営戦略の立案を支援する手法です。ずばり、バランスの取れた4つの視点で経営のチェックをスコアカードで評価しようとするものです。
バランス・スコアカードは、戦略的マネジメントツールとして、米国のハーバード大学教授Robert E.Kaplan氏とコンサルタント会社社長David P.Norton氏によって考案されました。
バランス・スコアカードの手法は、1992年に世に出て、米国や欧州の大手企業で実績を積み、現在の隆盛をもたらしています。米国では、一般企業をはじめ、役所や病院など、公共分野でも数多く導入が図られてきています。日本企業においても、経営品質を向上させるための効果的な経営改革のための手法として多くの企業が導入してきています。
バランス・スコアカードでは、ビジョン・戦略の明確化を図ることで、全員参加型で戦略志向の組織を構築することが期待できます。バランス・スコアカードでは、経営戦略の立案を支援するために、大局的な発想力と全員参加による総力戦を重視します。すなわち、経営トップから、事業部門長、グループリーダー、一般社員までが、経営ビジョンを実現するために各階層レベルにおける戦略を練ります。ここでは、鳥瞰的な戦略マップというものが作成され、経営的視点として不可欠な4つの視点からなる評価によって、目標と達成度合いのギャップを数値で把握します。4つの視点とは、?財務の視点、?顧客の視点、?内部業務プロセスの視点、?学習と成長の視点からなります。ここで、長期的志向の経営を評価するための非財務的視点とは、?顧客の視点、?内部業務プロセスの視点、および?学習と成長の視点を指しています。
以上のように、バランス・スコアカードは、9つのファクターからなる多角的な戦略マネジメントに特徴があると言えるでしょう。9ファクターとは次の視点です。
・6つの時間軸:短期、長期、過去、現在、未来
・4つの視点:顧客、財務、業務プロセス、学習・成長
経営手法には様々なものがありますが、その多くは、一時の流行に流され、企業にとって本当の意味での経営改革、ビジネス改革につながるものは少なかったといえます。
バランス・スコアカードは、米国や欧州における数多くの企業や公共団体のビジネス改革の現場で実績に裏打ちされた経営手法といえます。その基本概念は、シンプルなものですが、企業経営を全体最適でカバーできる唯一の経営手法として、大きく進化し、オールラウンドプレイヤーとして脚光を浴びています。
当時、1980年代の米国では、財務の視点に偏りすぎた短期的志向の経営が産業界にまかり通っていました。そのため、長期的視点を中心とした日本の製造業に席巻され、企業経営の活力を失いつつあった米国企業は、産業競争力の回復に国家を挙げて取り組み始めていました。このような中で、Robert E.Kaplan氏らは、米国産業の衰退の要因分析を徹底的に行いました。この結果、米国企業の経営の活力を奪っているのは、当座の決算書をとりつくろう過程で将来を抵当に入れてしまう、短期的視点の財務偏重型経営であることを発見しました。長期的価値を生み出すために今日、企業は何をしなければならないかという視点が米国の企業経営者には欠落していたともいえます。ここには、会社は誰のものかという問いに対し、ずばり、株主のものであるという米国流の考え方が長期的視点を奪っていたともいえます。
バランス・スコアカードは、このような背景の中で、短期的志向の視点ともいえる財務の視点だけではなく、非財務的な長期的視点を取り入れて企業経営を評価するというフレームワークを提供するものとして編み出されました。顧客やステークホルダーに対してどのように企業は行動すべきか、競合に対しどのような業務プロセスに優れるべきか、そのために人材能力をいかに高め、ビジネスの変革を進めていくべきかという、企業戦略における基本的視点のパラダイムシフトを、Robert E.Kaplan氏らはバランス・スコアカードによってもたらしました。
さらに、IT技術革新の視点からバランス・スコアカードの出現について考えてみましょう。従来の企業改革は、部分最適のアプローチが主流の考え方であったといえま
す。その背景には、IT技術の限界がありました。現在、インターネットの世界的普及とパソコン・携帯電話を含めた情報技術革新が起爆剤となって、情報の共有化手段は飛躍的に進歩しました。このITパワーは、企業のビジネス改革において、部分最適の発想から全体最適による企業改革の発想にシフトさせる大きな牽引力になりました。バランス・スコアカードでは、全員参加により、戦略マップを組織階層ごとに作成する仕組みによって、シームレスかつ鳥瞰的な戦略経営が可能ですが、ここでは、全員参加による情報の共有化や、ビジョンおよび戦略の共有化を促進させるITインフラの存在が大きなパワーを発揮しているのです。
全体最適という言葉は、SCM(Supply Chain Managementの略。取引先との受発注、調達、製造、在庫管理、物流でサプライヤーと消費者に関わる製品やサービスの流れを統合的に一元管理する経営手法)という経営手法により、部分最適に対峙する経営用語として、よく使われています。ここで、全体最適と部分最適の意味するものはなになのか、考えてみましょう。
部分最適とは、企業についていえば、自部門や、自分が属している事業部のことだけを考えて、会社全体でどうなのかという視点で考えないことをいいます。協力会社とその親企業との関係でこのことを考えてみると、自社のメリットばかりを追及、あるいは主張して、協力会社のメリットや利益のことを考慮しない状況が、部分最適に陥っている企業といえます。部分最適では、有益な情報や経営資源は、力の強い部門や事業部に偏在し、会社全体としてみると、非常に非効率な経営資源の使い方をしていることになります。ある事業に参加する関連部門や協力会社は相互にビジネスに関係する情報は迅速にオープンに共有し合い、あたかも同じ屋根の下で共同事業体として一体のビジネス活動ができる状況が、全体最適というものです。
このように全体最適と部分最適では、ビジネスを進める視点がまったく異なってきます。ビジネスに関わる生産情報や顧客情報、製品情報、さらには、今後のこれらの動向に関する情報などを関連部門、関連企業全てがネットワーク経由で共有できれば、ビジネススピードは一気に加速化されます。ビジネスに役立つ情報が豊富に入れば、当事者は生の鮮度の高いビジネス情報によって、ビジネスのリスポンスがスピーディになります。
バランス・スコアカードはなぜ4つの視点なのか
では、なぜ、この4つの視点が有効であるのかを考えてみましょう。しっくりいかないことは早めに理解しておかないと、本書を読みすすめられなくなってくるでしょう。
□バランス・スコアカードの財務の視点と非財務の視点がなぜ4つなのか
バランス・スコアカードは、財務の視点に対して、顧客の視点、内部業務プロセスの視点、および学習・成長の視点は非財務の視点といえます。これら4つのバランスの取れた視点で全体最適の企業活動の仕組みを追及していく経営手法です。
ここで、4という数字の持つ意味を考えてみましょう。テーブルや机など、重量がかさむものは、すべて、4つの足で支えられています。これが3つの足になった場合、テーブルや机はバランスを崩して、倒れてしまいます。5つの足になった場合はどうでしょう。テーブルや机に5つの足があっても、そのうちの1本は、コストパーフォーマンスの観点からみれば、不要なものといえます。4つの足があれば、十分にバランスが保てるからです。見栄えもあまりよくないかもしれません。
このように、4という数字はモノのバランスを保つのにとてもマッチした数であることがわかるでしょう。そうなのです。バランス・スコアカードの4つの視点は、企業経営をチェックする上で、必須の最小限の視点で考案され、十分なチェック機能を発揮するものなのです。
ここでは、バランス・スコアカードの4つの視点がもつ連鎖というものを考えてみましょう。連鎖とは、原因と結果の関係のことであり、Why(なぜ・・・なのか)、Because(なぜならば・・・だから)、あるいはHow to Do(そのためにはどうすればよいか)の繰り返しという流れで物事のつながり(連鎖)を考えていくことをいいます。
たとえば、こんなケースを考えてみればよくわかるでしょう。ビジネスはなぜ成り立つか。すなわち、顧客があってのこそです。いくらいい製品やサービスを提供できる会社であっても、顧客をつかむことができなければ経営は成り立ちません。先ずは、顧客の視点がビジネスのスタート地点になります。
次に、顧客のニーズに応えるためには、いかにコストを下げて、売値を抑え、市場
価格にもっていけるかというビジネスプロセスが要求されることになってきます。バランス・スコアカードでいう内部業務プロセスとは、経営品質を上げていくためのビジネスプロセスの改善活動ということになるわけです。企業内部で、効率の悪い製品の作り方をしていれば、それは、コストアップにつながってきます。あるいは、製品に関与するビジネスプロセスにムダが多く、ビジネス情報が整理されず、一元管理がなされていないケースでは、いわゆるビジネスのオペレーションズ・マネジメントもレベルが下がってきます。内部業務プロセスの視点では、いかに早く安くグッドな品質の製品やサービスを提供できる企業活動の仕組みをデザインできるかということがポイントになります。ここでは、競合他社に対してビジネスプロセスが優れているのか劣っているのかといった評価も必要です。競合に勝ってこそ、市場におけるシェアの確保が保障され、ビジネスが成り立つからです。ベンチ・マーキングという手法があります。これは、競合と自社を多角的にビジネスのやりかたを比較、分析して、企業体質の通知簿を作成し、強みの強化を図り、弱みを強みに変えていく戦略を練る方法です。
以上のようなエクセレントな内部ビジネスプロセスを実現していくためには、その主役たる人材の能力のレベルアップを図り、ビジネスの実践の現場で、実力を発揮できなければなりません。すなわち、能力が不足していれば、スキルを磨くために、組織的な学習が必要になってくるわけです。これにより、人材の成長を図り、ビジネスをリードしていける経営資源が揃うわけです。すなわち、学習と成長の視点は、ビジネスを牽引する人材を評価する必須の視点になります。
最後に財務の視点というものは、ビジネスの究極のゴールです。顧客は見つかった、内部業務プロセスもすばらしいものだ、そこに存在する人材も申し分ない、ところが、ビジネスがいっこうにうまくいかない、すなわち、働いても働いても儲からないという会社も世間には多いものです。ここでは、財務体質の弱さが悪さをしているのです。
例えば、借金経営の会社では、儲けたキャッシュ・フローが全て有利子負債の返済に回り、利益を食いつぶす悪循環に陥ってしまうことになります。儲けた利益が企業内に蓄積され、社員、株主に還元されてこそ、会社の社会的責任が遂行され、社会的存在感が増すのです。このように、財務の視点では、企業が儲かっているのか、信用不安はない状況かといったチェックが不可欠になります。
ただし、バランス・スコアカードにおいて採用すべき視点は、4つでなければならないというものではなく、たとえば、地球環境重視が企業経営の根幹に関わるような製品を市場に提供している企業では、環境重視の視点というものを付け加えて、5つの視点でバランス・スコアカードを検討することもできます。あるいは、ブランド重視の企業戦略を進めている企業では、ブランドという視点を4つの視点に付け加えることもできます。あるいは、ステークホルダー重視の企業経営を行っている企業では、ステークホルダーという視点も追加すべきということになります。ここは、企業の事業特性や、企業を取り巻く環境要因によって、バランス・スコアカードを構成する視点の数と、企業戦略から判断したそれらの優先順位付けには様々な選択肢があるということなのです。
財務会計と顧客の2つの視点は、ステークホルダー(利害関係者)の視点に基づくカテゴリーです。財務の視点では、企業の事業の成長性や利益率、キャッシュフローの向上を狙った情報システムを構築する必要があります。ここでは、企業活動の経営目標として、経営目標達成指標(KGI:Key Goal Indicator)が設定されます。バランス・スコアカードのスコアカードがKGIを指しているのです。企業の経営レベルの通知簿ともいえるものが、スコアカードです。
顧客の視点では、業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)として、自社製品やサービスに対する市場占有率(市場シェア)、顧客定着率、新規顧客獲得率、製品別顧客別利益率などの向上を追求します。その企業が顧客ニーズをいかに具現化しているかを評価するためには、市場占有率を見れば一目瞭然です。市場シェアが大きければ、顧客に支持された製品・サービスを世の中に輩出できる魅力のある企業として評価されている証となるからです。顧客定着率が低ければ、その製品は品質が悪いため、顧客離れを起こしているかもしれません。あるいは、製品のサービスレベルが低下していることが顧客定着率の低下の原因となっているかもしれません。新規顧客獲得率についても全く逆の立場から、同様に考えることができます。
内部業務プロセスの視点では、顧客に優れた製品・サービスを提供し、株主に利益還元できる企業体質の強化を目指す必要があります。経営ビジョンに基づく戦略目的を達成するために最適な業務プロセスをスコアで評価します。一般的には、品質、コスト、納期、新製品導入率などで評価されます。品質では、製品の不良率がアップしていないかといったことがチェックされます。コストでは、コストアップを招いていないか、コストの低減の努力を継続しているかといった点を評価します。新製品導入率とは、人材や研究開発、設備投資に大きな経営資源を投入しているにもかかわらず、いっこうに新製品が出てこない状況であれば、その企業は、内部業務プロセスが空回りしているということになります。つぎ込んだ経営資源に見合うアウトプットとしての新製品が輩出される、企業活動のサイクルが実現してこそ、優れた内部業務プロセ
スが成立していると判断できるからです。ここでは、情報システムが情報・ノウハウの共有化を促進する役割を担います。
人材は、人財ともいわれ、無形資産(Intangible Asset)を生み出す源です。ブランド価値や特許、ノウハウなど、すべて、優秀な人材によって創造され、企業の競争力に不可欠なものが人材というものです。学習と成長の視点は、組織の長期的成長に必要な基盤を指します。①人材、②情報システム、③モチベーションやエンパワーメント(権限委譲)から構成されます。
バランス・スコアカードでは、人材の育成を図ることで、優れた内部業務プロセスを改善できる基盤が整備されます。組織としての学習効果を高め、成長を目指すためには、組織を構成する人材のモチベーション(動機付け)を高め、日々の業務に対するやりがいや達成感を味わえる企業風土の醸成が不可欠といえます。リーダーシップが組織の活性化とメンバーの能力発揮にはなくてはならない推進力の役割を担います。エンパワーメント(権限委譲)の仕組みにより、若手メンバーの潜在的能力を発揮させ、組織として活性化された状態に持っていくことが企業成長には不可欠です。
内部業務プロセスが改善されれば、顧客志向のビジネスを展開していくことにつながります。そして、企業収益の向上が見込め、財務の改善を図っていくことができます。財務体質の強化によって獲得した利潤は、新たなる人材の学習と成長に向けての投資につぎ込むことができます。4つの視点はこのように相互に連環を保ち、好循環のサイクルが形成されます。このような4つの視点の好循環のつながりがバランス・スコアカードでいう「戦略マップ」のストーリーの基本構造です。
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ピラミッドとプロジェクトの意味するものとは
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- 作者: 藤井智比佐
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□プロジェクトはナレッジの結晶体
古代ピラミッドの構築プロジェクトでは、目的の品質とコスト、納期を達成するためには、建築技術、土木技術、資材を調達するためのロジスティクス技術、天文学、数学など、各種の基幹技術や学問の専門性が要求されたことでしょう。
多くの労働者や技術者、専門家を効率よく配置し、個々人の技量を最大限に発揮させるには、優れた統率能力と、緻密な計算能力、壮大な構想力を兼ね備えたリーダーが存在したと考えられます。古代、様々な国家レベルのプロジェクトが世界中で行われてきたことでしょう。
その中には、失敗したプロジェクトもあれば、様々な困難を乗り越えて成功に導いたプロジェクトもあったことでしょう。歴史に残る名プロジェクトとして、後世に言い伝えられるプロジェクト案件を経験してみたいと望むものでしょう。
いずれにしても、職業人としてのいきがいや、やりがいにつながるようなプロジェクト活動でありたいものです。熱砂の砂漠に立つ岩石の集積体であるピラミッドの威容と均整の取れた景観には、圧倒されるものがありますが、そこには、緻密に計算され尽くした人間の叡知とエネルギーの結晶が今も息づいています。
プロジェクトは、ある意味で、均整の取れたナレッジの集積体と言えなくもありません。プロジェクトとは、クライアントの目に見えないニーズをシステムのハードという目に見えるオブジェと、目に見えないソフトというナレッジの集積体に変換する仕事といえます。
いわゆる有形資産(Tangible Asset)と無形資産(Intangible Asset)の集合体と言えなくもありません。ピラミッドでは、様々な寸法と重量を持つ岩石を緻密な立体強度計算によって適正な位置に配置することで、総体としてのピラミッドが形成されています。ピラミッドを構成する無数の岩石は、システムのソフトを構成する数多くのモジュールにたとえることができます。
ひとつひとつの岩石の存在は、ピラミッドを眺める旅人から見れば、点の存在にしか見えないでしょう。しかしながら、ピラミッドを構成するこの点に過ぎない一つ一つの岩石は、ピラミッドにとってなくてはならない存在であり、それらの幾つかが破壊されたりすると、徐々にピラミッド本体を崩壊に導く遠因にもなりかねません。システムのソフトを構成する個々のモジュールもピラミッドの岩石と同じような役割を担っているといえます。
システムのソフト機能を支える個々のモジュールは、あるべき機能を発揮することで、その存在価値が明確になります。いっぽう、品質に問題があるソフトのモジュールは、システム全体に侵食を繰り返し、場合によっては、システム全体を崩壊に追いやる事態に発展させることもあります。
プロジェクトリーダーは、メンバー個々人の能力が、組織のチームワーキングの結果として総体的に発揮されなければシステムは機能しないということをよく認識することが大切です。
プロジェクトでは、予期しない様々なリスクに見舞われます。困難に直面した時に最初に行うべきことは、自己能力の確認と、不足する能力やパワーに対して支援を仰げそうな上司やメンバーなど、周りのマンパワーをいかに取り込むかということです。自己の力と周りの力を掛け合わせることで、相乗効果が発揮できます。場合によっては、自ら新しいストリーム(流れ)を作り出す努力も必要です。困難なストリーム(流れ)は、自らの意思で変えていかなければ、難局を乗り越えることはできません。
情報コントロールパワーとコミュニケーション
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- 情報コントロールパワーとコミュニケーション -
ここでは、情報コントロールとコミュニケーションについて考察し、文章表現やプレゼンテーション及び図解表現の基本的テクニックを理解します。
■ クライアントニーズに対応できるコミュニケーション能力のポイント
クライアントのニーズを把握するためには、クライアントの現場の実態を正確に把握し、現場の業務が理解できなければなりません。
□ 現場業務ヒアリング時には相手の事情・背景を十分に把握する
クライアントニーズに答えうるシステムを構築するには、いかにクライアントの要望を聞き出し、いかにわかりやすくかつ正確にシステム開発側へニーズを伝達できるかという情報コントロール能力とコミュニケーション能力の発揮がポイントになります。ここでは、まず、「聞く」「話す」「書く」というコミュニケーションの基本的スキルの向上を図る必要があります。特に、プレゼンテーション能力は、システムが完成するまでは形のない実体をいかにクライアント企業のトップや管理者に理解してもらうかという点で、重要な表現手段となります。
システムの要件を定義するためには、クライアントの現場における調査・分析を行う必要があります。ヒアリングでは、なぜ、そのような業務が存在するのか、他のもっとよい方法はないのか、その業務は、付加価値を生み出しているのか、といった切り口で、現場業務の実態にメスを入れる必要があります。現場業務に精通するためには、対象とする案件の業界知識や慣習、企業文化などを十分に理解しなければなりません。その業務が存在する背景をじっくり探るスタンスがここでは要求されます。
事象の背景には、幾層もからなる、そのクライアント企業の文化やルール、慣習などが足かせとなっている場合も多々あります。現場業務を単なる合理的な発想のみで判断すると、それに慣れ親しんだ現場からの反発を受けることもあり、注意が必要です。業務改革の視点は、情報化では重要な武器となりますが、クライアント企業の文化や既得権の構図などを無視して、ダイレクトに現場業務に批判的な発言を繰り返すと、クライアント企業とITベンダー間での信頼関係が損なわれることが往々にして発生しがちです。現場でのヒアリングでは、相手の事情を配慮した細心の注意が望まれます。
□事実と価値判断は明確に分別する
しかも、ここで、留意すべきことは、現場で収集した情報は、事実なのか、あるいは、事実に様々な価値判断の混ざった情報なのかという点を見極める能力を発揮することが不可欠であるということです。この点は、情報コントロールの要ともいえるものです。事実=ファクト(FACT)であり、情報の中から事実を的確に掴み取ることができないと、システムの要件定義に後々、大きな影響を及ぼすことになります。誤った情報の蓄積をもとにして、システム要件の定義を行ってしまうと、ものはできたが、クライアントのニーズや現場の実態を反映できないシステムができあがってしまうことにもなりかねません。
特に、ヒアリング時に、専門外の経営用語や業務用語がクライアント側の担当者や経営者から飛び出してくると、SEは、話を聞いているうちに、クライアントの話す内容が理解できず、場合によっては、自分の乏しい知識で、勝手な解釈をしてしまうことがよくあります。
このようなケースに直面した場合は、まず、事実かどうかを相手のクライアントにしっかりと確認するとともに、意味の不明な用語は、ノートに書き留め、クライアント側の担当者や経営者に繰り返して質問する勇気も必要です。意味のわからないまま、ヒアリングを続けていると、相手のクライアントはわかったものと思い込んで、双方のコミュニケーションギャップが次第に大きくなり、暗黙のうちに取り返しのつかない状況に追い込まれてしまうこともあります。
□情報共有化におけるルール化のポイント
いっぽう、ヒアリング時に収集した現場情報は、しっかりノートに書き留め、図表化し、体系的な情報の蓄積と管理を図る必要があります。項目間の特徴や相違する点を明確にしたり、注意すべき事項は太字や赤字で強調し、メンバー間で活用しやすい情報加工を施す工夫も大切です。
ただし、ここで、勝手な解釈や価値判断を加えた情報に加工してしまうと、かえってこれらの情報を閲覧する他のメンバーに謝った判断や情報を与えるリスクにもつながりかねません。情報の共有化においては、事実(ファクト)と価値判断は明確に分別して表現して、情報管理を行う仕組みをメンバー間で、ルール化し、徹底を図らなければなりません。
これらのヒアリング情報は、電子化を図り、チームのメンバー間で共有する仕組みも不可欠といえるでしょう。いつ、どこで、だれと、なにを目的として、どのような情報を収集したのかということをフォーマット化して、情報管理の徹底を図ることがプロジェクトのナレッジ・マネジメントには要求されます。
- プレゼンテーション能力を磨くスキル-
ここでは、SEがクライアント企業の経営トップや幹部、管理職のメンバーの前で効果的なプレゼンテーションを行うための基本的スキルをマスターします。
□プレゼンテーションの準備手順
効果的なプレゼンテーションを行うためには次のような適切な準備が必要です。
話の筋立てには、序論、本論、結論からなる三段論法の方法があります。
□ 効果的な話し方と発問及び応答のテクニック
取り上げる事例は身近なわかりやすいものを具体的に説明することが必要です。実体験にもとづいた裏付けのある事例は説得力があり,効果的です。話す内容には重複がないように要点をおさえ,筋立てをはっきりとしておきます。あいまいな表現やまわりくどい説明は避けます。話し方の基本と効果的な説明のテクニックとして、次のような内容に留意することが必要です。□ 発問の方法
話し手が聞き手に質問を投げかけることを発問と呼んでいます。聞き手を話しに巻き込んだり,興味をもたせるために有効な方法です。
発問の種類 特 徴
①指名発問 回答者を指名して質問。
②リレー発問 座っている席などの順番に質問
③全員対象発問 聞き手の全員に考える時間を与えた後で,指名して回答。最後に回答が他にないかを全員に確認。
④自問自答型発問 一旦問題を出して,間をおいてから話し手が答えをいう。
⑤投返し発問 質問の意味が不明または主張による質問がある場合に,再度質問させたり,主張を述べさせる。
□質問や意見への対応の方法
質問や意見への応答のテクニックには次のものがあります。